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「エレクトロ×ラウドロック」の最前線で起きていることは? GARIの新作から分析

2015年08月27日 18:41  リアルサウンド

リアルサウンド

GARI

 打ち込みの音楽がリスナーに広く浸透した近年、エレクトロ×ラウドロックという組み合わせも増えてきた。


 海外だと2000年代後半に最先端のバンドとして活躍したエンター・シカリやクラクソンズ、ペンデュラムなどの“ニューレイヴ”勢がまさに時代の変革を表していたし、日本でも同時代的にthe telephonesやFear, and Loathing in Las Vegasが現れ、前者はメタル的な要素を、後者はハードコアのエッセンスを加え、次世代のバンドも交えて“ピコリーモ”なるジャンルも確立してみせた。現在はそのジャンルで括られることも少なくなったが、THREE LIGHTS DOWN KINGSやa crowd of rebellionがその系譜上にあるバンドであり、8月リリースのアルバムでは、GARIの最新作『stereoscope』もそこに名を連ねる一枚だ。


 もっとも、GARIはthe telephonesやFear, and Loathing in Las Vegasらと同時代的に登場したバンドであるが、当時はどちらかといえば1stフルアルバム『e・go・is・tick』など、ヒップホップマナーを踏襲したミクスチャー・ロックに寄っている印象が強かった。彼らはここから一時的にフランスで活動を行い、そこで手に入れた感覚をもって清涼感のあるエレクトロ・ロックを提示した『Colorful Talk』や、よりエディット感を強化し、レイヴやハウスなどの成分を多めに作り上げた前作『Harmonik / Electrik』を経て、現在のキャリアを確立していった。


 そのため、『stereoscope』の軸となるのは大文字の“ダンス・ロック”であるが、そこに細分化された多数のジャンルがミックスされている。アルバム冒頭に配置された、ニューレイヴ風の「SHAKEDOWN」や、トランスに清涼感のあるエモーショナルなメロディーラインを加えた「Serious Drive」、ジャズに近いアプローチのギターとエレクトロサウンドの組み合わせが意表を突く「Dis-KOOL」や、EDM的なドロップをサビに取り入れ、パーティーソングとしてアルバムの中核を担う「Coming Up」など、いずれも“ダンス・ロック”であること以外の共通項は少なく、立体的でバラエティに富んだ一枚に仕上がっているのだ。


 また、ボーカルであり、同バンドの作詞・作編曲やプログラミングを担うYOW-ROWの課外活動が、アルバムの内容に反映されている点も興味深い。ここ2年ではBUCK-TICKの『形而上 流星』や『或いはアナーキー』において、数曲でマニピュレート&シンセサイザーを手掛けたり、浅倉大介の『DA METAVERSE M28』にコーラス参加、ポール・ウェラーの息子、ナット・ウェラーのデビュー作でサウンド・プロデュースを行うなど、様々な楽曲に携わっている。それらの活動が『Harmonik / Electrik』から『stereoscope』の間にあったことを踏まえたうえで最新作を聴けば、ポップスとして同アルバムが機能しつつ、YOW-ROWの音楽作家としての振り幅が広がった理由も理解でき、より同作を楽しめることだろう。


 GARIは作品ごとに幾度となく形を変えてきたバンドのため、次作以降の方向性がこれで定まったとも考えにくい。だが、時代とバンドの現在地をパッケージングし、毎回予想だにしない音楽性を提示してくれる彼らの存在は、今後もリスナーに高い期待を抱かせるはずだ。(中村拓海)