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メロキュア・日向めぐみ × クラムボン・ミト対談 ミト「むせ返るスウィート感に音楽的な強さ感じた」

2015年08月26日 20:21  リアルサウンド

リアルサウンド

メロキュア『メロディック・スーパー・ハード・キュア』

 メロキュアの10年振りのリリースとなるアルバム『メロディック・スーパー・ハード・キュア』の特集記事第2弾は、メンバーである日向めぐみと、メロキュアの大ファンであり、今作の制作にも参加しているクラムボン・ミトのロング対談。聞き手は、今回の特集を監修する評論家の栗原裕一郎氏。なお、最終ページには日向めぐみ本人による全曲解説も掲載。(編集部)


特集1:アニソンの歴史に「メロキュア」というピースを嵌めるときが来た


■メロキュアとクラムボン・ミトの出会いと、アルバム制作のきっかけ


――約10年ぶりのアルバムとなるわけですが、meg rockさん……、いや、メロキュアだから日向めぐみさんですね! 日向さんがリリースを決意するに至ったきっかけは何だったんでしょう?


日向:ミトさんが、いちばん最初に私のライヴにサポートで参加してくださった後、ツイッターで「Agapē」のデータを見つけるまでのいきさつを書いてくださったんですね。そのとき、一連の“さえずり”(ツイートのこと)の終わりに「どこにいたって聞こえる」と「Agapē」の一節を引用してしてくださったのがそもそもの始まりというか。自分の中では、あのときからだんだん自然な流れで今に至った感じです。


――あの熱いツイートですね、一連の。データのやりとりにバイク便まで飛ばしたという。


日向:一連の。


ミト:アホかっちゅー(笑)。



 ミトが、meg rockのワンマンライヴに初めて参加したのは2011年12月のこと。その際ミトは、meg rockから「Agapē」を演りたいのだけれど、Pro Toolsのセッションファイルが手元にないのだと告げられた。日本コロムビアには間違いなく保管されているはずで、ずっと探してもらっているのだが所在が不明なのだと。


「Agapē」は、岡崎律子が作詞作曲し、日向がメインヴォーカルをとった、メロキュアの代表曲にして、このユニットを象徴する楽曲である。編曲とサウンドプロデュースは、後半にも登場する西脇辰弥が手掛けている。


 その話を聞いたミトは、コロムビア人脈を総動員して、わずか数日でデータを発掘、「Agapē」再演を実現したのである。最後のツイートを引用しよう。


「いち音楽家として、いまだにこの曲がどんなに素晴らしく、心を打つものかを説明できないもどかしさがあるのですが、今回の5年振りの再演は、まさに新たな始まりであり、未来でもあります。この先、megさんがこの曲を唄ってくれる限り、「どこにいたって聞こえる」。」(参考:https://twitter.com/micromicrophone/status/145880668398817280)



日向:ミトさんのこの言葉に背中を押していただいたというか、自分の中で何かが変わった瞬間でした。


――コアなメグロッカー(meg rockファンのこと)は、ミトさんとmegさんの関係をよくご存知だと思うんですけど、二人の取り合わせを意外に思う人もいると思うんですよ。そもそもミトさんは、いつ頃からmegさんを、知っていたというか個体認識していたんですか?


ミト:もうグミの頃には知っていたんですけど、個体認識としてmeg rockという人間をということになると、名前がいろいろありすぎて、どの地点がスタートなのか……。


日向:グミもリアルタイムでご存知で?


ミト:リアルタイムですね。「Catch You Catch Me」から。


――「Catch You Catch Me」は、アニメ『カードキャプターさくら』(98年~)を観ていて、主題歌として知ったんですか?


ミト:そうですね。広瀬(香美)さんが手掛けている主題歌を、「あ、すごい。めっちゃ可愛い感じで歌っている人がいるな」というイメージでした。


 その後にメロキュアがあって、この日向めぐみという人は……と調べて、え? グミ? しかも歌だけじゃなくてシンガーソングライター!? とイメージがまとまって。だからそうやって考えると、個体認識をしたのはメロキュアからでしょうね。


――あれ? 本間昭光氏とやっていたg.e.m.は……。


日向:g.e.m.は、ミトさんの、そのコンテクストからは外れているところにあったからか、飛んでるんですよね。


ミト:飛んでますね。


――メロキュアもやっぱりアニメからですか?


ミト:アニメですね。普通に『円盤皇女ワるきゅーレ』(02年~)を観ていたら、第1話で「Agapē」が流れて、「何だこれ?」とびっくりして。最終話寸前にも流れて、また「何だこれ?」と。1話目から、もうめちゃくちゃすごく盛り上がって、「あの曲、何? すげぇヤバい」みたいな話にはなっていましたね。


 その時点では、メロキュアが岡崎律子さんのユニットで、そこにmegさんがいて、なおかつそれがグミさんだということにまで認識が到達していないんですよ。いろいろ結び付くまでにだいぶ時間がかかっている。


――岡崎さんはメロキュア以前から聴かれていたんですよね。


ミト:岡崎さんは好きでしたね。ただ、そんなに動向を追っていたわけではなかった。岡崎さんは作曲家のイメージが強かったんですが、『ラブひな OKAZAKI COLLECTION』(01年)で提供曲をセルフカヴァーされて、林原めぐみさんが歌った主題歌の「サクラサク」とかセルフカヴァーを聴いたらめっちゃ声もいいじゃんと。前後して「For フルーツバスケット」(アニメ『フルーツバスケット』主題歌)がリリースされたり、そういう流れがあったところにメロキュアのニュースがあって、律子さんが絡むユニットだと。おお、律子さんまた何かすごいことをやりそう、みたいには思っていました。で、2ndシングルの「1st Priority」が出て、この作詞作曲をしている日向さんというのは誰だろうって検索したら……。


日向:検索(笑)。


ミト:「Catch You Catch Me」のグミじゃん! と。


日向:知ってた知ってたみたいな(笑)。


ミト:めちゃくちゃ知ってた(笑)。megさんが、シンガーソングライターとしてのスキルのある方だということもそのタイミングで知りました。2005年のアニメ『ピーチガール』の主題歌「ベビーローテンション」、あのあたりになってようやく、フィルターというかマスキングが取れてきて、「ああ、全部megさんなのね」と(笑)。


――名前の謎は深いですよね(笑)。


日向:そうですね。いろいろな。


――グミ時代も、作詞作曲は日向めぐみ名義で、別人というか中の人という設定だったわけですよね。で、g.e.m.は日向めぐみ名義。メロキュアも日向めぐみなんだけど、でも、『メロディック・ハード・キュア』(04年)のライナーにmegさんの撮った写真が載っていて、そのクレジットはmeg rockになっている。


日向:だんだん混在し出しているんですよね、meg rock 。


ミト:侵食してるんだ(笑)。


日向:2003年に、MI:LAGROのアルバム『ホホエムチカラ』にゲストヴォーカルで参加したんですが、そのときはもうmeg rock名義なんですよ。


 メロキュアのラジオでも、meg rockゲスト回があって。「日向さんは今週お休みです」ってなった後にmeg rockが出てくるっていう(笑)。


ミト:一言いっていいですか? すげぇ面倒くさいですね!(一同爆笑)


――今回、disc 2の「1st Priority」リアレンジを末光篤氏が手掛けておられますが、megさんとミトさんが直接に出会うことになったきっかけが末光さんのライヴだったそうですね。


日向:そうなんです。忘れもしない、2010年12月の末光さんのライヴ。


ミト:それもまた不思議な話なんですけどね。だって、普通に末光くんのライヴに出て終わったと思ったら、あの、グミさんというか日向さんというかmeg rockさんというか、ともかくmegさんにツイッターでフォローされてたんですよ。私的にはもう、なぜ?の嵐ですよ?(一同笑)


――「Catch You」に「Catch Me」されたぜ、みたいな(笑)。


ミト:どういうことかまったくわからないと困惑していたら、末光くんのライヴに来ていたと。マジかって。


日向:こっそりフォローしたつもりだったんですが、即、見つかってしまって! ミトさんが私をご存知だったということに、むしろ私がびっくりして。


ミト:こっちはこっちで、即、末光くんにメールしていたという(笑)。


日向:そんな感じの“さえずり”まわりの出会いだったんです(笑)。それから1週間後には、もう私のワンマンに遊びに来ていただいてしまって。その2週間後には、ミトさんのソロアルバム『DAWNS』に参加させていただいていたという。で、1年後の2011年末にはmeg rockワンマンに出てくださって。


■メロキュアのむせ返るスウィート感


――メロキュアが登場したときの、ミトさんの印象というか感触ってどういうものだったんですか。


ミト:これはよく言っていることなんですけど、2000年代前半って、世の中からメロディがどんどん消え始めた時期なんですね、音楽的なアプローチやテクスチャーも、ポストロック的だったり、エレクトロニカ的だったり、ジャムぽかったり。それに対してメロの比重がすごく軽くなっていっているのをまざまざと感じていて。究極的だったのは、ビョークが『メダラ』(04年)を出したときで、「何かこれ、俺、ぜんぜん面白いと思えない」と。


 そういう風潮になると、私もやっぱりちょっと天邪鬼なところがあるのか、何か“そうじゃないもの”が聴きたくなってくるわけです。まあ、反動ですよね。そのときにちょうど出たのがメロキュアの『メロディック・ハード・キュア』だった。最初に聴いたとき、ともかくむせ返るくらいのスウィート感が襲ってきて。


――むせ返る(笑)。


ミト:むせ返るスウィート感だと思うんですけど、エレクトロニカやポストロックではまったく感じることのできない音楽的な強さや新鮮さを呼び起こしてくれた。


 似た印象では、2002年にアンセブ(UNDER17)が結成されて。あそこらへんの人たちもやっぱりメロのアプローチがすごく強かったんですね。


 とにかく、逃げようのない太いメロがしっかりある。「何か俺、こっちに流れていっている気がする」というのは漠然と考えてはいたんですね。もちろん洋楽テクスチャーを否定するわけじゃないんですよ。そうじゃないんですけど、メロキュアって、名前どおり(笑)「メロディアスな荒療治(メロディック・ハード・キュア)」で、そこに特に引っ張られた面はあったかもしれないなと。


 こと律子さんのメロって、声だけ聴いている分にはすごく耳当たりが柔らかいんですけど、口を開き切っていないときからメロが出ているような感じなんですよ。もう逃げようのないメロディの固まりが、柔らかい口元からボンと出てきているみたいな。


――難しい表現ですね……。


ミト:そうですね(笑)。とにかくその、ストレートに当たってくる太さみたいな感触と、倍音を強く感じさせるメロディラインが、ものすごく実の詰まった感じに聴こえていたんでしょうね。楽曲の面でも、megさんの曲と、律子さんの曲が交互に並んでいることが、そういう感じをより色濃く出してくれていて。


――作っている側としては、メロディを強く打ち出していこうとか、そういうことは意識していたんですか?


日向:意識というのであれば、メロキュアに限らず、自分の楽曲全部において、メロディアスでありたいとは思っています。単純にもう自分の好みでもあるんですけど。


 ポップであること、メロディアスであることというのは基本スタンスで、自分はやっぱりそういう曲を歌いたいと思っているし、書きたいと思っているので、どうしても絶対的なものとしてあって……。


ミト:ただ、2003、4年あたりのあの流れでいうと、もう世界はおろか、JポップもJロックもそこから離れていったんですよね、一瞬にして。まるでベクトルの向きが変わったように。そのときメロキュアは、本当に独自の場所に、どこの属性からも離れて存在していた。それはアンセブもそうなんですけど、Aポップ、アキバポップという名称に動じぬ強さというか。


 それから、2000年前後というのは、作曲家といった人たちが表に出なくなった時期でもある気がするんですね。90年代のビーイングとか、ああいう……。


――制作集団の時代。


ミト:そうそう。あのあたりから、9・11以降くらいだと思うんですけど、ちょっと何か、メディアも含め作曲家たちがそういう方向へ引っ張られた部分みたいなのもあったんですね。


 ただ、何でも金かけりゃメロディックになるわけではなくて、もっと別の発想がすごくいっぱいあるはずなのになと思っていたときに、その方向に漫然と振り切って作っているような印象を、メロキュアに感じたんですよ。アニメシーンの作家には特にそういう人たちが多いなと漠然と考えていたんですけど…というかここまで話をまとめて総括できるようになるには何年もかかった。


――僕はアニメに疎くて、『メロディック・ハード・キュア』もそもそもアニソンとして聴いていなかったんですよね。


ミト:おお、「として」聴いていなかった?


――単純に音楽としてしか聴いていなかった。だからちょっとはアニメも観ておかなくちゃいけないだろうと今回少し観まして、「ああ、ここでこういうふうに鳴っていたのか」と感慨をあらたにしたりして。


ミト:ああ、ですよね、ですよね。「Agapē」とかは本当、第1話で最初に流れたときには「ああ、すごくいい曲だな」というくらいの印象だったのが、後半になると「これは何か、この曲によってストーリーが改編されたのではないか」というくらい、楽曲とアニメが密接になっていくわけです。歌がそこまでストーリーに密接に関わってくるのって、自分の最上級で『マクロス』くらい? でも、それがよりカジュアルに、もっともっと密接に引っ張られていた感じがありましたね。


――『マクロス』と言えば、クラムボンで「星間飛行」のカヴァーをされてましたね(松本隆作詞生活45周年トリビュート『風街であひませう』)。


ミト:それで思い出しましたけど、僕、「Agapē」を最初に聴いたとき、すげえ『マクロス』感を覚えたんですよ。曲の展開なのか、サビの部分とかが、すげえ菅野(よう子)さんメロディっぽく聴こえていた時代があったんです、一時期。秋葉原MOGRAかどこかのアニクラのイベントに行ったときに、「Agapē」のリミックスがかかっていたんですね。でも、そのリミックスとはまったく別に、自分の中では『マクロスF』の映像が出てきたんですよ。なぜかランカ・リーとシェリルがいるイメージになっちゃっていて、「あれ、「Agapē」が戦隊ものみたいに聞こえちゃってるけど、大丈夫か?」みたいな(笑)。


日向:それ、今回のリミックスのT/D(トラックダウン)のときにずっとおっしゃってましたよね。「「Agapē」が戦隊ものに聞こえる」って(笑)。


――それはちょっと、ミトさん以外にはわからないかもしれない(笑)。


ミト:書けば誰かはわかりますよ! ほとんどの人はわかります。もうとりあえず盲目的に書いて出してもらったら、絶対わかる人がいますから。


――じゃ、書きましょう(笑)。


ミト:そういう想像力だったり何だったりがずっと変わらないであるというのは、このアルバムの強さですよね。それはやっぱりアニメのための音楽だから、聴き直して別の角度からも思い出したりできるということもあるし。そういった意味では、すごくやっぱり特殊ですよ、このアルバムは。しかもそれが、二人のアーティストのユニットによるアルバムの楽曲ということがね。


――おまけにぜんぜん個性の違う二人だという。


ミト:そう。メロキュアには、律子さんとmegさんが溶け合っている部分が何かしらあるものだというイメージが、megさん本人の中にはあったらしいんですけど、客観的な僕の意見、一ファンから見ると、混ざったイメージはほとんどないんです(笑)。


 むしろもう入り乱れているというか、混濁感みたいな何かデコボコしている感じというのか。しかもコーラスでさらに不思議な滲み方をするわけですよ。それがすごく、何と言ったらいいのかな、ただ美しいとかそういうことだけじゃないというのが、僕には衝撃的だった。


 でも、めちゃ不思議なのは、それでいて、たまに律子さんとmegさんの声が一緒になって聴こえる瞬間があったりする。さっきまで分かれていたのに、なぜ突然ビュッと滲んでいるのか、みたいな瞬間が。


日向:ありますね。


■『メロディック・スーパー・ハード・キュア』の“スーパー”な部分


――旧譜『メロディック・ハード・キュア』の再リリースであるdisc1に対し、disc2は、リアレンジやリミックス、岡崎律子提供曲のカヴァー、日向めぐみ名義の新曲など新録音が中心になっています。


 10年の間に状況もだいぶ変わってきたわけですが、その中で、旧アルバムに対する、不満点……では語弊があるかな、アップデートしたいところが出てきたとか、そういう面はあったんですか?


日向:それはまったくないですね(キッパリ)。この新アルバムを出すにあたっても、『メロディック・ハード・キュア』はそのまま残すというのが絶対的な条件としてあって、その上で、プラスアルファな“スーパー”がついたんです。


――“スーパー”の意図を、もうちょっと具体的に言うと……。


ミト:それはdisc 2あたりが念頭に置かれてるんじゃないのかしら?


日向:あとはdisc 1のリマスタリング具合とか。


ミト:リマスターはたしかによかったですね! 確実に旧盤と違いすぎましたね。


日向:10年経って、メロディとかアレンジではない部分で何かできるとしたらと考えて、やっぱりリマスターかなって。今リマスタリングしたらどうなるんだろう、自分でも聴いてみたいなというのもありました。


 新しいリスナーの方に、今ある音楽として聴いてもらいたいというのもすごくあったし、今の気持ちを映したリアレンジも何曲か入れたいという思いも強くなっていって。だったら、リアレンジに関わっていただく人も、ミトさんをはじめ、自分の大好きな人たちにお願いしたい! と。


ミト:前のアルバムを聴いている人はこのリマスターは感動するでしょうね、これだけ変わりゃ。2000年代頭の、ちょっとジャキジャキした音像も良かったんですが、もっと余裕のあるふくよかな今の感じがちゃんと出ている。


 すごくふくよかになった分、バリエーションの妙が露骨に見える。もう何度も言っていますけど、「Agapē」「birthday girl」「愛しいかけら」がどうしてこの曲順で並んでいるのか、振り切れすぎだろうという。


 さっき言った「むせ返る」くらい強いアルバムだったということも、当時はちょっとどう説明したらいいのかわからなかったんですよ。そう表現できるようになるのに熟成が必要だったのかもしれない。同時にアニソンまわりのシーンだったり、状況の熟成もやっぱりあったと思うんですよ、この10年間で。僕らが説明する必要がないところまで、アニソンがある程度ポピュラリティを得たというか。もちろん知らない人もものすごくたくさんいるとは思うんですけど、でも情報をカジュアルにシェアする環境も出来てきたじゃないですか。


――そうですね。リアルサウンドで特集をやろうというくらいだから(笑)。


ミト:だからこそ、『メロディック・ハード・キュア』が当時のままでちゃんとリマスターされているということには、けっこう意義があったりするというか。


日向:曲間もそのままにしてあるんですよ。ずっと聴いてくださっていた方って、絶対その間を覚えているじゃないですか。曲間で、もう次のイントロ聴こえているじゃないですか。「はい、来た」みたいな(笑)。


――曲間、こだわってますよねー。


日向:すごく時間かけましたからね。disc 2も、曲間を決めるのに1時間以上かかりました(笑)。


――リッピングはしないで、盤で聴いてほしいということですね?(笑)


ミト:盤ね、本当に。でもそれって何か、世代的な問題はやっぱりありますよね、確実に。


――今回、ハイレゾの配信は考えているんですか?


日向:やりたいなと思っています。


ミト:やりましょうよ、ハイレゾ。e-onkyoなら、絶対サポートしてくれますよ。


――OTOTOYでも乗ってきそう。


ミト:もちろん。でも、アニメ関係はやっぱりe-onkyoのほうが強いですね。


――そうなんですね。OTOTOYでも結局、アニソンがいちばん売れ筋みたいですけど。


ミト:でしょうね。それは編集長の飯田(仁一郎)くんが言っていました、自分で。「どうしたらいいですか、ミトさん。アニメのほうが売れるんですけど」「じゃ、特集したほうがいいんじゃない?」って(笑)。


――そうそう、特集すればいいんですよ。(高橋)健太郎さん(OTOTOYプロデューサー)に振れば、きっとすぐですよ(笑)。


ミト:ねえ。健太郎さんとかもすごくアニソンに興味があるはずって言っているから。「特集組みましょう。何だったら全部やりますから。何でもやりますよ」って言ってるんですけど。


 ちょっとさっきの話に戻りますけど、disc 2に入っている曲って、やっぱりすごくアップ・トゥ・デートされている気がするんですね。たとえば私の「Agapē」リミックスだったら、ぶっちゃけた話、ファンとして自分が好きだということを、ただ素直に表現したというか。本当をいえば「Agapē」の最後の「Dive!」のところ、俺はもうあそこに実はドラムが欲しかったんだと(笑)。リミックスでは、そういう自分が思っていたものをかたちにしているだけのところもあって。だから、今の時代にかたちとしてどう聴こえるのかということをある程度、ハイレゾみたいな今日的な音響ともリンクできたら面白いなと思っているところはちょっとあったりするんです。


――disc 1は、唯一ラストのM16だけが変わっています。


日向:オリジナル盤では「Agapē」の「水の惑星 version」が入っていたんですけど、それをdisc 2に移して、アルバム後にリリースされたシングルの「ホーム&アウェイ」を入れました。今回リアレンジも入ることになったので、ヴァージョン違いはリアレンジと解釈して2枚目にまとめました。


――「ホーム&アウェイ」がここに収まったのはすごくいい感じですよね。


ミト:パズル的にはまった感がありますね。この曲がひとつだけ、入る隙間があったというのがね。


――曲的にも、ここからまた新たに始まるんだ! という印象を残してdisc 2に繋がる感じがしてとても。


日向:オリジナルアレンジだけを並べたいという気持ちがある一方で、元盤の曲順も曲間も変えたくないなと思ってもいたんですけど、「ホーム&アウェイ」はすごく自然な流れでここに収まった感じです。


――「ホーム&アウェイ」は岡崎さんが亡くなった後にリリースされた曲ですが、これはコーラス部分だけ録ってあったわけですか?


日向:コーラス部分だけというか、メインのヴォーカルも録ってあって。アニメ(『奥さまは魔法少女』)のオンエアの時期が後ろにずれただけだったんです。


ミト:ああ、なるほど。


日向:「めぐり逢い」とかのときにもうレコーディングしているくらい。アニメの放映の2年前くらいにレコーディングしているんですよね。


――「ホーム&アウェイ」への、当時のファンの反応ってどうでしたか? 複雑な心境のファンも多かった時期だったんじゃないかと思うんですけど……。


日向:それが、私の中であまりそのあたりの印象がないというか。その頃、もう3連続リリースくらいのラッシュだったんですよ。「夏の向こう側」と「ちいさなうた」と「ホーム&アウェイ」を2ヶ月くらいの間に、ほぼ一気に出して。


「ホーム&アウェイ」に関しては、特にインストアイベントとかをやったわけでもなかったから、みなさんの反応を直接聞くということもあまりなかったんですね。だから、この曲に対するリスナーの気持ちというのがいまひとつ掴めていなかった。アルバムに入っていないから、番外編みたいな感じで捉えられているのかな、なんて思い込みもあったりして。


 それが最近になって、どうもそうじゃないみたいだという実感が出てきて……。


――最近になって?(笑)


日向:そうなんです(笑)。今回、メロキュアの曲をオルゴールにしてプレゼントするという企画があって、その曲目を決めているときに、まあ、「Agapē」と「1st Priority」と……って出た後に、販促担当の方が、中学生のときにすごくメロキュアを聴いてくださっていた、それこそメロキュア育ちの方なんですけど(笑)、「「ホーム&アウェイ」ですかね」ってさらっとおっしゃったんですよ。その前にちょうど、コロムビアの宣伝担当の方と「ホーム&アウェイ」が好きっていう方が意外と多いのが不思議だねみたいな話をしていたんですけど、その販促の方に「いや、不思議じゃないです!」ってたしなめられて(笑)。


 おうちに帰ってちょっと考えてみて、1年間リリースがなかったわけですよ、アルバムから。それで1年後にこのシングルが出たということのリスナーのみなさんにとっての意味。それを私は、考えていなかったわけではないんですけれど、どれだけみなさんがこの曲を待っていてくださって、どれだけ貪るように聴いてくださったかということを、私はそこまでちゃんと自覚していたのかなと、あらためてすごく思って。そのことも、メロキュアのメンバーとしての責任をちゃんととらなきゃなと思うきっかけのひとつになりましたね、すごく。


――そもそもこの『メロディック・スーパー・ハード・キュア』という企画自体はいつ頃持ち上がったんですか。発表されたのは昨年末のライヴで、でしたけど。(参考:ポップとロックを統べる、meg rockの甘く滑らかな声 O-Crestワンマンライブレポ


日向:去年の秋くらいなんです。本当は年末に普通に発売するという話だったみたいで、コロムビアから連絡が来たんです。「発売しますけど大丈夫ですよね? 問題ないですよね?」みたいな連絡が秋頃に来て、そのときに「何かやります?」と聞かれて。


――じゃあ、最初の段階では、単に再発するという話だった?


日向:そうです。アルバムからこぼれていた曲、ヴァージョン違いや「ホーム&アウェイ」「夏の向こう側」「ちいさなうた」をまとめたいというのはあったんですけど、そこから、何かもしやりたい企画とかあるんだったらやろうよ、みたいな話が出て、「リアレンジヴァージョン入れたいです」って言って。リーダーの提供曲のカヴァー(「笑顔の連鎖」と「ボクのキモチ」)をやりたいと言い出したのがいちばん最後かもしれないです。それはもうかなりギリギリの段階。レコーディングが始まる1カ月ぐらい前ですかね。


――disc 2ではミトさんは「Agapē」のリミックスをされていますが、 kzさんを呼んだのはミトさん?


ミト:そうです。kzくんなんてまさにメロキュア世代の人ですよね。世代は超えているけれども、ファン同士でその想いを一緒に作り上げたということだと思います。また僕は打ち込みであろうと演奏であろうとどうしても想いが溢れ返ってしまうんですけど、「Agapē」に関しては、あるパートにリズムトラックを入れたいという、その一心だけでもうほぼやり切ったところも多分にあったので。


 で、これは笑い話ですけど、セッションデータを渡されたとなると、僕にとってはリアレンジという発想はまったくなかったんですよ。エンジニア的な発想で、リミックスなんだなと思い込んでしまって。リアレンジという話は聞いていたのに、まったく飛んでいて。


日向:だっていちばん最初「バンドサウンド的なアレンジにするかどうか」という話から始まっていたじゃないですか。


ミト:でもそのときに「バンド的な」という話から流れて、「じゃあ」ってデータもらったら、60トラックある律子さんの声だったり何だったりで、それを全部エディットするというところから始めてしまったので。


日向:ミトさんの誤解が判明したのが、このリアレンジ陣を発表するニュースを出す前日の確認のときでした。


――だからミトさんだけリミックスになっているんですね(笑)。


日向:そう。そのときに、お互い「え?」ってなって(笑)。


ミト:「は?」みたいな(笑)。


日向:ちょっと待ってくださいと。


ミト:お互い「?」「?」となっているんですけど、まあまあとりあえず……。


日向:「リミックスにしておきましょう」みたいな(笑)。末光さんが、発表されたのを見て「あれ? リミックス?」ってびっくりしちゃって。「末光さんはリアレンジのままで大丈夫です! お願いしてたのはリアレンジです! リミックスじゃないです!」って慌てて言ったりして。


ミト:もうホント恐縮の極みの中…でも、その後ちゃんとmegさんから、律子さんが歌ったパートのmegさんバージョン音源60トラックが届いて。


日向:スウィッチヴァージョン用に録った60トラックが。


ミト:結果、声だけで120トラックという、私のパソコンでは再生不可能な数のトラックが。


日向:一度拒絶されましたからね、ミトさんに。「パソコンで再生し切れないので、もう結構です」っていわれて(一同笑)。でも、次の週くらいに「やっぱり送りますね」って送って。


ミト:それが届いたとき「これは無言の圧力だな」と思って(笑)、「わかりました」と、そのトラックも開きつつ填めていきました。


日向:メインヴォーカルが二人のユニゾンになったので、コーラスもやっぱりリーダーだけよりは、二人でのほうが絶対バランスはよくなるなと思って。


ミト:そうそう。インストのトラックとかもけっこう分厚いから、二人一緒にするほうが混ざったときの化学反応がすごいんですよ。太さもそうだし、どっちがどっちの声だかわからなくなるくらいの倍音が出てきたりとかする。だから作業をしているうちに、どんどん二人の立ち位置が近くなって、気がついたら、もうほぼほぼ隣り合っているみたいな状態になっていました。立ち位置とか最初はちゃんと決まっていたんですけど。


日向:「1st Priority」のリアレンジヴァージョンでも、最後サビでかなり隣り合ってます。


ミト:もう私がやった「Agapē」に至っては、二人が別人ということがたぶん認識できないくらい一緒になっていますからね。


日向:メロキュアではあまり、ユニゾンってやってなくて、「Pop Step Jump !」くらいで、あとは「1st Priority」とか「めぐり逢い」とか箇所箇所で一瞬やっている曲が何曲かあったりするくらいなんです。だからもともとそういう発想がなかったのが、今回からメロキュアにも携わってくださっているチームmeg rock周りのスタッフの方が先入観なく、割とカジュアルに「ユニゾンは?」みたいな提案をしてくださったりして。「あ、新しいかも」って試してみたら、たしかに倍音の取り囲み方というか、わっと来る瞬間があって、(「1st Priority」のリアレンジヴァージョンの)最後サビは「もうこれしかない!」と思って。


ミト:ユニゾンにすると、メロディまわりの強さみたいなのがより逃げないで出るというのもあったんでしょうね。オリジナルヴァージョンが確保されているから、リアレンジで大胆にチャレンジできたというのもあったでしょうし。


日向:そうなんですよね。その前後に来るハーモニーを引き立たせるための、みたいな脇役的なアプローチだけでなく、「Pop Step Jump !」のときに発見していた、ユニゾンならではの二人の倍音の不思議が楽しくて、レコーディング中、自分の中で、ちょっとしたユニゾンブームが(笑)!「笑顔の連鎖」でもやっていたりします。


■西脇辰弥ワークス


ミト:あと「Agapē」に関しては、西脇辰弥さんの熱意みたいなものがデータにもやっぱり残っていまして(笑)。


 まずすごいのは、「Agapē」のオリジナルヴァージョンはピアノが一発なんですね。ほとんど一発で、一箇所だけちょっと手が入っているか入っていないかくらいで、ほぼまっさらなんです、本当に。


 西脇さんワークスというのが普段どういう感じなのかあまり知らないんですけど、あの「Agapē」のセッションファイルを見たときに思いましたね、「ああ、この人はやっぱり偏屈だわ」って(一同笑)。日本人としてのこだわりというか、細かいところに目が行ってしまうというか。


 それでいて、西脇さん、ギター弾けないですからね。ギターみたいに聴こえるの、全部キーボードだという。ギターソロみたいに聞こえるのも、だからよくよく音を聴くとキーボードソロなんですよ(笑)。たとえば「愛しいかけら」とか、イントロの歪んだギターストローク、あれ全部シンセですからね。


――えええっ!? ずっとギターだと思ってましたよ!


ミト:「マジですかー!?」って思っちゃうんですけど、だからやっぱりちょっと狂ってますよね、確実に(笑)。ギターで普通にあのイントロやったら、どれだけアンプ通さないでラインとかで歪ませたんだぐらいのいびつさがあるわけですけど、そりゃそうですよね、キーボードはライン楽器ですもん(一同笑)。


 曲の構造がいびつに聞こえるのも、だから、西脇さんのそういう気質が反映しているところがあると思うんですよ。


――やー、これはちょっといい話ですねー。


ミト:いや、本当に。僕は谷村有美がすごく好きで、なかでも『愛は元気です。』(91年)がすごく好きだったんですが、あれは西脇さんワークスといっても差し支えない名盤なんです。だから「Agapē」も西脇さんワークスというイメージで聴いていたところもあって、それが2004年にメロキュアを聴いてぐっと入り込めた理由のひとつにもなっているかもしれません。


 メロキュアは、何かもう、発想がいろいろな部分で飛んでいた人たちが集まっていたイメージはありますよね。何でしたっけ? 前にmegさんから「寝ながら歌った」というのを聞いたのは……


日向:ああ、「「虹をみた」」です。


ミト:「寝ながら歌って録音した」って言うんですよ。意味がわからないので、「ごめんなさい、どういうことですか?」って聞き返して。


日向:Aメロが始まる前までの頭サビの部分は、布団を敷いてもらって、そこに寝た状態でマイクセッティングをしてもらって歌ったんです。


ミト:何でそれをやりたかったんですか?


日向:設定的に、ベッドの中でメールしていたり、電話していたり、そういうシチュエーションと、その状況の質感というか、テクスチャーというか、その感じを出したかったんです。ちゃんと発声はできない状態での歌、みたいな。寝っ転がっている感じの、鼻歌じゃないですけど、そういうイメージだったんですよね。


 ちょうどそのとき、私、『ザ・ビートルズ レコーディング・セッションズ』という本を愛読していたんです。それで、いろいろみんな楽しいことやっていていいな、私もやろうと思って。


――あの本を通読する人も珍しい。セッションデータ集ですよね、あれ。


日向:そうです(笑)。でも今思えば、ああいう細かいことを記録してくれている人がいるってすごいなと。メロキュアのレコーディングのときのああいう記録があったら、すごく読みたいですもん。


■岡崎律子リリックのスケールと予言性


ミト:ひとつすごく聞きたいことがあるんですけど、律子さんが英語で歌わなきゃならないときに、megさんのレッスンとかあったわけですよね。


日向:もちろんです。


ミト:律子さんの英語ってどうだったんですか? もとから堪能だったというわけではないですよね、たぶん。


日向:あ、でも、りっちゃんがソロのレコーディングでメインで一緒にやっているエンジニアさんがイギリスの方だったり。


ミト:そうだったんですか?


日向:そうです、そうです。ロンドンレコーディングに行ったりとか、日常的には使っているはずです。


ミト:なるほど。メロキュアというと、やっぱり「1st Priority」の、megさんパートの“you're my 1st priority”というところの発音の良さ。あの発音に引っ張られる感がすごい。


――そして「Believe」が「ビリーブ」に聴こえない(笑)。


ミト:そうそう。メロキュアは基本的に突然英語に切り替わるじゃないですか。日本語で落ち着いて聴いていたのに、英語になっていきなり身構える(一同笑)。あれもちょっと独特っすよ。


日向:リーダーはリーダーで、英語いっぱい入れてきますしね。


ミト:ガスガス入れてきますよね。リリックまわりでもうひとつ言うと、律子さんのリリックは、何かでかいんですよね、スケールが。


日向:予言だらけなんですよ、これがまた。予言を予言しているのが「Pop Step Jump !」。


 予言という話はリーダーともいつもよくしていて。曲を作っているときとか、レコーディングしているときって、気持ちもすごくフワフワしていて、何かハイ状態というか、いろんなものを愛しやすい状態というか。そういう状態でフッと自然に出てきた言葉って、自分を超えているというか、無意識が出てきているというか、何かすごく不思議な力があって、結果的にそれが予言になっているのかなみたいな話はよくしていて。自分の曲や提供曲のリリックでも、「わっ、あれは予言だった」みたいなことが後から後からどんどん出てくるんですよね。預言者ユニット(笑)。


ミト:リリック書きの人のシャーマニックな部分って、実はけっこう重要な資質だったりしますからね。


――「書かされている」感じってありますか? 「来た来た!」みたいな。


日向:どうなんだろう。自分の中で「これだ!」とわかるというのはすごくあります。逆に「これじゃない!」というのもわかるんです。


 新曲の「my favoritz」のリリックに関していうと、周りから「いいじゃん」っていってもらえても、自分の中ではどこかずっとひっかかっていて。で、結局、歌入れ当日のスタジオで「やっぱり書き直す!」っていって書き直したんです。


 先ほどのミトさんのお話にも出てきてましたけど、わりとメロキュアのいままでの歌詞の世界観とか、スケール感とか、それをちょっと意識していたところが無意識にあったというか。すごく大きいリリックだったりしたんですよね、最初は。


 ただ、私が今すごく感じていて、歌いたかったことは、それとは真逆だったんです。むしろすごくパーソナルなことで。


 このdisc 2に関しては、本当に大好きだけを、フェイバリットだけを詰め込みたかったのもあって、「my favoritz」というタイトルがふっと浮かんだときに、「ああ、これでした!」って、すぐわかりました。


ミト:そのパーソナルという方向は、今っぽいっちゃ今っぽいですね。ものすごくパーソナルな発信があちこちに広がっていっていて、どんどん拡散して解釈されていくのが今のアート的な流れじゃないですか。極論ネットにしろ何にしろみんな。パーソナルであることがデメリットにならなくなっている時代というか。


 メロキュアが今アニサマに出ても問題ないと僕が思っているというのは、まさにそういうところもあるのかもしれない。というか、メロキュアこそアニサマに出るべきだろうなと思っていたので、今こそ、メロキュアを、大きなステージで鳴らしたい。


――アニサマ出演がアナウンスされたときは大騒ぎでしたね。ツイッターのタイムラインが「メロキュア!?」で埋め尽くされちゃって。


ミト:本当ですよ。でも、アニサマでやったら絶対にみんな喜ぶに決まっているとこっちは思っているから。「こっち」というのは、一ファンとしてということですが。


――ミトさんの場合、「こっち」がどっちかわからない(笑)。


ミト:いや、もちろんファンの側なんですけど(一同笑)。何でか知らないけど。今、「こっち」じゃないほうに片足突っ込んでしまっていて。それは本当に申しわけないというか。


――「またミトがいい思いしやがって」とか妬まれてるんじゃないですか?(笑)


ミト:いや、それはもう、確実に。


日向:今回、ミトさんをはじめ、末光さんやkzくん、REVALCYのTakeshiくんなど、普段から仲良くさせていただいているアーティスト仲間のみなさんが多数参加してくださったのですが、なかでも「1st Priority」のリアレンジにベースで参加してくださっているUNISON SQUARE GARDENの田淵(智也)さんは、本当にメロキュアを好きでいてくださって、メロキュアのインストアイベントにも来てくださっていたそうなんですよ。当時メロキュアがきっかけで仲よくなったお友達と今でもすごく仲が良いみたいで、昨年末の私のソロのワンマンにもわざわざプライベートで一緒に観に来てくださっていたり。


――10年の重みですよねえ。


 えー、最後にメッセージをお願いできますか。


日向:ずっとメロキュアを愛してくださっている方も、新しいリマスターの音源だったり、新しいアレンジだったり、改めて楽しんでいただけたらうれしいです!


 このCDで初めてメロキュアを聴くという方、何かで楽曲だけは知っていたけどという方にも、聴いていただきたいな、楽しんでいただきたいなとすごく思っていますし、聴いてくださったみなさんをメロディック・スーパー・ハード・キュアしちゃえたらな!とも思っています。


 そしてやっぱり、この新しい『メロディック・スーパー・ハード・キュア』を通して、世界中にメロキュアを愛していただきたい! そう思っています。


――ありがとうございました。


 しかし、新規の方がいきなりこのアルバム2枚を通して聴いたら、かなり混乱するんじゃないかという気がしないでもないというか……。


ミト:私も気づいたら、昨日夜10時くらいから聴き始めて、いろいろやりながら、結局夜中の3時半ぐらいまでに聴いていましたもんね、ずっと。「あれ、これって何だっけ?」みたいに行ったり来たりして。


日向:行ったり来たりしながらってなりますね。


ミト:密度という意味では、たしかにもう、これだけで何カ月も検証できるネタではありますね。


日向:『メロディック・ハード・キュア』も16曲入りでただでさえボリュームがあったのに、さらにもう1枚アルバムがくっついちゃったみたいなものなので。


ミト:本当ですよ。追いかけている側としては、えらいことになっていると思いますよ、本当に。


日向:何しろ“スーパー”なんで(笑)。(栗原裕一郎)


■日向めぐみの『メロディック・スーパー・ハード・キュア』全曲解説


●01. 1st priority [メロキュア meets 末光篤 a.k.a. SUEMITSU & THE SUEMITH]


 末光さんとの出会いのきっかけも、間接的になんですけど、実はそもそもリーダーなんです。私がすごく末光さんの音楽のファンでもあったので、リアレンジの1曲は絶対、末光さんにやっていただきたくてお願いしました。


 リアレンジで大きく印象の変わった1曲だと思うんですけど、歌い分けも実は逆になっていて、最後サビはユニゾン。今回新録のリアレンジの私のメインヴォーカルは、リミックスの「Agapē」以外全部歌い直しています。


●02. Agapē [メロキュア meets ミト & kz]


 最初ミトさんに「どの曲をやりたいですか?」って聞いたら、「Agapē」! と即答で(笑)。それで方向性が見えてきたくらいのときにミトさんが「ちょっとkzくん呼ぼう」って言い出して実現したリミックスです。kzくんとは、Dancing Dollsに提供した「monochrome」でご一緒したり、ミトさんたちと一緒にお花見に行ったり、普段から仲良くさせていただいていて。


●03. ホーム&アウェイ [メロキュア meets 西脇辰弥 again]


 西脇さんと私の詞曲という組み合わせ、実は初めてなんですよ。


 歌のアプローチもアレンジに合わせてすごく変わりました。この曲の持つ明るさは絶対残したかったので、最後のサビに向かっていく気持ちの変化というか、そういう感じが伝わるといいなあと。


●04. ふたりのせかい [メロキュア meets 川口圭太]


 チームmeg rockでお馴染みの川口圭太くんにお願いして、これはもうやり散らかしてますね(笑)。


「un, deux, trois quatre, cinq, six」ってフランス語でカウントが入ってるんですけど、レコーディングのときにこれ「1234GOロック!」(meg rock「レジへGO!」)じゃん!って気づいて。期せずしてメロキュアでも「1234GOロック!」っていっていた、みたいな(笑)。歌詞の登場人物の「ボク」同様に、もう冒頭から私も暴走しがちです(笑)。


●05. Agapē [水の惑星 version]


『メロディック・ハード・キュア』では16曲目に入っていたヴァージョンで、やっぱり西脇さんのアレンジです。アニメ制作サイドのリクエストで作った、オリジナルとはまたまったく違うヴァージョンです。


●06. So far, so near [acoustic version]


 これも「Agapē [水の惑星version]」と同様にアニメ制作サイドのリクエストで作ったヴァージョンで、アレンジも西脇さんです。『beyond the stratosphere』という、『ストラトス・フォー』のキャラクターソングアルバムに収録されていたもので、限定盤だったりして、なかなかハードルの高い音源だったんですね。それもあって今回収録することにしました。


●07. Agapē [switched edition]


 ミトさんがデータをサルベージしてくださったときの一連のツイートの中で、ライヴのリハーサルで「同期担当の菅原(拓)さんが「えっと、これ…とりあえずガイドのボーカル出しておきますね」と言って流したのが、なんと岡崎律子さんボーカルの「Agapē」!!!」と書かれていた、そのりっちゃんヴァージョンです。ただ、仮歌じゃなくて、ちゃんとメイン用にレコーディングしたものです。最初のシングルのレコーディングは試行錯誤しながらだったので、どちらがメインを歌うか決めていない状態で、とりあえず二人ともメインヴォーカルを録音していて。


●08. 笑顔の連鎖 / 日向めぐみ [岡崎律子提供曲カヴァー]


 リーダーがセルフカヴァーしていない提供曲の中から選ぼうと思ってたんですけど、堀江由衣さんへの提供曲に好きな曲がとても多くて。「Romantic Flight」とかやりたい曲が多すぎて本当に悩んだんですけど、「さあ幸運を呼ぶの 引きよせて」ってものすごく強いリリックに引きよせられるように、「やっぱりこれ!」と決めたのがこの「笑顔の連鎖」でした。


 それでとりあえず由衣さんに「カヴァーできたらなって思っているんですが」ってご相談したんですね。その後、キングレコードさんに正式にお願いしてみたら「堀江さんから聞いてます」ってすでに「天使のお触れ」が行き渡っていたという(笑)。リーダーのコーラスデータもお借りできて、アレンジも西脇さんだし、ほぼメロキュア!?な1曲に!


●09. ボクのキモチ / 日向めぐみ [岡崎律子提供曲カヴァー]


 これもリーダーの提供曲のカヴァーなんですが、原曲は『円盤皇女ワるきゅーレ 十二月の夜想曲』で声優の桑島法子さんが歌ったキャラクターソングです。これ実は、神戸で「めぐり逢い」のインストアイベントをやった帰り、新幹線の中でリーダーにこの曲の「仮歌歌って」って頼まれて、その次の日に私が仮歌を歌っていたという縁もあって。


 アレンジはチームmeg rockのギター山本陽介くん。陽介とはライヴではずっと何年も一緒にやっているんですけど、いつもなかなかスケジュールが合わなくて、レコーディングを一緒にしたのは、提供曲以外では、なんと初めてなんです。今回満を持してやり散らかしてもらいました(笑)。


●10. 夏の向こう側 / 日向めぐみ


●11. ちいさなうた / 日向めぐみ


 この2曲は、それぞれ『円盤皇女ワるきゅーレ 星霊節の花嫁』、『ストラトス・フォー アドヴァンス』の主題歌で、メロキュアの延長上にある、日向めぐみ名義ということで収録しました。


●12. my favoritz / 日向めぐみ


 最新の気持ちを新曲にしました。最後の最後まで書いていて、書き終わった瞬間に歌を録りました。タイトルもずっとなくて「まだ見ぬ新曲」とみんなに呼ばれていて(笑)、この「my favoritz」というタイトルが決まったのもギリギリでした。