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残念なイケメン、TEAM NACSの戸次重幸が体現する40代のリアリティとは

2015年08月27日 09:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『ホコリと幻想』公式ホームページ

 TEAM NACSはメンバーのキャラクターが被ることのないグループだと思う。大きな声から実直さがにじみ出ているようなリーダー・森崎博之。安田顕は、何を演じてもどこか悲しみやおかしみを感じさせるし、大泉洋は軽快な語り口と人情でどんな役も自分のものにする。音尾琢真はリアリティのあるバイプレーヤーとして可能性を感じさせる。


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 そして戸次重幸である。戸次は、TEAM NACSのイケメン、それも残念なイケメンとして知られている。この残念でありイケメンであるという、相反する要素が、昨今では演技に生かされているように思うのだ。


 例えば、女性チャンネル♪LaLa TVのオリジナルドラマ『エンドレスアフェア~終わりなき情事』では、SNSで知り合った元カノとの不倫におぼれる役を演じた。この役は、戸次のアラフォーになってもイケメンな風貌が、不倫におぼれるサラリーマン役にリアリティを与えていた。


 ところが、TEAM NACSの舞台『悪童』で戸次は、閉鎖されたレジャーセンターに立て籠もって幼馴染たちを呼び出す、「ミソッカスのチャック」を演じた。何をやってもどこか空回りするような役に、戸次の残念な部分が生かされていたと思う。チャックを見ると思い出すはずだ。特に軽んじられたりするような見た目じゃないのに、言動のせいで端っこに追いやられていたクラスメイトがいたかもしれないなと。


 そして、9月に公開される初主演映画『ホコリと幻想』では、調子がよくて、口ばっかり、怪しさ全開の東京帰りのクリエイターを演じている。


 戸次演じる松野の登場シーンは、細身の柄のパンツにブーツ姿で、派手なバギーをひきながら空港に現れるというものである。おもむろにメガネをかけるその横顔から、ナルシシズムやインチキ臭さ、そしてそれを一生懸命に隠そうとしているような人物像が伝わってきた。


 この映画の中の戸次は、田舎で同級生がどんどんおじさん化していく中で、ひとりだけ若さを保っていて浮世離れしている。そんな風貌からは、浅はかな夢や幻想の捨てられなさが感じられて、胡散臭さを読み取ることができるのだ。このように、今年の代表作を見ただけでも、戸次のバリエーションは豊かなのである。


 巷では所謂イケメン俳優は、30代で悩むと言われている。それは、20代ではイケメンの群像劇が多数作られていて需要があるのだが、30代では群像劇も減り、個性を打ち出して頭一つ抜けるのが難しくなるからだと聞く。しかし、戸次のように、40代でもイケメン性を保ちながら俳優をしていることは、逆に珍しいことになり、そのことによって怪しい雰囲気が醸し出され、それが個性になることだってあるのかもしれない。


 戸次は、ドラマや映画で普通のサラリーマンを演じていても、この人、この後、何かひと波乱あるんじゃないかと勘繰ってしまうし、戸次が卑屈な役を演じていると、ほか人が演じるよりも闇が深そうだし、何か残念な出来事があとあとまで引きずっているのだなと思わされる。その、何か裏にあるのではないかと思わせる感じが、現時点での戸次にしかない魅力ではないのだろうか。(西森路代)