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椎名林檎リスペクト、“美容整形”テーマの歌詞……印象派が打ち出す、ポップな毒とエッジとは?

2015年08月26日 23:01  リアルサウンド

リアルサウンド

印象派。

 印象派が、8月26日に3rdミニアルバム『AQ』をリリースする。


 大阪発のmica(vo)とmiu(vo、g)による、現役OLユニット・印象派。miuが関東へ転勤となったことにより、一時その活動は危ぶまれたが、無事に作品の制作を終え、今回のリリースに至ったという。


 同作には、彼女たちの名を世に知らしめた過去の代表作から、それぞれ良い部分を引き出し、再構築したかのような“打ち込みなしの100%人力ダンスミュージック”群が並んでいる。


 なかでもリードトラックである「綺麗」は、彼女たちの代表曲「SWAP」の延長線上にありながら、とりわけエッジの効いた楽曲に仕上がっている。タイトルに加え、<綺麗綺麗になりたいわ 赤や黄、紫を塗って 非礼無礼に咲きたいわ>や、<真贋倫理観も闇の中 誹謗中傷もハナウタに変えて>という歌詞に込められたメッセージは“美容整形”。この際どいテーマに対し、彼女たちは暗喩や諷喩を巧みに操りながら向き合っている。さらに、同曲の歌詞はmiuが就職活動の時に出会った、実在する奇妙な天才整形美女に着想を得て作られたものであることが、彼女の「note」には記されている。


 また、今回彼女たちは「Miss Flashback」において、過去の名作へのリスペクトとオマージュを曲中に盛り込むことにも挑戦している。その名作とは、椎名林檎の「本能」であり、MVに関わったスタッフ陣がこのために再結集。“美容整形手術”を想起させる、顔中に包帯を巻き付けた映像などは、思わず笑みがこぼれてしまう。また、アルバム後半の「キューポラ」には<僕は日々の中に 君を探してみたり 椎名林檎を流したり 涙ばかりがあふれたり>と、またしても椎名が登場。「椎名林檎を聴いて泣く世代」はある程度決まった幅があるので、このあたりから染み出る“OLの生活臭”に共感できるアラサー女子が多いのではないか、と推察してみる。


 そして、彼女たちがエッジを効かせるのは、楽曲やMVだけに留まらない。これまでの活動において、ライブをあまり積極的に行っておらず、メディアへの顔出しも最小限にとどめていた。顔を出さないアーティストは年々増加しているように思えるが、“現役OLが顔を隠して出演”というニュアンスは、聴き手にとってはそれらと違った捉え方ができるだろうし、良い意味でフィルターとして作用するうえ、いささか興奮を覚える。それが今作では、アーティスト写真やMVを含め、あからさまにハッキリと露出をしているほか、ライブ活動もこれから本格的に始動すると表明し、積極的に表へ出ようとしている。このことから、同作が大変な自信作であるということを感じるし、聴き手としては期待が高まるばかりだ。


 本格的な演奏とミステリアスな打ち出し方で、これまでエッジの効いた核の部分を綺麗にぼやかしていたともいえる印象派。すべてを晒して表舞台へと出ていったとき、2人を見るリスナーの目は“OLの代弁者”か、“アバンギャルドな女性ユニット”か…。このエッジイな音楽性が、ポップミュージックとして厚い支持を集め、市民権を得る未来を見てみたい。(中村拓海)