1ヵ月弱の夏休みを経て、2015年のF1世界選手権が再開されました。その初戦の舞台は、世界屈指の名コース、ベルギーはスパ・フランコルシャンです。70メートルの高低差を一気に駆け上がるオー・ルージュや、難易度の高いコーナーが連続するセクター3を持つため、ドライバーの腕とマシンの仕上がりが試されるのはもちろん、アクセル全開区間が多くパワーも必要。その上、山岳地帯特有の変わりやすい天候が、チームやドライバーを悩ませます。
その初日、フリー走行1回目(FP1)と2回目(FP2)でトップタイムを記録したのは、メルセデスAMGのニコ・ロズベルグでした。チームメイトのルイス・ハミルトンがいずれも2番手と、夏休み前同様、メルセデスAMGが引き続き速さを見せています。
パワーが必要なサーキットということもあり、メルセデスAMGに続くのは、同じメルセデス製パワーユニットを使うウイリアムズやフォース・インディアと思いきや、次いで速さを見せたのは、レッドブル勢でした。ダニエル・リカルドはFP1、FP2共に3番手。ダニール・クビアトはFP1こそ6番手だったものの、FP2では4番手につけました。
レッドブルが使うルノー製のパワーユニットは、メルセデスやフェラーリのそれに比べて、パワー的には劣ると言われています。それを補うためか、今回のレッドブルのマシンは、非常に薄いリヤウイングを装着。少しでも、空気抵抗を減らし、最高速を稼ごうという努力なのでしょう。その甲斐もあってか、タイムシートでは上位につけてきました。
これにフェラーリ、フォース・インディア、ロータス、ザウバー、トロロッソ、ウイリアムズらが僅差で続いています。FP2では、5番手のキミ・ライコネン(フェラーリ)から15番手のパストール・マルドナド(ロータス)までが1秒以内。1周7km以上という最長のサーキットにも関わらず、接戦の模様を呈しています。
ただ、ロズベルグのタイヤバースト、およびマーカス・エリクソン(ザウバー)のクラッシュによって、FP2では2回もの赤旗中断があったため、各チームはじっくりとロングランを行う時間を失ってしまいました。結果、どのマシンがレースペースに優れているかを把握することは、現時点では非常に困難です。しかし、僅かながらも各チームが実施した連続走行から、そのレースペースを想像してみましょう。
レースペースでも、やはり一番速そうなのは、メルセデスAMGです。ロズベルグとハミルトンは、ソフトタイヤを履いての連続走行を実施しました。彼らのペースは、1分54秒台後半で綺麗に揃っており、4~5周という短い走行ながらも、デグラデーションの傾向はほとんど見られません。つまり、レースでも強さを発揮するのは、おそらく間違いないと思われます。
トロロッソのカルロス・サインツJr.は、メルセデスAMGと同じように1分54秒台後半から、ソフトタイヤを履いての走行をスタートさせました。しかし、彼のペースからは、大きなデグラデーションの傾向(4周で1秒強、つまり1周あたり約0.25秒タイムが下落していました)を見て取ることができます。走り出しのペースは優秀と言えますが、とてもメルセデスAMGに太刀打ちできるような戦闘力があるようには見えません。サインツJr.も走行終了後、「このコースは僕らのマシンには合っていない」と、冷静な分析を示しています。
タイムシート上では下位に沈んだウイリアムズは、レースペースでは浮上してきそうです。バルテリ・ボッタスは5周の連続走行をソフトタイヤ装着で行っていて、1分55秒台前半から後半にタイムをまとめています。デグラデーションの傾向も見えません。メルセデスAMGからは大きく離されたペースではあるものの、2番手を争ううちのひとつということになりそうです。
セッション終了後、ボッタスは「今日のタイムは僕らの力を正確に反映したものじゃないから」とコメントを残せば、チームメイトのフェリペ・マッサは「トップを狙いにいかないのは、ウイリアムズにとっては典型的な金曜日だから」と語っています。土曜日以降、彼らがどれほどパフォーマンスをアップさせてくるのか、非常に楽しみなところです。フォース・インディアも、周回数はそれほど多くはありませんでしたが、ウイリアムズに近いペースで走行を行っており、彼らが予選/決勝でどのようなパフォーマンスを示すのかも、注目されるところです。
夏休み前最後のレースであるハンガリーGPを制したフェラーリは、キミ・ライコネンにソフトタイヤを、セバスチャン・ベッテルにミディアムタイヤを履かせ、連続走行を行いました。この時のベッテルの走行は赤旗に邪魔されてしまったものの、ソフトタイヤを履いたウイリアムズやフォース・インディアとほぼ同等のもの。ベッテルはセッション終盤にソフトタイヤに履き替えましたが、この時のペースは僅か2周ながらメルセデスAMGの2台とほぼ同ペースでした。タイムシート上ではレッドブルらに先行を許したフェラーリですが、レースでの戦闘力には、非常に大きな期待がかかります。ただ、金曜日のフェラーリは燃料搭載量は少なめであることがあり、メルセデスAMGとの差がどの程度のものなのかは、現時点ではまだ分かりません。
一方、リザルト上でメルセデスAMGに次ぐ位置につけたレッドブルは、リカルド、クビアトともに連続走行を行えずにFP2を終了しました。彼らのポテンシャルを把握するのは難しいですが、リカルドは「メルセデスAMGとの差は大きい」と楽な戦いにはならないだろうことを示唆しています。FP2を7番手で終えたロマン・グロージャンも、連続走行を行っておらず、その真価は不明。8番手と9番手につけ好調そうに見えたザウバーは、連続走行ではメルセデスAMGから1周あたり3秒以上遅く、レースで上位と争うのはまだまだ難しそうという印象です。
今回パワーユニットをアップデートしてきたマクラーレン・ホンダは、ジェンソン・バトンがザウバーと同じようなペースで走行しました。テストベンチでの計測値では、パワーユニットは確実に進歩しているとのことですが、スパはマクラーレンのマシンに合っていないとバトンも認めています。しかも、パワーユニット交換の影響で、フェルナンド・アロンソ、バトン共にグリッド降格のペナルティが決定しており、最後尾スタートは免れないところでしょう。様々なデータを収集し、今後に繋がるレースにして欲しいものです。
現時点では、勢力図を見極めるにはデータが決定的に不足しています。チームにとってもそれは同様で、決勝の戦略を組み立てる上でも、土曜日のFP3が非常に重要になってくることでしょう。しかし、メルセデスAMGが速く、フェラーリとウイリアムズあたりがその後を追う……という構図は、おぼろげながら見えるように思います。さて、夏休み明け初戦はどんなレースになるのか? まずは土曜日フリー走行と予選の結果にご注目ください。