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「カルピスのCMの女の子」黒島結菜の可能性ーーその演技を支える“色のある透明感”とは?

2015年09月03日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)映画『at Home』製作委員会

 2015年も3分の2が過ぎて、今年最も躍進した若手女優は誰かと考えるとき、深く思いを巡らせるまでもなく、真っ先に黒島結菜という名前が挙がる。


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 つい去年まで、彼女を知っている人はそれほど多くはなかったであろう。しかし今では「カルピスのCMの女の子」だと言えば、Mr.Childrenの曲に合わせ、カルピスウォーターを飲む彼女の姿を思い出すことができるだろう。


 内田有紀の「カルピスウォーターは好きですか」のCMの印象がとびっきり強く、カルピスといえば夏、という刷り込みがどうしてもあるがゆえに、風鈴に囲まれた彼女の姿と「僕の夏が、今はじまった」というキャッチコピーが流れる今夏のバージョンは近年のカルピスのCMの中でも鮮烈な印象を受ける。


 彼女が芸能界入りしたのは、ウィルコム沖縄のイメージガールコンテストで「沖縄美少女図鑑賞」を受賞したことから始まる。「沖縄美少女図鑑」といえば、二階堂ふみを輩出したことでも知られており、当のコンテストのグランプリ受賞者を差し置いてのこの急上昇ぶりは、所謂美少女コンテストにおいては定番のことである。


 注目を集めるきっかけとなったのは、2013年の暮れから流れ始めたdocomoのCMで、イルミネーションの前で恋人を待つ少女の姿を演じた。SPICY CHOCOLATEの名曲「ずっと feat.HAN-KUN&TEE」に乗せたそのCM、そして同曲のMVにより、一躍今をときめく正統派美少女への一歩を飾ったのである。


 ずば抜けた美人というわけでもなく、かえってまだあどけなさの残る素朴なルックスでありながら、急激にそのキャリアを伸ばす彼女の魅力はどこにあるのか。前述したふたつのCMを見てみると一目瞭然で、どちらもほとんど台詞の無い中で、印象的な楽曲を引き立たせ、それでいて彼女自身も演技において過度な主張をしないながら、画面を見た者の視線を集める力を持っている。そしてその姿だけで、季節感を感じさせてくれるのだから、天才的な演技の素質を認めざるを得ない。よく使われる「透明感」という言葉ほど曖昧な表現はないが、彼女の持つ透明感は、作品の雰囲気に容易に擬態することのできる一方で、決してブレることのない明確な色を持った透明である。


 もちろんそれは台詞のある演技に変わっても同様である。昨年夏に放送された深夜ドラマ『アオイホノオ』で演じた、津田ヒロミという危なっかしいほどに突き抜けた明るい役に心打たれた男子は少なくないはず。と思いきや、そのすぐ次クールに出演した宮藤官九郎脚本の『ごめんね青春!』での芯の強い生徒会長役と、180°違ったキャラクター性を演じきることができるほど、演技の振り幅が広い。そのおかげで、今年は出演映画が6本公開されるという大躍進を遂げたのであろう。


 『ストロボ・エッジ』ではヒロインをめぐる三角関係を切り崩す重要な役割を演じ、『呪怨-ザ・ファイナル-』では1作目からの続投であるが、前作ですでに死んでしまっている設定のため、カラオケボックスで妹役を天井に吊るすためだけに現れる幽霊を演じた。どちらも印象には残りながらも、出番が僅かしかなく、彼女を観るために鑑賞するにも物足りなさが残る。


 しかし、『ストレイヤーズ・クロニクル』ではその鬱憤を全て晴らしてくれる。岡田将生や染谷将太、成海璃子をはじめとした十代・二十代の、間違いなく今後の日本映画界に欠かすことのできない若手役者が総結集した作品で、彼女はほとんど主役と言っても過言ではない、物語の核を演じきってしまったのだ。


 現在公開中の『at Home』は、『ストレイヤーズ・クロニクル』と同じ本多孝好の原作を映画化したドラマで、空き巣で生計を立てる男を中心にトラウマを抱えた者たちが寄せ集められて出来た一家の物語が描かれる。その中で中学生の娘を演じる彼女の回想シーンは極めてシンプルに描かれ、学習机に向かい勉強をしているところにやってきた父親から、耳許で囁かれ、その手が彼女の肩に触れる。次のシーンではもう彼女は駅のホームで通過電車に飛び込もうとしているのだから、それだけで彼女が性的虐待の被害者であるということが、観客に容易に判る。この一連の流れには演出と編集の力があってこそだが、救われた後の気丈な振る舞いの奥に、消えることのない闇を抱えた芝居を、今現在演じることができる十代の女優は彼女以外にいないであろう。


 もっとも、映画になると何故だか影を持つ役ばかり演じている印象が否めない。11月に公開される『流れ星が消えないうちに』で演じる主人公の妹役もまたどこか影のありそうな予感がする。


 来年もまた映画やドラマに引っ張りだこになるであろう彼女が、今後どんな芝居を見せてくれるのか大いに期待が持てる。できれば『アオイホノオ』のような突き抜けた笑顔を、スクリーン上で見たいものである。(久保田和馬)