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F1ベルギーGP決勝レース分析1:ベッテル“妥当”な1ストップ敢行も、不運のタイヤバースト

2015年08月24日 17:20  AUTOSPORT web

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グロージャンの追撃を交わそうと奮闘するベッテル。しかし、この直後に不運のバーストが起きてしまう……
メルセデスAMGが圧倒的な、まさに異次元とも言える速さを見せたレースでした。しっかりとスタートを決めたルイス・ハミルトンが43周を逃げ切り、スタートに失敗して一時4番手まで下がってしまったニコ・ロズベルグもそのスピードを活かし、先にピットインして新しいタイヤに交換したセルジオ・ペレス(フォース・インディア)とダニエル・リカルド(レッドブル)よりも速いペースで走ってポジションを奪い、2位でフィニッシュしてみせたのです。他のチームはどうやってもメルセデスAMGには勝てなかった……そんなレースだったと言えるでしょう。

 そんな中、戦略上非常に興味深い事例がありました。それは、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が採用した、1ストップ作戦です。ベッテルは予選9位と振るわず、決勝レースでもなかなか上位に進出することができませんでした。しかし、ライバル勢が軒並み2ストップの作戦を組み立てる中、ベッテルは1ストップで走り切り、3位でのフィニッシュを目指しました。現に42周目のオールージュまでは、3番手を走行しており、表彰台は目前……という所まで来ていたのです。

 ベッテルの1ストップ作戦は、実に理に適った選択でした。スタートでソフトタイヤを履いたベッテルですが、この時のデグラデーションは非常に大きいモノ。フォース・インディアほどではないものの、8周目頃から大きくペースダウンしています。しかしそれでも、なんとか14周を走ってピットイン。ここでベッテルが選択したタイヤはミディアム。この時点で、タイヤ交換の義務を果たしました。

 ミディアムタイヤを履いたベッテルは、ソフト装着時とは打って変わり、バーチャルセーフティカー(VSC)解除後はデグラデーションの傾向を見せず、1分55秒台後半のペースを維持します。さすがに39周目からは1分56秒台へとペースが下落しますが、この時点でレースは残り4周。ロータスのロマン・グロージャンはすぐ背後に迫っていましたが、その後方5番手のペレスとは10秒以上の差があります。そのペレスもデグラデーションに悩まされていたためもはや脅威ではなく、もしグロージャンにオーバーテイクされたとしても4位でフィニッシュできることになります。一方、再びピットインしてしまえば9番手あたりまで落ちてしまう……ならば1ストップで走り切ろうとするのは当然でしょう。

 しかし、実際には42周目に右リヤタイヤがバーストし、表彰台どころか、ゼロポイントでレースを終えてしまうという、ベッテルにとっては最悪の結末となってしまいました。ただ、ラップタイムから判断する限り、バースト以前にタイヤが異常を示していた兆候はありません。前述した通りデグラデーションの傾向は見えますが、そのペースの下落幅は、たとえばペレスのそれと比べれば非常に小さいモノ。バーストを予測するのは困難だったと言えるでしょう。

 ベッテルも「前触れもなかった」と激怒しているようです。バーストの原因が何だったのか、現時点では不明ですが、前兆のないトラブルだったのは明らか。1ストップという最適な判断をしたにも関わらず、不運に見舞われてしまった……としか言いようがありません。

 なおピレリはレース後、「プライムタイヤとオプションタイヤの最大走行距離を、それぞれ決勝の走行距離の50%と30%に規定すべきと、2013年に提案していた」とする旨の声明を発表しました。つまりこれは、“決勝レースを1ストップで走り切ることはできない”と宣言しているのに等しい内容です。少なくともいずれかのタイヤで50%以上を走らなければ、1ストップ作戦は成立し得ないからです。

 しかし、例えば今年のイギリスGPやオーストリアGPでは、ピレリ自身が「1ストップが主流になる」とリリースで語っています。今回前述のような主張を行うならば、ピレリはもっと前の時点で、各チームが1ストップ作戦を敢行するのに対し、阻止または抗議しなければならなかったはず。レースの安定という点ではもちろん、安全性の面でも、原因究明を徹底して欲しいと、願わずにはいられません。

 さて、他のドライバーにも目を転じてみましょう。今回、特に目立った走りを見せたのは、レッドブルのダニール・クビアトです。クビアトは予選で失敗し、12番手からのスタートを強いられました。しかし、徐々に順位を上げて4位フィニッシュを果たしています。特に27周目に最後のピットストップを終えて新品のソフトタイヤを履いた後のクビアトは、メルセデスAMGに匹敵するペースで周回。ペレス、フェリペ・マッサ(ウイリアムズ)、キミ・ライコネン(フェラーリ)をまとめて交わし、ベッテルの後退もあって4位の座を射止めました。もしクビアトがより上位のグリッドからスタートしていれば、グロージャンをも凌駕して表彰台を得ていたかもしれません。

 また、ウイリアムズのバルテリ・ボッタスについても言及しておきたいと思います。ボッタスは最初のピットインでソフトタイヤを装着すべきところ、右リヤのみミディアムタイヤを装着してしまうという信じられないミス。ドライブスルーペナルティを課せられたのみで済みましたが、驚くべきは“ミディアム1本”時のペース。バランスを崩すこともなく、マッサやライコネンらと同等のペースで走ったのは驚きでした。

 メルセデスAMGの強さが目立ったベルギーGP。しかしそれ以上に、“タイヤ”が目立ったレースだったようにも見えます。次回はイタリアGP。超高速ということもあり、今回同様タイヤのライフ、そして安全性が肝になると思われます。そして、今回は多くのポイントを不運で失ってしまったフェラーリが、地元でどんな活躍を見せるのか? 注目したいところです。