8月9日に決勝が行われた2015SUPER GT第4戦富士。GT300クラスのSUBARU BRZ R&D SPORTは8位入賞。普通に見れば平凡な結果だが、彼らにとっては特別な1戦となった。
7月25・26日、第4戦を前にスポーツランドSUGOで行われた公式合同テスト。後半戦に向けてマシンパフォーマンスを上げるための重要な場となるはずだった。しかし、初日のセッション中に3コーナーでバリアにクラッシュ。その際に火災が発生してしまった。幸い乗り込んでいた山内英輝は無事だったが、富士ラウンドを2週間後に控えている中、マシンがほぼ全焼してしまう事態に見舞われてしまった。
事故当時、現場で指揮をとっていたSTIの辰巳英治総監督はすぐにファクトリーへ撤収を決断。翌日(26日)の走行をキャンセルし、その日の夜にはマシンの分解が終わり、必要なパーツなどのリストを作成。すぐにマシン修復にとりかかったという。
「正直、あの状況を見た時は(第4戦の参戦は)厳しいなと思ったけど、とにかく第4戦に出ることを目標にできることをやろうということでクルマを直すことを決めました。26日の夜には修復に必要なリストが出来上がり、外注に出すものはすぐ手配しました」と振り返った辰巳監督。
しかし、いざマシンを調べていると火災によりマシン後部や左側にも影響が出ており、普通であれば約1カ月以上、最悪の場合は2カ月近くはかかる計算。富士戦はおろか、第5戦鈴鹿1000kmの出走も危うい状況だった。
「ボディカウルはスペアが元々あったのでなんとかなりましたが、一番苦労したのがハーネス(電気系統のケーブル類)でした。普通は製作に早くても1カ月以上はかかるのだけど、アクシデントが起きた日の夜にはメーカーさんに連絡して対応を検討しました。最終的に分散発注をするなどして何とか8月5日(レース搬入2日前)に届けてくれる方向で動いてくれました。それも最後は我々が工場まで取りに行って4日中にハーネスも揃って、すぐ組み立て作業に入りました」
今回の修復で一番の肝だったハーネスが完成。すぐにマシンの組み立て作業に入りカラーリングなども同時進行。その間、井口卓人と山内も毎日のようにガレージに足を運び61号車の様子を心配していたという。そして搬入日前日の夕方、再びスバルBRZのエンジンに火が入った。「エンジンがかかった瞬間は、本当に一安心でした」と、辰巳監督をはじめチームメンバーも安堵の表情を浮かべたという。
「すべてがギリギリでしたけど、当初の計画から遅れることなく進行したから、富士の搬入に間に合ったという感じでしたね。第4戦富士のグリッドに並ぶことを第1の目標にして動きましたが、作業に携わった全ての人が同じ気持ちで動いてくれたことが今回間に合った一番の決め手だったと思います。我々のチームの団結力と底力が発揮された瞬間だったと思います」
こうして組み上がったスバルBRZだが、実質的には新車同然。土曜日の公式練習がシェイクダウンに近い状態で初期トラブルに似たような症状もあったという。それでも午後の予選ではマシンセッティングもベースにも関わらずQ1を突破。Q2でも山内が渾身のアタックをみせ10番グリッドを獲得。決勝でも、両ドライバーが力強い走りを披露。トラブルなく最後まで走り切り8位でチェッカーを受けた。
結果だけを見れば5月の第2戦と同じ予選10位、決勝8位だったがマシンのセットアップも満足に進んでいない中での予選でトップとの差が第2戦から0.3秒縮まり、決勝でもライバルに引けをとらないペースで周回できた。あの悪夢のようなアクシデントから、わずか10日でマシンをグリッドに並べ、これまでと同じか、それ以上のパフォーマンスを発揮。レース後、井口も「第2戦と同じ8位だけど、今回の8位は特別です」とコメント。その表情から結果以上の手応えと達成感を感じることが出来た。
あの悪夢のアクシデントからわずか10日での復活劇。この大きな困難を乗り越えたスバルチームの底力は、間違いなく後半戦躍進の原動力となるはずだ。
(Tomohiro Yoshida)