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「みなさんと1対1だと思っている」星野源が“ひとり武道館”ライブで見せたものは?

2015年08月21日 21:11  リアルサウンド

リアルサウンド

星野源

 星野源のワンマンライブ『星野源のひとりエッジ in 武道館』が、8月12~13日にかけて行なわれた。タイトル通り星野源がバンドメンバーなどを呼ばずに、ひとりでセンターステージに立って弾き語りを披露するというコンセプトのもとに行なわれたもので、2日間合わせて約26,000人の観客が訪れた。本稿では、13日のライブの模様をレポートしたい。


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 満員の武道館の真ん中に設置されたステージのうえに、アコースティックギター一本を提げて静かに登場した星野は、大歓声の中、まずは四方に向けて深々とお辞儀。その後、おもむろにマイクに向かうと、13,000人の観客が見守る中、生々しいアコギのサウンドを鳴らしながら、「殺してやりたい 人はいるけれど 君だって同じだろ 嘘つくなよ」と、まるで一人ひとりに語りかけるように、一曲目「バイト」を歌い始めた。緊張感のある幕開けだ。


 挨拶もそこそこに2曲目「ギャグ」を歌い始めると、そのグルーヴに合わせて手拍子が起こり始めるが、その鮮烈な演奏に飲まれてか、自然と会場が静まり返る。しかし、3曲目「化物」では、星野は観客たちに向かって「好きなように楽しんでいいんだよ」と諭すかのようにうなずき、手拍子を促す。一気に会場が盛り上がると、ようやく星野源も「こんばんは、星野源です!」と挨拶し、大きな歓声が巻き起こった。


 「今日は完全にひとりで頑張ってやりきりたいと思います。よろしくお願いします」とのMCの後は、日々の労働について歌う「ワークソング」で、会場を温かな雰囲気に包んでゆく。続けて、星野自身も出演する映画『地獄でなぜ悪い』主題歌となった同タイトル曲では、リズミカルなギターと独特のテンションで盛り上げた。さらにナンバーガールの名曲「透明少女」のカバーでは、繊細なメロディをしっとりと聴かせるアレンジで、同曲のメランコリックな側面を浮き彫りにしてみせた。そのほか、ファンキーかつセクシーなギターテクを存分に発揮した「Snow Men」や、あまく優しい旋律で魅了する「フィルム」といった多彩な楽曲で、弾き語りの魅力をじっくりと伝えていく。星野自身が「武道館でのライブは、1対大勢じゃなくて、みなさん一人ひとりと1対1だと思っている」と語ったように、そこにはパーソナルな親しみが感じられた。


 星野が扮する「ニセ明」の映像が流れた後の第二部では、ステージ上に星野源の一人暮らしの部屋をイメージしたセットが組まれ、特にメロウな楽曲を聴かせる弾き語りコーナーに。朴訥な言葉を選びながらも、エロティックな詩情を漂わせる名曲「くだらないの中に」を披露すると、観客たちは気持ち良さそうに身体を揺らし、その柔らかなメロディを聴き入っていた。その後、「誰か女の子遊びにきてくれないかな」という星野の期待に応えるように、Perfumeのかしゆかこと樫野有香が、ハーブティーとアイスクリームを手みやげに持ってトークゲストとして登場。サプライズに観客は大喜び。(実際は8畳です)味のある空間に「なんかステージにいることを忘れる」というかしゆかは、マイペースにお茶を入れ始める。一方で星野は、先ほど熟読していたエロ本を慌ててステージ外に隠すなど、明らかに動揺した様子。しかし、照れくさそうにしながらも、まるで恋人に聴かせるように「老夫婦」を歌い上げると、かしゆかはアイスクリームを食べながら、観客たちとともに嬉しそうにそれを聴いていた。


 再び「ニセ明」の映像を挟んだ後は、シックなグリーンのスーツ姿で登場した星野。手にはラジカセを持ち、今度はビートに合わせて弾き語りをするという趣向だ。観客たちに「おじさんとおばさんのカップルのダンス」を要求した星野は、そのままメロウなビートに合わせて「海を掬う」を演奏。まるでディスコのチークタイムのような、どこか懐かしい空間を演出した。続く「いち に さん」や「桜の森」では、自らドラムを叩いてループさせ、さらにリズミカルでダンサブルなアレンジを施していく。本編最後の曲となった「夢の外へ」では、13,000人による大合唱も巻き起こった。


 アンコールでは、たびたび映像に出てきた「ニセ明」の姿で登場した星野。布施明の「君は薔薇より美しい」を華々しく歌い上げ、会場を大いに盛り上げる。そしてステージ上で“生着替え”を行なった後は、フィナーレとなる「SUN」を熱唱。全23曲、約3時間にわたるステージを、たったひとりで演奏しきった『ひとりエッジ』は、大盛り上がりのうちに幕を閉じた。


 星野は、少年時代にエリック・クラプトンのライブを観て以来、「いつか武道館で、ひとりで遊んでみたい」との夢を抱き続けてきたとのことだが、その夢はおそらく、彼の想像以上に素晴らしい形で実を結んだのではないだろうか。エンターテイメント性と高い音楽性を同時に感じさせるステージに、ミュージシャン・星野源の実力を観た。(文=松田広宣/写真=岸田哲平)