ベルギーGP開幕直前の8月19日(水)、フェラーリがキミ・ライコネン残留を発表した。スパ・フランコルシャンのパドックでは、フェラーリの決定に対して驚きの声も上がっている。
ライコネンに最も近いジャーナリストとして知られるフィンランド人のヘイキ・クルタですら、フェラーリの決定に驚いていた。もしかすると最も驚いていたのはライコネン本人かもしれないと、クルタは言う。
「発表があった前日の火曜日に、フィンランドのヘルシンキでキミが参加するサンタンデールのカートイベントがあって取材に行ったんだけど、これまで見たことがないくらいキミが上機嫌だったんだよ。カート大会は2位だったのに表彰式では笑顔だったし、トークショーでも饒舌に語っていた。いま思えば、キミは翌日残留が発表されることを知っていたんだね」
ライコネン残留を決めた理由を、フェラーリのマウリツィオ・アリバベーネ代表は次のように語っている。
「キミとの契約を来季まで延長することにより、チームにより一層の安定が生まれると確信している」
つまり、フェラーリはセバスチャン・ベッテルとの相性の良さとチーム内の調和を重視したのだろうか。しかし、クルタは違う分析をしている。
「アリバベーネは以前から、フェラーリのドライバー選択は、パフォーマンスを重視すると言ってきた。確かにキミの今季前半の成績はセバスチャンに及ばないが、キミにとって不運なトラブルも少なくなかった。ハンガリーGPが象徴的で、クルマさえしっかりしていれば、キミがセバスチャンと同等のパフォーマンスを発揮できると悟ったのではないか」
彼の分析が正しいのならば、フェラーリはウイリアムズからの移籍が噂されていたバルテリ・ボッタスよりも、ライコネンのほうがポテンシャルは高いと判断したのだろうか。クルタは続ける。
「フェリペ(マッサ)の存在が大きかったんだと思う。フェラーリはフェリペと長年仕事してきたから、フェリペと比較対照することでバルテリのパフォーマンスを分析できた。バルテリに対する評価は高いが、実は今季チームメイトとの勝負は予選で4勝6敗、レースは4勝4敗と、わずかに負け越している。フェリペを切ったフェラーリが、そのフェリペより劣る成績しか残せていないバルテリを獲得するという決断は下せなかったんじゃないかな」
ベルギーGP木曜日の記者会見で、ライコネンのフェラーリ残留について聞かれたボッタスは、こう答えた。
「交渉はマネージャーに任せているから、今回の決定で僕に何か変化があるということはない。僕にできるのは、コース上でパフォーマンスを披露すること。フェリペは本当に手強いチームメイトだから」
いまのところライコネンとフェラーリの契約は2016年まで、2017年以降はボッタスにもフェラーリ移籍のチャンスは残っている。しかし、そのためにはマッサに完勝するほどの結果が必要。逆に今後もマッサと同等か負け越すようでは、もう二度とフェラーリ移籍のチャンスはめぐってこないかもしれない。そのことを認識しているからこそ、木曜日のボッタスの表情に緊張感が漂っていたのかもしれない。
(尾張正博)