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浜崎あゆみの“攻め”はどんな結果を生むか? 一連のリリースラッシュから考察

2015年08月24日 21:51  リアルサウンド

リアルサウンド

浜崎あゆみ『sixxxxxx【CD+Blu-ray】』

参考:2015年08月10日~2015年08月16日のCDアルバム週間ランキング(2015年8月24日付)(ORICON STYLE)


 ドリカムのベスト盤『DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム』の勢いが止まらない。なんとリリースから6週目で、V6のベスト盤に阻まれた1週を除いて5週1位。いくらリリース数の少ない夏場とはいえ、週替わり1位が当然となったアルバムチャートでここまで華々しいロングセールスを記録することになるなんて、本人やスタッフたちも予想してなかったのではないか。4週前の原稿でも触れたように、その購買層の中心となっているのは、かつてドリカムと共に青春を過ごしたアラフォー女性だ。一方、同じく何百万人もいた、かつて浜崎あゆみと共に青春を過ごしたアラサー女性は一体どこにいったのだろうか?


 浜崎あゆみの5作目となるミニアルバム『sixxxxxx』の売り上げは今週5,533枚で5位、初登場の先週は30,988枚で2位。この数字を「健闘」と見るか「低い」と見るかは人それぞれだろう。いや、別に、どんなアーティストでも売り上げがガクッと落ちるライブアルバム(一昨年の『ayumi hamasaki 15th Anniversary TOUR ~A BEST LIVE~』)や、アルバムからのリカットシングル(昨年の『Terminal』)を殊更取り上げて、「ほらほら、みなさん、浜崎あゆみってこんなに売れなくなってるんですよー」とここ数年煽り続けているゲスな三流メディアにのっかるつもりはまったくないですよ。ああいうミスリードは害悪にして醜悪。アーティストに対して本当に失礼だ。


 ただ、もともと00年代初頭の人気絶頂期からリミックスアルバムなどの非オリジナル作品を乱発していたという過去があるにしても、近年の浜崎あゆみが「これ、ホントにニーズあるの?」という作品を出し続けてきたのは事実。特に、松田聖子が持っていたシングル連続24作1位記録を破って連続25作1位を記録した2010年『L』(そう、10年代に入ってからも浜崎あゆみはシングルを出せば1位を獲ってたんですよ)の後、3年3カ月という不自然なインターバルをあけ、満を持して2013年末にリリースし、結局週間5位に沈んでしまったシングル『Feel the love/Merry-go-round』以降は、まるで緊張の糸がプツンと切れたように作品をリリースする際の基準がユルんできたように思う(あ、作品の中身がユルくなったと言っているわけじゃないですよ。作品をリリースする際のマーケティング戦略やメディア露出への注力のしかたがそれまでとは随分変わってきたという意味)。


 オリジナル全11曲中4曲のコンポーザーに小室哲哉を招集し、今や浜崎あゆみのライブにおいても超重要な位置を占めている「Movin’on without you」のカバー(初出は昨年の宇多田ヒカルのトリビュートアルバム『宇多田ヒカルのうた -13組の音楽家による13の解釈について-』)まで収録した、今年4月リリースのオリジナルアルバム『A ONE』。そもそも、その『A ONE』自体が一作前のオリジナルアルバム『Colours』から9カ月しか経ってなかったにもかかわらず、そこからさらにたった4カ月というインターバルでリリースされたのが今回のミニアルバム『sixxxxxx』ということになる。実に約1年でフルアルバム2枚とミニアルバム1枚。このハイペースぶりは、「売れなくなった超ビッグネーム」としては異例、というか前例がないもの。しかも、『A ONE』、『sixxxxxx』と、ここにきて作品のクオリティーも、作中における彼女の歌のコンディションも確実に上向いてきている。


 そんなハイペースのリリースと比例するかのように、ここにきてアリーナツアーに続いてファンクラブツアーと、ライブ活動もいつになく精力的におこなっている浜崎あゆみ。まるで「逆ギレ状態」と言ってもいい現在の浜崎あゆみを支えているのは、彼女自身の最近の言葉を踏まえるなら「ファンとの絆の再確認」ということなのだろうが、もっと言うなら彼女自身の資質にある「根性主義」によるものだと自分は思っている。1999年から2010年、「浜崎あゆみの時代」は正確に12年間続いた。「あと一歩って どれだけカッコ悪くって 笑われたって諦めない」(「Step by step」)。女王の座を守り続けた長い年月が終わり、重たい荷物をいろいろ降ろして、泥臭くも丸腰で一歩一歩「攻め」に転じている現在の浜崎あゆみ。最近自分は、彼女の本名が濱﨑“歩”であったことをよく思い出している。(宇野維正)


※「崎」は「山」に「竒」が正式表記。