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フェス・シーズンの最中にリリースされた必聴盤は? 小野島大が6作品をピックアップ

2015年08月29日 15:11  リアルサウンド

リアルサウンド

ハイエイタス・カイヨーテ『チューズ・ユア・ウエポン』(Flying Buddha / ソニー)

 夏はフェス・シーズンということで音源購入よりもライヴにお金を使いがちな季節。なので大型新譜が少なくなるのは海外でも日本でも同じ事情ですが、もちろん良質なアルバムはいくつもリリースされています。前回と同じく、あまりメジャーでないアーティストや、個人的に他メディアで紹介していないものを中心に取り上げていきます。


 まずは4ヒーローのディーゴの4年ぶりのソロ・アルバム『ザ・モア・シングス・ステイ・ザ・セイム』(2000black / BBQ)が最高にかっこいいアフロ・ファンク・ハウスでした。4ヒーロー以来の長いキャリアを反映したソウル~ファンク~アフロ~ラテン~ジャズ~フュージョンからエレクトロ、デトロイト・テクノ、ブロークン・ビーツまで、さまざまな要素をバランスよく配置したモダンでスタイリッシュな音作りが実にこの人らしい。どれかひとつの要素が突出したりすることなく、いたずらに奇をてらったりすることなく、流れるようなソフィスティケイトされたダンス・グルーヴは一貫していて、立体的で奥行きのある音響デザインも素晴らしい。UKブラック・ミュージックの豊穣な伝統と奥行きの深い音楽性をたっぷり味わうことができます。海外ではヴァイナルとデジタルのみのリリースで、CD発売は日本だけ。Apple Musicでも聴くことができますが、ボーナス・トラック2曲を追加したCDがおすすめです。そして某CDショップ独自特典のミックスCD-Rでは、アルバム以上に黒くアクの強いグルーヴが展開されていて、そちらも必聴です。


 続いては来日も決定し既に一部では高い評価を受けているオーストラリアはメルボルンの4人組ハイエイタス・カイヨーテです。ファースト・アルバム『Tawk Tomahawk』(2013年)収録のこの曲の、Qティップをフィーチュアしたヴァージョンがグラミーにノミネートされ、エリカ・バドゥやプリンス、ディアンジェロ、クエストラヴ、ジャイルズ・ピーターソンといった人たちに絶賛され、一躍注目されるようになりました。


 そして海外では今年の春にリリースされた2作目の『チューズ・ユア・ウエポン』(Flying Buddha / ソニー)は、前作よりあらゆる点で進化した見事な傑作となりました。


 一昔前のアフロ・ポップみたいなアクの強いジャケのイラストや、女性ヴォーカリスト、ネイ・パームの、ブルックリンのアート・ロック・バンドにいそうなエクセントリックな出で立ちからは想像しにくいような、モダンでソフィスティケイトされた独創性の高い音楽性を繰り広げています。いわゆるネオ・ソウル的なR&B、Jディラやフライング・ロータスを人力で展開するような変則的なビートを繰り広げるモダン・ヒップホップ、あるいはロバート・グラスパーに通じる新世代ジャズなど、さまざまな側面からアクセス可能なハイブリッドなミクスチャー・サウンドで、ネイ・パームの変幻自在のヴォーカルも含め、聴けば聴くほどハマってしまうドープな世界です。


 またかなりのゲーム好きらしく、アルバム・タイトルは格闘ゲームの起動画面のメッセージからとられているようですし、アルバムのあちこちにゲームの効果音がフィーチュアされているのも面白いところです。


スティーヴィ・ワンダーやロバート・グラスパー、ジル・スコットなどを手がける気鋭のプロデューサー、サーがシンガー・ソングライターとしてデビュー。そのファースト・アルバム『セヴン・サンデイズ』(Fresh Selects / Pヴァイン)です。ケンドリック・ラマーで名を挙げたナレッジ、DKザ・パニッシャー(ジル・スコットなど)、イマン・オマーリ、さらに先日ディアンジェロ&ザ・ヴァンガードのドラマーとして超絶プレイを見せたクリス・デイヴなどがプロデューサーとして参加しています。これが売れっ子プロデューサーの余技かと思えば大間違いで、甘い美声とスマートでメランコリックな楽曲で、フランク・オーシャンも真っ青というぐらいの、驚くほど上質で新鮮なインディR&B作品に仕上がっています。


 ポーランド生まれ、デトロイト育ち、現在はNYを拠点に活動するジェイカブ・アレキサンダーのプロジェクトHeathered Pearlsのセカンド・アルバム『ボディ・コンプレックス』(Ghostly International / PLANCHA)は、最近では出色のテック~ミニマル・ハウスです。ファーストはヴァイナルと配信のみだったので、CDはこれが初リリース。メロディアスでサイケデリックでドリーミーなアンビエント・ドローンからシューゲイズ的エレクトロ、女性ヴォーカルをフィーチュアしたディープ・ハウスまで、とにかく耳障りな音を一切出さない徹底して心地よく洗練されたサウンドは、深夜に聴くとどハマりします。


 DVDもご紹介しておきましょう。テクノの哲学者、ターンテーブルのジミ・ヘンドリックスと異名をとるジェフ・ミルズの『EXHIBITIONIST 2』(AXIS / U/M/M/A 9/9発売)です。2004年に出た同名DVDの続編ですが、前回同様、シンプルな白背景の部屋で、CDJ3台、ベスタックスのミキサー、ローランドTR909のみを使って淡々と、しかし目まぐるしい速度でDJミックスしていく様子をマルチ・アングルで捉えた映像が収められています。今回は同じセットでドラマーのスキート・ヴァルデスと即興セッションした映像や、ダンサーのピエール・ロケットとコラボレイトした映像、さらにはジェフがTR909だけを使って生演奏する映像も。


 そして目玉と言えるのは、ジェフがシーケンサー、シンセサイザー、ミキサー、リズム・マシーンを使って楽曲を作り上げていく過程を淡々と追ったドキュメンタリーで、ジェフ自身のオーディオ・コメンタリー入り。これがめちゃくちゃ興味深い。神技のような速さであっという間に曲を仕上げていく様子には驚かされます。一切コンピューターを使わず、旧型のシーケンサーにケーブルを抜き差ししながらトラックを仕上げていく彼のテクノが、実はすごく人間的な手作り感覚溢れるものであることを実感できる貴重なドキュメンタリーだと思いました。なお映像で演奏されたトラックや作られた楽曲を収録したCDも同梱されており、彼の最新トラック集としても聴くことができます。


 最後はガツンとくるロックを。今年のフジロックで非常に荒削りながら生々しく若々しいガレージ・ロックを披露して将来の大物ぶりを見せつけたザ・ボヒカズです。イースト・ロンドン出身の白黒混成4人組。これを見たおかげで私は裏でやっていた(一部ではフジの裏ベストだったと評判の)トッド・ラングレンを見逃したわけですが、もちろんこちらを選んで大正解だったと思っています。ファースト・アルバム『ザ・メイキング・オブ・ザ・ボヒカズ』は、ライヴよりもポップな楽曲の良さが際立つ仕上がりで、クリアで曖昧さのない録音ともども、2015年の最新型ロックンロールとして過不足ない出来です。(小野島大)