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小保方氏の弁護士「NHKの人権感覚の鈍麻に驚く」 BPO審理入りのNスペを猛批判

2015年08月20日 18:31  弁護士ドットコム

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理化学研究所の小保方晴子元研究員とSTAP細胞をめぐる問題を取り上げた「NHKスペシャル」の番組について、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会は8月18日、審理することを決めた。「人権侵害・プライバシー侵害だ」という小保方氏の申し立てを受けての対応だ。小保方氏の代理人弁護士は「人権感覚の鈍麻には驚く限りだ」と、NHKの姿勢を厳しく批判している。


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審理されることになったのは、昨年7月27日に放送されたNHKスペシャル「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証する内容だった。番組では、小保方氏の実験ノートや、共著者の笹井芳樹氏とのメールのやりとりも公開された。



小保方氏側は7月10日付で、BPOに対して、人権侵害・プライバシー侵害を申し立てた。番組がタイトルで「不正」と表現したうえで、「客観的証拠もないままに、小保方氏が理研内にあったES細胞を『盗み』、混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」として、NHKに謝罪などを求めている。



小保方氏はすでに理研の調査委員会から「研究不正」を認定され、昨年12月に理研を退職しているが、その一方でBPOに申し立てするなど、NHKに対しては戦う姿勢を示している。BPO審理入りが決まったことについて、弁護士ドットコムニュースは小保方氏の代理人をつとめる三木秀夫弁護士にメールで質問を送り、約2700字に及ぶ回答を得た。



以下にその質問と回答を掲載する。



●「小保方氏の被害を回復するためにも、NHKは公式謝罪を」


――今回のBPO審理入り決定についての感想と今後期待することは何でしょうか?



「正式に審理入りすることとなりましたが、NHKの返答を見た限りでは、その人権感覚の鈍麻には驚く限りです。



NHKの方々全員がそうであるとは決して思ってはいませんが、今回の番組作りをした企画者集団が、このようなあまりに酷い人権感覚のままで、今後も公共の費用を用いて番組づくりを続けることには、恐ろしささえ感じます



BPOにおかれては、正常で正当な人権感覚で、この番組の人権侵害ぶりを指摘し、BPOの役割を果たしていただくよう、期待しています。



そして、NHKには、申立人の小保方氏および亡くなられた笹井氏への被害を回復するための公式謝罪を行うとともに、なぜこういった極めて偏向した番組作りが行われたのかについて、検証する作業を行って公表し、今後同じような番組作りがなされないような体制づくりなどの適正な対応がされることを期待しています」



●「不公正で人権侵害をなす番組構成であった」


――NHK側は「申立人がES細胞を盗み出したなどと断定していない」と反論しています。



「これは、笑えるほどのきわめて姑息な反論です。



番組は、全体の構成として、小保方氏が理研内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたかのようなイメージを視聴者に想像させる内容となっています。



若山氏が飼育していたマウスを小保方氏に渡して、そのマウスを用いて小保方氏がSTAP細胞を作り、それを若山氏に戻されて万能細胞の可能性を調べていました。番組では、そのSTAP細胞の元になったマウスの遺伝子が一致するはずだが『二つの遺伝子は異なるものだった』と断定的にナレーションで述べさせ、その後に、若山研究所が山梨大に移った後の小保方研究室の冷凍庫から容器と写真(出所不明)を画面上に出した上で、ナレーションは『中身はES細胞』と断定させました。



さらには、その容器について、氏名不詳の留学生が記者の電話に出て、驚きの声を挙げつつ『それを直接私が渡したことはない』と言わせています。



それに続けてのナレーションは、『なぜ、このES細胞が小保方氏の研究室が使う冷凍庫から見つかったのか、私たちは、小保方氏に、こうした疑問に答えて欲しいと考えている』と、あたかも小保方氏が『ES細胞を盗んだ』ことが疑いようのない事実であるかのように断定的に番組作りをしています。



この『留学生』たる人物がどういう者なのかを明かさないままで、そういった証言のみをセンセーショナルに取り上げて番組構成をしたことは、極めて恣意的で不適切としか言いようがありません。



なお、理研は2014年9月3日に、再度、桂勲委員長による『研究論文に関する調査委員会』を立ち上げ、同年12月25日に『研究論文に関する調査報告書』(桂調査委員会報告書)を公表しました。



この桂調査委員会報告書においては、ES細胞の混入が生じていたとはしたものの、残存試料・実験記録・関係者間のメール送信記録・その他の客観的資料の分析検討によっても混入行為者の特定につながる証拠は得られず、ES細胞混入の目撃者も存在せず、混入の行為者を同定するに足りる証拠がないとし、さらには、混入が故意又は過失であったかどうかについても、決定的な判断をすることは困難であり、調査により得られた証拠に基づき認定する限り、不正と断定するに足りる証拠はないと考えられるとしました(同報告書15ページ)。



また、同報告書は、小保方氏の研究室のフリーザーに残っていたとされる『129/GFP ES』と書かれた試料については、同調査委員会の質問に対し、小保方氏や若山氏をはじめ、若山研メンバーは全く知らないという回答であったとも記述しています。



つまり、同調査委員会は、小保方氏の冷蔵庫にあったとされる『ES細胞』がなぜ若山研にあったかすら『わからない』状態だと指摘したわけです。



これからしても、番組は、何らの客観的証拠もないままに、小保方氏が理研内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があったことは明白と言えます。



また、番組では、小保方氏が理研内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたかのようなイメージを創出していた点に関して、当時論拠を失っていたある事実をもとに番組構成をしていました。



番組では、若山氏によるSTAP細胞検証実験の様子を映し出し、極めて不自然なことに極めてタイミング良く、STAP幹細胞が若山氏の渡したマウス由来でない証拠が見つかった瞬間という映像を流しています。



しかしながら、この番組に先立つ2014年7月はじめに、若山氏は、同年6月16日の会見以来主張してきた『STAP幹細胞は若山研究室にないマウスに由来している』という解析結果について、間違いであったことを認め、その後同年7月22日には、現在所属する山梨大学のホームページにおいて正式に発表しました。



同日には理研においても同様に公表がなされ、これら訂正については報道もされていました。ところが、NHKは、その事実には触れずにこの番組を構成したことになります。



つまり、この点は科学的な検証を行う以上は必ず指摘しなくてはならない矛盾点であったはずにもかかわらず、まったく触れずに、逆に小保方氏が『あるはずのないES細胞』を冷蔵庫に保管していたというナレーションまではめ込んで、視聴者を彼女による窃盗による捏造説へとミスリードしました。



まさに、『捏造』ストーリーからはずれる『都合の悪い材料』には触れないで、このような断定をすることは、およそ不公正で人権侵害をなす番組構成であったと言わざるを得ません」



●「社会的に許される限度をはるかに超えたなかで放送されたもの」


――NHK側は「直接取材を行ったこと自体は問題がなかった」とも反論しています。



「『直接取材に問題はない』と言いますが、そもそも、当時の彼女は、体調不良の中で再現実験に専念していた時期です。このため、精神的に負担となっているメディアからの多数の質問は控えて欲しいと伝えていたところであって、NHKのこの番組に関する質問も、本人の代理人として私から、再現実験に専念するため回答をしないと伝えていたものです。



しかるに、番組が放映される直前の2014年7月23日夜、小保方氏が再現実験中の理研からの帰途において、取材班からバイクで追跡を受け、ホテル内に逃げ込んで拒絶するにもかかわらず、ホテルの管理者の承諾もないままに、2台のカメラマンを含む5名で追い回し、取り囲むなどの暴力的取材行為を強行しました。その際には逃げる小保方氏をエスカレーターで挟み撃ちにしたあげく、負傷させました。



番組は、このような違法な暴力取材を強行したうえで、なお放送するに至っているものであって、社会的に許される限度をはるかに超えたなかで放送されたものです」



――今回の決定について、小保方さんは何と言っていますか? また、彼女の現在の状況について教えてください。



「申し訳ありませんが、回答を控えさせてください」



(弁護士ドットコムニュース)