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園子温が語る、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に負けない日本映画の戦い方

2015年09月01日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

園子温

 エッチな妄想が渦巻く高校生たちの日常を、放送コードすれすれの表現で描き出した大人気テレビシリーズ『みんな!エスパーだよ!』が映画化された。『映画 みんな!エスパーだよ!』は、突然超能力を手にした男子高校生と仲間たちが、「人類エロ化計画」を食い止めるために立ち上がる青春恋愛劇。さらにエロく、さらにバカバカしい劇場版の監督を手掛けるのは、テレビシリーズでも総監督を務めた園子温だ。


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 2014年、既に3本の監督作が公開され、『映画 みんな!エスパーだよ!』公開の後、さらに今年3本の映画を撮るという彼は、いま何を考え、どこへ向かおうとしているのか? 本作がキャリアの一区切りと語る園子温の、ハリウッドに立ち向かうための監督術。(門間雄介)


■「男性が観て、いかにそそるかということに集中した」


――『映画 みんな!エスパーだよ!』は、パンチラも谷間もTENGAも、テレビシリーズよりさらにてんこ盛りになっていた気がします。エロ増量は映画化の狙いのひとつでしたか?


園:そうですね。テレビより規制がゆるくなった分、映画ではスケールアップしようと思いました。というのも、テレビシリーズの時はエロ過ぎて、テレビ東京のお偉いさんに毎回怒られてたんです。バケツを持って1時間廊下に立ってろみたいな。だからチクショーという思いがあったんですね。ところがギャラクシー賞を受賞した途端、掌を返したようにとんとん拍子で映画を作る運びになったので、あんなに怒られたのは何だったんだろうと(笑)。いまは笑い話ですけど、けっこうシビアに怒られてたので。


――ははは。テレビの限界に挑みましたからね。


園:あの時は本当にへこんだけど、ロケーションからキャスティングまですべて関わった総監督として、テレビシリーズの締めくくりをやるべきだなって。でもあらためてエロの世界へ飛び込むのは、清水の舞台から飛び降りるようなもので、そうとう勇気が必要でした。もちろん一度その中に入ってしまえば、「オッパイもっと出せ!」とか言ってバカになっちゃうんだけど、いやいやいや、もう53歳だしと思って(笑)。作業に入ったのがちょうど『ひそひそ星』というストイックな映画を撮った後だったので、また地獄に堕ちていくのかという思いでしたね、最初は。


――とはいえ、エロいシーンはすごくエロく撮られていたと思います。


園:それは技術的な蓄積もさることながら、一度堕ちてしまえばとことんエロく行くということですよね。例えば池田エライザがベッドで汗だくになっている自慰シーンは、かわいく、きれいに、観る人が悶々とするような撮り方をしています。そこはもちろん今回気を付けたところです。男性が観て、いかにそそるかということに集中して撮ろうと。


――先日、永井豪さんとの対談がテレビでオンエアされて、園さんは永井作品から受けた影響について話していましたが、あらためて考えると『みんな!エスパーだよ!』には園子温版『ハレンチ学園』のような側面もありますね。単にエロなだけでなく、性に悩む若者たちに対して、大丈夫、勃起しているのは君だけじゃないと勇気を与えるようなところがあって。


園:ええ。クランクインに当たって考えていたのは恋する青春映画ですが、結局はそういうところに行きたいと思っていました。ただ、永井先生が『ハレンチ学園』を描いていたのは20代。それなら読者と一緒に盛り上がれるタイミングだったと思うけど、僕はこの年じゃないですか?(笑)。勇気も体力も必要でしたね。


――今回の映画版で特に顕著だと思ったのは、エロい妄想でまわりからバカにされている人たち、つまり虐げられている人たちの側に自分はいるんだという園さんのスタンスです。


園:それは僕自身が虐げられる側にずっといたからだし、いまもその思いはあまり変わりありません。自分は常に逆境にいるというつもりで生きていて、だから僕は虐げられている人たちや逆境にいる人たちにずっとシンパシーを感じながら映画を作ってるんです。


――この映画では、そんな逆境にいる主人公の嘉郎が、テレビシリーズ以上にヒーロー的な活躍を見せますね。


園:ただ、超能力でやり合うとなると『アベンジャーズ』の世界になってしまうので、そこへは行きたくないなと。アクションを取り入れてほしいという要望もありましたけど、純真な高校生魂で相手をギャフンと言わせなきゃダメだという思いがあったんです。それで最後にあんなふうになっちゃうんですけど(笑)。


――終盤、嘉郎を中心にエスパーたちが結集して、横並びで歩くシーンはまるで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』みたいだと思いました。


園:そうそう。なのに、奴らかいという(笑)。ヒーローとは言っても、女の子に「かっこいい!」と言われたいから、「じゃあ絶対に世界を救っちゃう!」というノリですよね。あくまでヒーローになりたい童貞の話で、そこは脚本上も気をつけていたところです。あまり正義感を燃やしすぎると、本当のヒーローになっちゃうので。恋をして、邪な気持ちで世界を救おうとしているのは、一般的なヒーローものと決定的に違う部分だなと思います。恋のない地球は救えないというか。


――今回驚いたのは、嘉郎の恋愛感情を掘り下げていって、最終的に母と子の愛にまで辿り着くところです。なぜこのような筋立てになったんですか?


園:僕が書いていた初期の脚本は、胎児の頃に始まって、幼稚園、小学校、中学校、高校と、嘉郎の人生を辿っていくものでした。その後、テレビシリーズにも参加した脚本家の田中眞一くんに混ざってもらって、田中くんに改稿をお任せしたら、胎児の話だけ残っていて(笑)。じゃあ、それに全体を合わせようということで、現場でどんどん改稿を重ねたんです。だから現場で考えついたこともたくさん取り入れられてますね。その結果、途中から助監督も何を撮ってるのかさっぱりわからなくなってきて、役者たちも何のシーンだかよくわからないまま芝居してたりする(笑)。とにかくテレビシリーズの単なるスピンオフや、敵を倒して終わりの作品にはしたくなかったんです。


■「日本映画の予算規模なら、たくさん作ったほうがいい」


――2014年に公開された園さんの作品を俯瞰すると、どの作品にも「子ども」とか「自分探し」とかいうキーワードがあるような気がします。本作の嘉郎は幼少期に立ち戻って、そこに自分探しの答えを見つけようとしますが、同じように園さん自身も、『ラブ&ピース』みたいな子どもの頃親しんだジャンル映画に立ち戻って、『新宿スワン』や『リアル鬼ごっこ』の主人公のように自らの方向性を見出そうとしているんじゃないかと。


園:おそらくそういう時期だったんでしょうね。でもそれは『映画 みんな! エスパーだよ!』で一区切り付くはずです。マンガにしろ小説にしろ、原作ものはこれで終わりだろうし、これからはずっとシリアス系で行くと思います。柔らかいやつはちょっとなくなるんですね。


――そうなんですか? シリアス系というと、『希望の国』のような社会派の作品ですか?


園:もっとアートハウス系に行くということです。『地獄でなぜ悪い』以降、ものすごい勢いでエンタメのほうに舵を切ってきたので、もう一回軌道を修正していこうかなって。


――来年公開の『ひそひそ星』は、うかがってる話だと、けっこうアートハウス的な作品ですよね。


園:完全にそっちです。だから振り出しに戻ってリスタートというか、一度全部洗い流して、いままでの技術をあまり使わずにやっていきたいと思ってるんです。


――『地獄でなぜ悪い』以降、園さんは大量生産の時期に入っていて、ご自身でも「質より量」ということを公言していますね。


園:質より量の時期はまだまだ続くと思います。ただ、撮るもののタッチが変わっていくだけで。質より量と言っても、たぶん僕の映画のとらえ方は他の人と違っていて、1本の映画は音楽の1曲だったり小説の1篇だったりするんです。1年に1曲しか作らないミュージシャンってなかなかいないじゃないですか? 他のジャンルならそんなに寡作な人は少ないはずで、映画ももっとガンガン作っていいんじゃないかって。特にいまの日本映画の予算規模なら、たくさん作ったほうがいいと思うんです。ハリウッドみたいに製作費数百億円の映画なら、1年に1本もわかりますよ。でも製作費数千万円の映画はさっさと準備して、作りまくったほうがいい。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のような数百億かけた映画に、数千万の映画が立ち向かってもダメなんです。


――真っ向から立ち向かってもかないませんね。


園:ひき殺されますよ、何百台という改造車に(笑)。そうではなく、数千万円なら数千万円の刹那を生きなきゃいけない。ビートルズにたとえれば、『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を作ろうとしたらあかんのです、これは。でも、一発録りで完成させたファーストアルバムの迫力なら出せるだろうと。そういう意味で、僕は質より量と言ってるんですね。どうあがいても、数百億の質は生み出せないから。じゃあ、自分たちの製作費の中でできることを探して、短期間で突っ走るのが奴らに一番できないことだろうと。『冷たい熱帯魚』は10日間で撮ったけど、ハリウッドはむしろそんなの無理でしょう? その刹那に命を張るということでいいと思うんです。


――それがこれまでの経験の中で、園さんが見出した「勝つ戦い方」ですか?


園:いきなりステージに立たされた芸人が、どこまで客を笑わせられるかという感じに近いですね。ブロードウェイとは勝負できないかもしれないけど、セットも何もないステージで笑わせることならできるんじゃないかって。その心意気ですね、大事なのは。


■「映画を好きになりたいし、映画に恋をしたい。それが一番大事」


――『映画 みんな!エスパーだよ!』は5月下旬にクランクアップして、9月公開という超タイトなスケジュールでしたが、今後もそのサイクルで制作を続けていくのはしんどくないですか?


園:今年はあと3本撮って、来年も春先までに2本撮る予定ですけど、ずっと続くわけではないんです。しばらくこの状態が続くだけで。ただ、深作欣二さんは黄金期に1年で4、5本撮っていて、『仁義なき戦い』5部作もほぼ1年で作ってる。その早撮り感が画面にみなぎってるのが好きなんです。毒々しいまでの刹那を生きたあの雰囲気は、やっぱり日本映画の特異点だと思いますね。完成度の高い作品より、隙だらけなもののほうが面白いし、愛せるかなと。


――園さんは以前から、「いい映画」より「好きな映画」のほうが大事だという考え方でしたね。


園:誰が何と言おうと、「好き」以外ありませんね。映画を好きになりたいし、映画に恋をしたい。それが一番大事です。


――これまでの園さんの作品は、日本のメジャー映画に対するアンチテーゼとして支持されていた面もあると思いますが、『新宿スワン』は園子温映画史上最高の大ヒットを記録して、いまや園さん自身がメジャー映画を撮る立場になったわけです。その点で考え方の変化はありましたか?


園:一回やってみなきゃなと思ってたんですよ。僕は常に実験的な気持ちで映画を撮っていて、前と180度違うものを撮りたいと思うことがよくあるんです。オファーがあった時期は、『新宿スワン』を撮るか、あるいはもう一度『愛のむきだし』みたいなものを撮るかと聞かれれば、『新宿スワン』のほうに興味があった。同じものをくり返すことに興味がないんですね。言っちゃえば『愛のむきだし』はガウディみたいに奇天烈な建物で、片や日本のブロックバスターはちっともデザインにこだわらないけど、とりあえず老若男女が快適に住める建物。そういうものを、自分らしい意匠をひとつも入れずに、かっちりと作ってみたかったんです。結果的にそれがヒットしたことで、部屋も満室になってよかったなと(笑)。だから敢えてですよ。自分としては『希望の国』の後に、ガラリと変わって『地獄でなぜ悪い』を撮ったのとあまり変わらない。プロデューサーの山本又一朗さんから「コラ!」と脅されて作ったわけでもないですし。楽しかったですね。又さんもいままでの監督の中で一番面倒臭いことになると思っていたら、むしろ一番楽だったと言っていて、このままだと『ルパン三世』もやらないかと言われかねないくらい(笑)。


――いまや同志ですか(笑)。


園:又さんにとっては、たぶんソウルブラザーですよね。これからも俺と映画を撮ってくれとは言われてるんですけど。


――その方向性と、今後のアートハウス系がブレンドされていくことはないんですか?


園:それはないです。一見、住みやすいマンションなのに、テラスを見たら地獄みたいな池があるとか、そういうのはダメだから(笑)。完全に分けないと。どんな作品でもテーマをきちんと決めて、作品をそこに落とし込んでいかないといけないんですね。例えば映画監督がテレビドラマを撮ると、そこに映画的な何かを盛り込もうとしがちじゃないですか? でもそういうのは全然好きじゃなくて、『時効警察』の時もとにかく視聴率を取ることが自分の使命だと思っていた。そういう意味では、『新宿スワン』もテレビドラマを手掛けるような気分で、人気作を作ってやるという思いから燃えてたんです。


――なるほど。お話を聞いていて思い出したのは、園さんの転機になった『自殺サークル』も敢えてZ級のスプラッターを撮るんだとテーマを決めて、自分の趣味嗜好とは関係なく、そこに向って作られた作品だったことです。園さんの中には、監督・園子温に「これを作るべきだ」と指示を出す、もうひとりのプロデューサー・園子温がいるということですよね。


園:いると思います。『自殺サークル』は絶対に座れない椅子とか絶対に持てないコップみたいなものを作ろうとした、ほとんど嫌がらせのような映画でしたけど(笑)、そうやって自分をプロデュースする感覚は絶対にあると思う。でも『新宿スワン』みたいに快適なマンションを何棟も建てる気はないし、もうお金もいらないので、ああいう作品は終わりです。続編がある場合は置いといて(笑)。


――これから向かおうとしているのは、いろいろなタイプの作品を経て、園さんが最終的に見出した方向性ですか?


園:最終的に向かっていきたい方角はなんとなく見えてるけど、それが本当に自分の資質に合っているかわからないので、結局は撮り続ける果てに最終的な何かが待ってるんじゃないかと思うだけですね。でも、まだまだ自分は初期の段階というか、始まったばかりのような気がします。まったくダメだし、これからだと思ってますよ。(取材・文=門間雄介/写真=編集部)