2014年10月末、人気の料理レシピ検索サイト「クックパッド」が、レバノンのレシピ会社を買収した。レバノンは内戦が1975年から15年続いたため、日本人には危険なイメージもあるが、現在は経済が好調だ。
8月10日放送の「未来世紀ジパング」(テレビ東京)は、今年5月に現地レバノンに向かったクックパッドの社員たちを密着取材した。クックパッドは月間利用者のべ5200万人を誇り、レシピを通じたコミュニティができあがっている。
食がつなげる「国境など関係のない世界」
買収したのはアラビア語のレシピ検索サイト「シャヒア」を運営するネットシラ・エス・エー・エル社。クックバッドの社員3人が訪ねると、レバノンの社員たちが手作りランチで明るくもてなしてくれた。
国際事業担当の保田マネージャーは、紛争の絶えない中東地域・アラビア語圏の国の人たちが、食を通じてつながる可能性を次のように語った。
「みんな同じレシピを見て、同じものを作っている。食がつなげるものは、国境など関係のない世界です」
レバノンを選んだのには理由がある。世界3大料理のフランス、中華、トルコに加えて、世界4大料理とも称される食大国なのだ。「メゼ」と呼ばれる種類豊富な小皿料理、肉の串焼き「ケバブ」や、イタリアンパセリをオリーブオイルで和えたサラダ「タブーレ」などが有名だ。
保田さんは一般家庭の食事情を調査したり、サイトのリニューアルを行ったりした。レバノンでは、奥さんが毎日家庭で食事を作るのが一般的。レシピに時間をかけられない共働きの夫婦も多いため、クックパッドのニーズは確実にある。
「ラマダン」ねらった利用者の拡散策が的中
クックパッド社員がレバノンに赴いたタイミングは、イスラム教の宗教行事「ラマダン」(断食)の直前。保田さんはこのタイミングで利用者の拡散を狙うという。「我々にとっては一番大切なタイミング。しかもそれが1か月も続く」。
実はこの時期、レバノンの食糧消費量が年間で最大となる。断食月というと食べないイメージが強いが、「太陽が出ている間は何も口にすることができない」という決まりで、日没後に食べまくり、中には日の出まで食べ続ける強者もいるという。
断食月が始まった6月18日、午後8時には街の広場に大勢の人たちが集まりテーブルを囲んでいた。昼間は何も食べない分、夜は思う存分食べる集まりを皆楽しみにしている様子だった。
子ども向けのそろばん塾を経営しているハーディさんのお宅でも、社員とその家族を招いて40人ほどでパーティーを開いていた。料理はすべて奥さんの手作りだという。池上彰氏は、こうして集まって食べることを「イフタール」といい、「企業の経営者が社員を招いておごる」という慣習を紹介した。
アクセス数の1位は「サウジアラビア」
日本ではあまり知られていないが、アラブ世界の中でレバノン料理は「一番洗練された料理」というイメージで、イラクやエジプトのアラブ料理のお手本になっている。
池上氏は、「レバノンで新しい料理の動きがあれば、みんな注目する。レバノンから始めたのは、なかなかの戦略」と称賛した。つまりクックパッドは、レバノンをアンテナとして拠点を置きながら、アラビア語圏2億人に情報を発信しているのだ。
ラマダン月のサイト利用者は2~3倍、レシピの投稿も10%アップした。アクセス数の1位はサウジアラビアで、2位がエジプト。レバノンは8位だった。「想定以上に伸び方が大きかった」と喜ぶ保田さんは、「戦っている国の人同士が、同じレシピを見ている。そこはなかなか面白い可能性があると思う」と語った。
社員にご馳走するイフタールは、大人数に手作り料理を大量に振る舞っていた。ケータリングなどを頼まず手料理でなければならないとすれば、クックパッドの需要は日本よりありそうだ。アンテナ発信といい、クックパッドの目の付けどころに唸った。(ライター:okei)
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