定年なしで自由に異動でき、4年毎に「社長の椅子争奪戦」を行うなど社員のやる気を引き出し業績アップにつなげている会社がある。
8月20日放送の「カンブリア宮殿」(テレビ東京)は、飲食店向けの厨房機器リサイクルチェーン「テンポスバスターズ」を紹介した。年間16万軒もの店が開業し、同じ数だけ閉店する飲食業界。不要となった厨房設備機器を買い取り補修・清掃、中古品として販売するのが、この会社の仕事だ。
定年廃止で社員の3分の1が高齢者に
開店準備する人に好評な理由は、安さだけではない。資金繰りの相談や集客など、設備だけでなく開店準備全般をサポートすることで絶大な人気を誇る。いまや年商235億円と国内最大で、2位が5億円程度というからほぼ独壇場だ。
創業者の森下篤史さん(68歳)は静岡県生まれ。1971年にレジスター販売の会社に就職し、4年でトップセールスマンになったものの、上層部と対立し解雇される。1983年に食器洗浄機を販売する会社を立ち上げたが、やがて販売数は頭打ち。英会話学校や回転寿司など、7つの事業を開業したがどれも失敗した。
ある日リサイクルショップを特集したテレビ番組を見ていて、ゴミ捨て場を物色する社長の車が高級車だったことに衝撃を受ける。「拾ってきてちょっと磨くだけでベンツに乗れる」と、リサイクル業にとびついた。1997年中古厨房機器に狙いを絞り同社を設立。現在は48店舗、従業員2247人に拡大させた。
テンポバスターズには、社員をやる気にさせるユニークな制度がたくさんある。まず定年がないため高齢者の社員が多い。元教員という72歳の男性は「老人ホームなら金を払って行くけど、ここに来ればお金をもらって世の中に貢献できる」と笑った。
森下さんは定年を取り払った理由を「大手企業ではそうそう高齢者を働かせるわけにはいかない。俺は(大手で)使いきれない高齢者に職場を提供する役だから」と語る。そうしているうちに、社員の3分の1以上が高齢者に。さらに、一度辞めても退職前の待遇で復職できる「バツイチクラブ」なる制度まである。
嫌いだと思ったら「異動」を宣言。出戻りも可能
その他にも、店舗や部署の異動希望は上司を通さなくてもいい。受け入れ先の長が了承すれば異動できる「フリーエージェント制」や、逆に他の店舗に欲しい人材がいれば引き抜くことができる「ドラフト制」などがある。
極めつけは、4年に1度行われる「社長の椅子争奪戦」。なんと社長を社内の公募で決めるというのだ。店長以上なら誰でも立候補でき、目標の達成度や部下の教育力などを審査される。会社の監査役らが採点し、トップだった者が2000万円の年収と社長のイスを手にする。
現在の3代目社長は、2年前に立候補した平野忍さん(44歳)。村上龍は「失敗したら弁解はきかない。ある意味厳しいですよね」と感想を述べた。
こうした制度を設ける理由は、「自分の人生は自分で決めていけ」という森下さんの思いがある。店長も立候補で、転勤も1年働いて嫌なら他の部署に行ける。辞めたければ辞めていいが、その決断が間違っている場合もあるため、出戻りが大量にいる。
「嫌いだと感じる人と、短い人生を一緒に過ごすのは面白くない。だから嫌いだと思ったら『異動する』と言える」
「自分が決めた人生。文句言っちゃいけない」
しかし自由に異動できる分、どこに行っても不満をもつ人が好きなだけ異動を繰り返すことにもなる。そんな人に「納得する上司に出会えるなんてない」と体得するまで教える意味もあるという。
選択権を与えているため、不満を他者に押し付けることはできなくなる。自分で選んだことだから、責任を持って自発的に動くようになるだろう。社長争奪戦にしても、優秀な人材を抜擢できる上、競争させてやる気を煽る仕組みだ。
実にうまく社員のやる気を引き出すシステムだ。「お前が決めた人生だ。だから文句言っちゃいけない」という森下さんの言葉から、そんなことを感じた。(ライター:okei)
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