8月30日の「NHKスペシャル」(NHK総合)で衝撃的な特集が放送されていた。「老人漂流社会『親子共倒れを防げ』」というもので、これがまた極めて痛切なものだった。
番組ではまず、国の調査データが紹介される。親と同居している、35歳から44歳までの未婚者の推移で、1980年には39万人程度だったものが、その後徐々に右肩上がりとなり、2012年時点では305万人にまで増加しているというのだ。(文:松本ミゾレ)
息子が居なくなれば、生活保護が受けられる、けれども……
しかも、この305万人のうち、全体の10.4%が失業状態で親と同居しているとも説明された。つまり、現状仕事も収入もない状態で、高齢になり年金を受給している両親と同居しているということになる。
背景にあるのが長期的な不景気だ。働く世代の平均所得は、ここ15年で100万円も低下してしまった。非正規雇用も増え続け、改善される見込みがない。そのため、1人で生活することができなくなった人々が、自分の親と一緒に生活をするというケースが、各地で増えているようだ。
しかし、そのために親子が深刻な生活苦に陥るケースが出ているという。札幌市在住のYさん(男性)は、現在80歳。年金は毎月9万5千円程度で、今年の春までは生活保護を受給して、これによって医療費扶助、家賃扶助などの恩恵を受けていた。ところがその後、45歳の息子が仕事を失って東京から戻ってきたために、保護が打ち切りとなってしまったのである。
息子は非正規雇用の職場に通っているが、仕事は不定期でしか入らず、しかもその仕事先とも雇用が打ち切りになることが決まっている。息子が帰ってきたことで、安田さんの毎月の負担は、およそ3万円ほど増えてしまった。それでもYさんは、息子と居たいと話す。
理由は、以前脳梗塞を患ったことで、1人での生活が難しくなったことにあるという。
「息子が居なくなれば、生活保護が受けられる。でも、脳梗塞をしているので、1人では不安。本心から言えば、息子に居てもらいたい」
10年後には親子共倒れ、分かっていながら放置する行政
番組は、別の家族にもスポットを当てている。Kさん夫婦は、毎月の年金があわせて12万円。子供は2人いるが、どちらも30代後半で非正規雇用だという。夫婦ともに、現状について悲痛な声を上げる。
「悲しいながらも生きていかなければいけない。生きている以上は」
お金が全くなくなる夢を見ることもあるということだ。観ていてこれほど切なくなる番組もなかなか多くない。恐ろしいのは、取材されていないだけで、こうした世帯が全国各地にあるということだ。
番組では、放送大学で家族社会学を専門とする宮本みち子教授がこう話している。
「およそ20年の景気低迷の総決算。先ほどの家の様子を見ると、あの状態が10年続けば共倒れになってしまう。行政が、税金でサポートしなければならない時代になると、分かっていながら放置しているのが現状」
未だに抜け道の見えない、景気の低迷。宮本教授の指摘は正しいものだけど、数年以内に改善されることはないような気がする。行政の対応が後手後手に回るのは、いつの時代だって同じだ。
「死ぬ気」で働こうとしない子ども世代が悪いのか
さて、この番組を僕は、知人数名と観ていた。番組が終わったあと、僕はあまりにも気落ちしたので話題を変えようとしたんだけど、同席していた知人の1人が、吐き捨てるように「子供が悪い。情けない」といっていた。
どういうことかと聞いてみると、彼は子供がいつまでも親に心配をかけるのがそもそもおかしい。あの年代になったら、死ぬ気で働いて親を養い、安心をさせるのが道理だという。
そこで僕は「じゃあ、あんたは今現在親に家でもプレゼントした? 月にいくら仕送りしているの?」と問うた。
件の知人は現在30代。もうあと数年で、今回VTRで紹介された世代と並ぶことになるのだが、返ってきた言葉は「まだ家を買うほど貯金はない。仕送りはしない。必要ないから」というものだった。
さて、ここで僕が彼を責めるのは簡単だけど、それじゃこの知人と同じレベルの言いがかりをする人間になってしまう。この知人、いや僕も、本来ならもう少し親を安心させなければならない年代に差し掛かっているのに、未だにそれすらできていないのだ。極端にいえば老後破産を、自分の親にさせないという100%の保証もない。
けれど、僕は不景気なら親と同居すればいいと思う。いくらでも一緒にいればいいと思う。金銭面で親を救うことができないなら、一緒に暮らして恩返しをする以外に、親孝行なんてできないのだし。
どうせ貧乏をするなら、別々に暮らすより一緒がいい。老後破産が今後増えていくのなら、行政が手を打つまでにいかに凌ぎ切るかが僕ら世代の課題になるはずだ。
あわせてよみたい:若者の生態を描き出す「ニート川柳」