2015年08月20日 13:31 弁護士ドットコム
仕事を探すとき、まず、雇用条件が「正社員」かどうかのチェックから始める人が多いだろう。そして、正社員というと「週5日のフルタイム出勤」が当たり前、と考えている人が多いのではないか。
しかし、ネットメディア「東洋経済ONLINE」に7月下旬、「出社は週3日だけ!『兼業正社員』の働き方」という記事が掲載された。正社員といっても、出社するのは週3日のみ、他の日はフリーランスとしての仕事もするワークスタイルを紹介しているのだ。
そもそも「正社員」とは、どんな雇用形態なのだろうか。ふだんなにげなく使っているが、法律で定められた言葉なのだろうか。労働問題にくわしい今井俊裕弁護士に話をきいた。
「実は『正社員』という法律用語はありません。どのような雇用契約を結ぶかは、労働基準法等の法令に抵触しない限り、使用者の自由となっています。
ただ通常は、勤務先に『フルタイム』、つまりその事業所の通常の営業日に、通常の労働時間就労するという労働条件で、かつ『契約期間の定めがない』という契約を結んだ従業員をさして、『正社員』と呼ぶ事業所が多いと考えられます。
法律が規定しているわけではありませんが、社会的にも、このような労働条件で雇用契約を締結した職場の基幹的な従業員が『正社員』として認知されていると思われます」
今井弁護士は、このように指摘する。
「そのような正社員と比べて、週の所定労働日数が少なかったり、一日の所定労働時間が少ない従業員のことを、会社によっては『パートタイマー』と呼んだり、あるいは契約期間の定めのある従業員を『契約社員』と呼んだりすることが多いと思います。俗に『非正規雇用』と呼ばれる従業員ですね。
いずれも法律用語ではないので、どのような労働条件の従業員を『正社員』とするのか、明確な規制はありません。そのため『週3日勤務』であっても、それを『正社員』と呼ぶと定めれば、その事業所においては『正社員』となるかもしれません。
しかし『正社員』とは、世間一般に『契約期間の定めがないフルタイム』という概念が通用していますから、誤解を与えるような表現での募集はトラブルを招くかもしれません」
では、一般的な正社員像と異なる条件の「正社員」を雇用する会社側のメリットとは、何だろうか?
「『パートタイマー』のように所定労働日や所定労働時間の短い従業員の場合は、社会保険に加入させなくともよい場合があります。つまり、社会保険料の事業主負担分が発生しない、というのが、会社の経費面でのメリットです。また、労働契約期間をあらかじめ定めておけば、期間満了による労働契約の終了を、会社が有効に主張できる可能性も生じます。
これら会社のメリットを確保しつつ、しかし『正社員』という表現を使って、よい人材を効果的に募集したい、との目的があると考えられます。
そこで、求人に応募する側からすれば、『正社員』という表現に惑わされずに、労働条件の具体的な内容をよく考慮したうえで、応募や就職を判断すべきです」
今井弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
平成11年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における個人情報保護運営審議会、開発審査会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/