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杏と長谷川博己の“おかしな関係”が織り成す世界ーードラマ『デート』スペシャル版に寄せる期待

2015年09月01日 09:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『デート~恋とはどんなものかしら~』公式サイト

 今年1月から3月にかけて、フジテレビの「月9」枠で放送されたドラマ『デート~恋とはどんなものかしら~』。そのスペシャル版が、9月28日(月)、夜9時から放送されることが発表された。その情報を目にしたとき、思わず「わっ!」と声を上げてしまった。だって、あれほど毎週観るのが楽しみだったドラマなんて、ホント久しぶりのことだったから。


参考:本田翼は棒ではない、真っ白なキャンバスなのだ 『恋仲』をめぐる通説批判


 他人の感情を察したり、空気を読むことができず、何事も論理的で理路整然としていなければ納得のいかない超理系女子、藪下依子(杏)。そして、自らを“高等遊民”と称し、働きもせずに母とふたりで実家で暮らしながら、自室で文学、映画、漫画、アニメなど、趣味の世界に浸ることを最大の喜びとするオタク男子、谷口巧(長谷川博己)。親を安心させるため、そろそろ結婚を考え始めるものの、恋愛どころか他人とのコミュニケーションすらおぼつかない、欠陥だらけのアラサー男女が出会い、互いに惹かれ合う――どころか、水と油のごとく反発し合い、毎回「デート」をするたびに、激しい口喧嘩を繰り広げるという「あらすじ」を書いてみたところで、まったくラブストーリーとは思えないこのドラマ。


 しかし、口喧嘩をするたびに、そこに居合わせた人々を置き去りにして、ふたりの世界に入ってしまうほど互いにヒートアップしてしまうこの関係って、一体何なのか。えっ、これが恋ってやつなのか? とまあ、近年の日本では珍しいほど痛快な、いわゆる「ラブコメ」ドラマだったのだ。杏と長谷川博己という、パッと見は確かにおかしな感じだけれど(あくまでも役柄の話です)、よくよく見ればどこか可愛らしさのある主演ふたりの魅力もさることながら、ふたりを取り囲む人々――依子の父親(松重豊)と母(和久井映見)、依子に恋心を抱く好青年・鷲尾君(中島裕翔/Hey! Say! JUMP)、そして巧の母(風吹ジュン)と巧の幼馴染の兄妹である宗太郎(松尾諭)と佳織(国仲涼子)が、いずれもちょっとおかしいけど、どうにも愛おしくてたまらいのだ。特に、主人公ふたりに密かな恋心を寄せる、鷲尾君と佳織の切ないこと!


 毎週観るのが楽しみだったのは、物語の続きが、ふたりの恋の行方が気になったから――だけではない。むしろ、依子と巧を中心に、上記の人々が織りなす、“『デート』の世界”そのものに触れることが、とにかく楽しかったのだ。そんなドラマって、結構珍しい。だけど、数年前の「最高の離婚」同様に、こうして特に高視聴率だったわけでもないのに「続き」が作られるドラマは、そういうものなのかもしれない。あの世界に、また触れたい。とはいえ、その「作り」の部分――膨大な台詞が書き込まれた脚本と、おかしみのなかに巧みな仕掛けを毎回用意している演出も、とにかく見事だった。


 毎週、何らかの形でふたりが「デート」をするという構成。しかも、その時系列を組み替えながら、毎回きっちり物語として成立させるなど、小ネタやパロディの数々に溢れた台詞の妙味はもちろん、その細部に至るまで、実にうまく設計された物語。同じく「月9」枠で現在放送中の『恋仲』が、直球勝負の胸キュン青春恋愛ドラマだとするならば、『デート』はそれこそムチャクチャな変化球でありながら、毎回確実にストライクに入っているような、そんなドラマだったのだ。それにしても、あの最終回の伏線の回収の仕方は、本当に見事だったな。


 さて、嬉しいことに、上記キャストが再び勢ぞろいしているという今回のスペシャル版では、依子と巧のその後――最終回でめでたく正式に(?)付き合い始めた、ふたりの日々が描かれているようだ。依子の住む官舎で「半同棲」生活を送りながら、結婚の準備を進めていたふたりの前に、ある日、和服姿の美女(芦名星)が現れる。まさしく理想のタイプ(オードリー・ヘプバーン、原節子、峰不二子、メーテルを足して4で割った女性だっけ?)である彼女の登場に、心を激しく揺さぶられる巧。そんな彼の姿を横目に、これまであり得ないと思っていた「浮気」という文字が、依子の頭に浮かび上がり……再びふたりの大喧嘩が始まってしまう。しかし、「恋愛不適合者たちの痴情のもつれ」とは、これいかに?


 それにしても、『デート~恋とはどんなものかしら~2015夏 秘湯』という、どこか『北の国から’95秘密』(宮沢りえが出ていた回だ)を彷彿とさせるような、させないような、このタイトルは何を意味しているのだろう? 一応、「あらすじ」を読むと、今回のクライマックスの舞台となる伊豆は修善寺の「秘湯」を意味しているようだけど……『デート』の副題である「~恋とはどんなものかしら~」が、実はモーツァルトの『フィガロの結婚』のアリア「恋とはどんなものかしら」から来ていたように(最終回で、ひっそりと流れていた)、今回もまた、その細部に至るまで徹頭徹尾練り込まれた物語が展開されることを激しく期待したい。残念ながら連続ドラマの放送時に見逃してしまったという人も大丈夫。全10話の物語は、DVD、Blu-ray、あるいはオンデマンドで有料視聴可能である。今からでも遅くない。この愛すべき登場人物たちが繰り広げる、おかしくも、ときにホロリと来てしまう『デート』の世界に浸りながら、今回のスペシャル版を待ちましょう。(麦倉正樹)