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F1ベルギーGP決勝レース分析2:バーチャルSCを活かしたロータスのファインプレー

2015年08月25日 08:30  AUTOSPORT web

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2015年F1第11戦ベルギーGP 決勝 ピットインを行うロマン・グロージャン(ロータス)
メルセデスAMGの強さと、セバスチャン・ベッテルの残り2周という時点でのタイヤバーストが注目されたベルギーGP。しかし、レース序盤~中盤にかけての3番手争いも、非常に見応えがあるものでした。登場人物はセルジオ・ペレス(フォース・インディア)、ダニエル・リカルド(レッドブル)、そしてロマン・グロージャン(ロータス)の3人です。

 Bスペックマシン投入以降、戦闘力向上著しいフォース・インディアは、今回特に目覚ましい活躍を見せました。ニコ・ヒュルケンベルグがトラブルによりスタートできなかったのは残念でしたが、ペレスは抜群のスタートを決め、圧倒的な直線スピードを活かして1周目のケメルストレートエンドではルイス・ハミルトンに並びかけ、あわや先頭かというシーンを演出しました。

 抜くことはできなかったものの、ペレスは一気に2番手へと浮上。レース序盤はこのポジションをキープしていきます。しかし、フォース・インディアのマシンには弱点がありました。彼らのマシンVJM08は、今回非常に速かった反面、タイヤに厳しい仕上がりだったようで、決勝レース全てのスティントで大きなデグラデーション(タイヤの劣化によるペースへの影響)の傾向が出ていました。特にソフトタイヤを履いた際(第1および第2スティント)には、いずれも7~8周程度走り終えたところでペースがガクリと落ちています。この結果、徐々に後続の接近を許してしまうことになります。

 全車中最も早く、7周目に最初のタイヤ交換を行ったのはリカルドでした。リカルドはなかなか抜くことができないペレスをアンダーカット(前を走るライバルよりも早く新しいタイヤに交換し、その性能を活かしてピットインのタイミングでライバルの前に立つ戦略)しにいったわけですが、このとき彼が履いたタイヤはミディアム。一方ペレスは翌周すぐにピットインしてソフトタイヤを履いたため、そのペース差は明らか。ペレスは一時リカルドに先行を許しますが、12周目に難なくオーバーテイクすることに成功します。

 リカルドはその後もペースが上がらず、グロージャンにもオーバーテイクを許してしまいます。これで、3番手争いはペレス対グロージャンという構図になりましたが、ペレスはすでにデグラデーションに苦労しており、グロージャンとの差はみるみるうちに縮まっていきます。

 タイヤがすでに限界と判断したペレスは、20周目を走り終えたところでピットインします。しかし、このタイミングでリカルドのマシンにトラブルが発生し、メインストレート入り口でストップ。結果バーチャルセーフティカー(VSC)の発動が宣言されます。だた、リカルドのマシンの撤去は非常に早く済んだため、各車が21周目を走り終えた頃にVSCが解除。この時、グロージャンもピットに入っていました。

 このVSC導入と解除のタイミングは、ペレスにとっては最悪でした。VSCは障害物を排除するためにマーシャルや重機がコース上に進入する必要があるものの、セーフティカー(SC)を出動させるほどではない場合に発動されます。VSCが発動されると、走行中のマシンは指定されたペース以下にスピードを落とさなければならないため、全車が同じペースで走行することになります。今回のペレスは、タイヤを交換してコースに復帰した直後の丸々1周を、このVSCのスピード抑制状態下で走らなければなりませんでした。一方のグロージャンは、VSC導入が宣言された際にすでにセクター1を走り切っており、しかもピットアウトと同時にVSC解除。つまり、セクター1の分だけ、ペレスはグロージャンよりもVSCのスピード制限を多く受けることになってしまいました。結果、ペレスはグロージャンに対して約11秒を失ってしまい、ポジションを奪われてしまったばかりか、非常に大きな差をつけられてしまうことになってしまいました。

 今年から導入されたVSC。今回、ペレスはVSC発動が宣言される前にピットインしていたわけですが、今後のレースでVSC時の戦略をどう組み立てるか? その指針ともなるべきシーンだったと思います。

 通常のセーフティカー(SC)ならば、SCカー出動直後、SCにペースを抑えられる前にピットインすることができれば、ピットインをしなかったライバルに対して少ないロスタイムでタイヤ交換を行うなどのメリットを享受できる可能性が高まります。しかしVSCの場合は、今回のペレスのように先に入ったことがデメリットになる場合もあるのです。

 一方、VSCの発動によってメリットを享受できる場合もあります。前述の通り、VSCが発動されると、全車が同じペースで走行するわけですから、マシン間の“距離”が変わることはありません。しかし、その“距離”を通過する際の速度が抑えられるため、“タイム差”は瞬間的に拡大することになります。ただ、そんな状況下でもタイヤ交換に要する時間は変わりません。つまり、後続のマシンとのタイム差が拡大したこのタイミングでピット作業を終えてしまえば、順位を失うことなく、タイヤ交換を行える場合もあるわけです。

 今回の場合、21周目終了時点でグロージャンがピットに入り、レッドブルのダニール・クビアトの前でコースに復帰しました。グロージャンとクビアトのタイム差は、20周終了時点で10.891秒。通常ならば、ポジションが逆転してしまう差です。しかし、グロージャンはクビアトの前でコースに復帰し、22周目を終了した時点では3.497秒の差で先行していました。つまり、ピットでロスしたのは7秒あまり……普通ではなかなか考えられませんが、これがVSCのマジックです。

 今回のVSCは、ペレスとは逆にグロージャンにとっては最高のタイミングであり、これによって表彰台を獲得できたと言っても過言ではないかもしれません。しかし、VSCが発動しているタイミングはごく僅か。その間にSCに変更される可能性はないのか、後方のライバルとの差はどうなっているのか、などという点をしっかりと見極め、グロージャンをピットに招き入れたロータスの戦略は、大ファインプレーと評するべきかもしれません。

 デメリットにもなり、メリットにも繋がる、そしていつまで続くのか、さらにSCに変更される可能性も秘めているVSC。その扱いが非常に難しいことを、改めて再認識させられたレースでした。今後、VSCのタイミングで各チームがどんな判断を下すのか? 少しマニアックではありますが、こういう点に注目してみるのも、F1の面白さのひとつと言えるのではないでしょうか?