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NEWS「チュムチュム」が示した、ジャニーズ独特の表現法とは? ポピュラー音楽史の視点で探る

2015年08月31日 07:41  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 やっと心の整理がついてきたので、NEWS「チュムチュム」について語ろう。


 心機一転した先の「チャンパカーナ」もなかなかの衝撃だったが、「チュムチュム」には、さらに驚かされた。インドというコンセプトと謎めいた歌詞に、多くのファンと同じように戸惑った。とは言え、ジャニーズのこのような攻めかた自体は、よくあると言えばよくある。いわゆる<音楽アーティスト>では体現しにくい企画性を成立させてしまうことが、アイドルの強さであり魅力である。その意味で、四人体制になって以降のNEWSはむしろ、アイドルとしての強度が増しているとも言える。


 さて、「チュムチュム」である。曲調、振り付け、衣装などから、露骨なまでにインド感を打ち出している。しかし気をつけなくてはいけないのは、「チュムチュム」における「インド」が、実体としてのインドとかけ離れた、少なからぬ偏見の入った「インド」像であることだ。実際のインド人はもちろん、NEWSのような服装をしないし、ましてや「チュムチュム」冒頭の歌詞はヒンディー語ではありえず、「ムチャクチャな夏があっちっち/魅惑な場所/ちょっとだけよ/着々と/愛の花咲く場所」という日本語の文章をさかさにしたものだ。ここになるのは、不規則な文字列をそれっぽく歌えばインド風になるだろうという、なんというか、ナメた態度なのだ。このような、ひとつ間違えると差別表現になってしまうステレオタイプに対しては、批判的な立場を取る人もいるかもしれない。筆者自身も、楽曲自体には好感をもっているが、あきれる部分がないわけではない。しかし一方で、そういう危うい側面を含むのが商品としてのポピュラー音楽なのだろう、とは思う。というか、ジャニーズとは、まさにそういうことを続けてきた事務所である。


 ジャニーズの試みは、アメリカの音楽をいかに日本にローカライズするか、という問いとともにあった。このこと自体はもちろん、日本のポピュラー音楽全般に言えることだが、ジャニーズが特徴的なのは、日本にローカライズするさい、露骨にジャポニズム要素を導入することだった。私見では、これは、アメリカで生まれ育ったというジャニー喜多川の出自によるものである。つまり、ジャニーズにおける「日本」とは、スシ、フジヤマ、ゲイシャなどに代表される、外国人がステレオタイプで抱く「日本」なのだ。シブがき隊「スシ食いねぇ」やKAT-TUNの亀梨和也がコンサートで見せた花魁姿など、ジャニーズにおいては、妙なセンスでの「日本」像がちりばめられているが、これらは、外国人のまなざしによって形成された「日本」像に他ならない。そうでなければ、どうして光GENJIというグループ名、あるいは忍者といったコンセプトが発想されるのか。ジャニーズにおいては、良くも悪くも「日本よいとこ摩訶不思議」(少年隊)なのだ(なんて書いていたら、嵐のニューアルバムのタイトルが『ジャポニズム』で、しかも「日本よいとこ摩訶不思議」をカヴァーする、との報が入ってきた! なんと意義深いことであるか!)。そして、このステレオタイプのまなざしが、今度は「インド」に移された。ジャニーズ史においては、「チュムチュム」はこのように位置づけられる。


 ところで、西洋的なポピュラー音楽とインドは、それなりに関わりが深い。例えば、「チュムチュム」を聴いているとシタールの音色が耳に入ってくるが、自身の音楽にシタールを意欲的に取り入れたのは、ビートルズのジョージ・ハリスンである。ジョージの活動もあって、シタール奏者のラヴィ・シャンカールなどは、よく知られている。あるいは、やはりシタールを効果的に取り入れた、デイブ・パイク・セットの「Mathar」なんていうジャズの名曲もある。西洋にとって「インド」は、「日本」と同じように、いやもしかしたら、それ以上に魅惑的な場所として存在し続けている。「チュムチュム」は一方で、そのような西洋のポップス全体の歴史とも無関係ではない。アメリカの音楽を翻訳し続けているジャニーズにあっては、なおさらである。もう少し言うと、2000年代中期には、アジア圏のクラブ・ミュージックが一部ブームになった。インド系で言うならば、パンジャビ・MCやニティン・ソーニーといったアーティストだ。いずれも、ヒップホップやハウス、ドラムンベースなどのクラブ・ミュージックにインドの伝統的な音楽の意匠を施している。「チュムチュム」は、直接的には、これらの音楽を参考にしているのだろう。これはこれで、サウンドの狙いどころとしては面白い。


 このように、いかにも飛び道具的に思える「チュムチュム」にも、ジャニーズ史やポピュラー音楽史の文脈がある。そして、こういうことを考えることで、「チュムチュム」という楽曲の練られかたも浮き彫りになる。ヒンディー語が日本語詞に切り替わるところで、シタールの音色が後景化されてアコースティック・ギターが押し出されるのは、完全に意図的だろう。サビもメロディー・ラインが完全にJポップ的な歌いまわしで、ふたたびシタールやタブラの音が聞こえてくるのは間奏になってからだ。インド音楽のサウンドをJポップの土壌に乗せるために、細やかな工夫がされている。したがって、たとえそれがジャニーズ側の狙いだったとしても、偏見まじりで無批判に「インド」像を受け取らないほうがいい。「チュムチュム」は、他のジャニーズ楽曲同様、良質なJポップに翻訳されているのだ。(矢野利裕)