現在のスーパーフォーミュラが僅差のタイム差で争われていることは、いわずもがな。今回の第4戦もてぎでも、予選ではQ1トップの小林可夢偉1分33秒247から塚越広大の1分34秒247まで、実に15台がきっちり1秒以内という接近戦だった。
その状況では文字どおり、わずかなミス、そして、走行タイミングやアタック中の風の向きや強さでも順位がいくつも変わってしまう可能性がある、極めてシビアな戦いになっている。
予選のタイム差がシビアな上に、今回のもてぎはストップ&ゴーのレイアウトでコース上のオーバーテイクが極めて難しいレイアウト。スタートとピットストップ作業が勝負どころとなるのは、他のサーキット以上に明らかだった。そして今回、その焦点であるピット作業で大小さまざまなトラブルが起きてしまった。
すべてのチームに確認したわけではないが、レース直後の取材で判明しているのは以下のような項目だ。
・ベルトラン・バゲット車:左フロントタイヤが外れず表示タイムで25秒2
・小林可夢偉車:右リヤタイヤが中途半端に締まった状態でジャッキダウン、やり直しで38秒7
・国本雄資車:給油リグがきちんとハマらず、ファイナルラップでガス欠
・山本尚貴車:給油リグがスムーズにハマらず、2~3秒ロス(リヤ2輪交換で13秒1)
・中嶋一貴車:左フロントタイヤの作業に若干手間取り16秒0
トップの石浦宏明車のピットストップが4輪交換で13秒7であったことを考えると、上記に挙げた以外にも細かなミスやロスがあったチームは数多いと想像できる。コースでコンマ1秒を削るのは至難だが、ピットでは秒単位でロスしてしまうわけだが、なぜ、SFのピット作業はこれほどピット作業が難しく、タイムの上下幅が大きいのか?
あるエンジニアがワンメイクであるがゆえの悩みを語る。「ダラーラの前のスウィフト製のシャシーは、その前のローラ製のシャシーとホイールナットが共通だった。だからチームはローラからのノウハウをそのままスウィフトにも流用できたけど、昨年から導入されたダラーラ製のホイールナットは品質が良くない。インパクトレンチでホイールナットがしっかり合わないと外した時に飛んで行ってしまうし、トルクを強くしすぎると今度はホイールナットの角をナメたり嚙んだりして外れなくなる。そこはもう、各チームのノウハウによる部分が大きい」
別チームのメカニックもその内容に同調する。「ホイールナットがアルミ製で、インパクトレンチがチタン製なんですけど、アルミのホイールナットがチタンに負けてしまうんですよ。材質が違ってすぐにホイールナットがダメになってしまうので、頻繁に新しいものに替えないといけない。だから、ホイールナットの管理にはものすごく注意しています」
かつてはチームでオリジナルのホイールナットを作ることが認められていたが、今のレギュレーションでは全チームが同じホイールナットを使用しなければならない。「もともと、ヨーロッパのGP2で使われていたホイールナットを安価だからということでスーパーフォーミュラでも使っているだけ。こんな扱いづらいホイールナットを使うくらいなら、チームのオリジナルなり、別の統一品を使った方がいいのは、どのチームのスタッフもわかっているはず」と、語気を強める声も聞こえた。
当然、そこでミスを犯してしまうのはチームのメカニック。チームの総合力が試されるピット作業はレースの醍醐味のひとつであるが、現在では「どこが素早く作業するか」というよりも、「どこがミスをするのか」という見方を自然としているように思える。メカニックが気の毒なだけではなく、技術と連携を競うというピット作業の本来の姿から少し、見方が変わってしまっていると思うのは気のせいか。
もちろん、同じ製品でミスの少ないチームもあり、レースでのピット作業の時間差はメカニックの技術、メンタルの問題だと捉えるエンジニアもいる。
「ウチはたとえば練習で11秒でタイヤを換えられたとしたら、本番はそのタイムではなく、必ずそれより遅いタイムを目標にします。12秒とか、13秒とか。ミスをするのは、急ぎすぎて自分のキャパシティ、能力を超えてしまうから。だからベストではなく、安定して同じタイムで作業できることを目指しています。今のレースのピット作業は、ミスしたときのリスクがあまりにも大きいというのもありますし」
可夢偉の担当エンジニアである、山田健二エンジニアが話す。「今日はピットタイミングでJーP(デ・オリベイラ)とアウトラップ勝負になるのが見えていた。J-Pとのタイム差を見てタイミングを無線で可夢偉と話していたけど、それはメカニックにも聞こえている。それがプレッシャーになったのかもしれない」。
タイヤ交換だけでなく、給油リグ、給油口もワンメイク製で、ミスが起きやすいという。「まっすぐにリグを入れてもうまく行かないときがあるし、当日、やってみなければどうなるかわからない部分がある」と、ある給油担当メカニックは話す。入れる時だけでなく、給油リグを抜く際にも簡単に外れないような防止装置がついており、それが引っかかった際には足を使ってリグを引っこ抜くくらいの力業が必要になるのだという。給油リグにも各チーム、各給油担当のノウハウ、感覚が大切なのだ。
国本車は今回から、給油担当が新しいメカニックに替わった。その矢先、ミスが起きてしまった。
また、優勝した石浦宏明のP.MU/CERUMO・INGINGは今回からインパクトレンチを新調した。第2戦岡山での優勝をきっかけに、10年以上使用していたインパクトレンチを買い換えたのだ。そのお値段は1台約100万円で4台購入。その新品インパクトレンチが今回の石浦車のピット作業を支え、優勝へ導いた、とまで言うのは大げさだろうが、ピット作業に懸けるチームの思い入れは、想像以上に奥が深い。