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“欧州ヒット米国首位”の“オミゴト”セオリー!? オミー「Cheerleader」に見るヒットの法則

2015年08月18日 10:31  リアルサウンド

リアルサウンド

オミー

 ジャマイカ出身のシンガー・ソングライター、OMI(オミー)のシングル「Cheerleader (Felix Jaehn Remix)」が全米ビルボード・チャートを席巻している。アヴィーチーやデヴィッド・ゲッタ、アフロジャックらが手掛けるEDM楽曲がアメリカでも定着し、チャートアクションにも落ち着きを見せ始めた頃に、彗星のごとく現れたこの「Cheerleader (Felix Jaehn Remix)」。もはや、ビルボードの恒例行事と言っても過言でないほど、「数年に一度、突如としてチャートを制覇し、どことなく“違和感”を覚えさせる楽曲が登場」する背景には、どのような法則が隠れているのだろうか? 本稿では、オミーが所属するレーベル兼音楽出版社〈ULTRA MUSIC〉の日本での著作権管理を行うフジパシフィックミュージックの三浦圭司氏と、“Mr. Billboard”の異名を持つ「ビルボード・チャートのことならなんでもお任せ博士」の音楽ライター・KARL南澤氏を招き、その内実を解いてみたい。


――オミー「Cheerleader (Felix Jaehn Remix)」の勢いが止まりません。そもそもこの楽曲のリリースは2014年5月であり、発売から1年以上経過してからチャートを制覇しました。さらに、オリジナル・ヴァージョンではなく、新たにフェリックス・イェンがリミックスを手掛けたヴァージョンが首位を獲得。このような「ヨーロッパで火が付き、アメリカのチャートで首位を射止める」という楽曲には、なんらかの法則が働いているのでしょうか?


三浦:実はオミーが在籍するレーベルであるULTRA MUSICから、去年の12月にメールが届いていたんです。そこには「スウェーデンとデンマークでは、スポティファイとラジオ局で大いに盛り上がっている。ヨーロッパでも大きなヒットになるだろう。今後、日本での展開も相談したい」という内容が記されていました。


KARL:その時点ではまだ二カ国だけのヒットだったんですね。


三浦:そうなんです。イギリスでは年が明けてから春先にかけてヒットとなりました。また、イギリスでリリースする際には、本国の音楽プロデューサーで、『アメリカン・アイドル』や『X・ファクター』の審査員などでも知られるサイモン・コーウェルのレーベル<Syco Records>からの発売となったんですが、これはウルトラのレーベルヘッドであるパトリック・モクシーとサイモン・コーウェルが懇意にしていることがきっかけとなっているのでしょう。実際にオミーは『X・ファクター』にもゲスト出演していましたからね。


KARL:その露出も手伝ってイギリス国内においても売れ始めたわけですが、オリジナルのラヴァーズ・ロック調のヴァージョンではなく、フェリックス・イェンのリミックスが売れたというのも面白いですよね。


三浦:オリジナル・ヴァージョンのミュージックビデオの公開は2012年で、まったくの別曲と言ってもおかしくないですしね。「Cheerleader」がヒットを放った背景には、やはりフェリックス・イェンのリミックスが外せず、これはアメリカでEDMムーヴメントが落ち着きを見せて、ディープ・ハウスがヒットの主流になっていることが考えられます。カルヴィン・ハリスの最新曲「How Deep Is Your Love」もその系譜にありますからね。ハウス・ミュージックがさらに細分化し、フューチャー・ハウスやベースライン・ハウス、そして「Cheerleader」のような“トロピカル・ハウス”が最近のヒットに傾向になります。


 近年の有名どころではロビン・シュルツ絡みの作品がトロピカル・ハウスの代表作で、「Prayer In C」(全英1位、全米23位)をはじめ、ミスター・プロブスの「Waves」(全英1位、全米14位)などが挙げられます。ほかにもKygoの「Firestone」や、サム・フェルトのロビン・Sのカヴァー曲「Show Me Love」などが顕著ですね。また、フェリックス・イェン本人もユニバーサル・ミュージックとアーティスト契約を結び、チャカ・カーン&ルーファスの往年のヒット曲「Ain't Nobody」をトロピカル・ハウス・サウンドでカヴァーし、ヨーロッパ全土やイビサではすでに大きなヒットとなっています。


KARL:EDMが落ち着いて、いまアメリカのメインストリームには1990年代のハウス・ミュージックの揺り戻しが確実にきてますよね。


三浦:その潮流にうまくハマったのが、「Cheerleader」なんでしょうね。また、ヨーロッパで流行り、イギリスのチャート首位獲得後にアメリカでもヒットするという一連の流れは、今までの音楽の歴史ではよく見られる光景ですよね。日本でもムーヴメントを起こしたオゾンの「マイヤヒ」然り、最近ではアレクサンドラ・スタンの「Mr Saxobeat」がその好例です。厳密に言えば、アメリカでの「恋のマイヤヒ」のヒットは、T.I.がリアーナをフィーチャーしたシングル「Live Your Life」でサンプリングしたことが知られるきっかけでしたけどね。


KARL:そもそもアメリカのチャートの歴史において、そういった楽曲を受け入れる土壌はほとんどなく、せいぜい数年に一回ヒットを放つアーティストが登場するくらいでしたから。それがEDM楽曲のチャート席巻以降は、その流れに違和感もなくなりましたよね。1979年、パトリック・ヘルナンデスの「Born to Be Alive」という、元祖ユーロビートと呼んでもいい曲がビルボード・チャートで最高位16位まで上昇しましたが、あくまでそのレベルのヒットでしかなかったわけで。


――ハウス・ミュージックのリヴァイバルといえば、クリーン・バンディットの「Rather Be」のヒットなども、その系譜にあると考えていいんでしょうか?


KARL:オミーの場合は、そこまでハウスは関係ないんじゃないかな? 個人的にはハウス・ミュージック・リヴァイバルの流れよりも、クリス・ブラウン「Look At Me Now」のようなフューチャリスティックR&Bの系譜にあるんじゃないかな、と思っていて。それと、「Cheerleader」のような曲をアメリカ人じゃなくジャマイカ人が歌ったから売れたんじゃないかな、というのも考えられませんかね?


三浦:それと歌詞でしょうね。「キミは僕のチアリーダー」という普遍的で誰にでもリーチできる歌詞がウケたんでしょうね。


――オミーのチャート・アクションを見ていて、「違和感」や「リリースから1年かけて首位を射止めた」などの理由から、ロス・デル・リオの「Macarena」(95年)を思い出しました。


KARL:ロス・デル・リオもリリースから1年ほどしてチャートのトップになった曲ですからね。ビルボードで違和感を覚える楽曲は、だいたいヨーロッパ経由のヒット曲。ただ、前で述べた通り、この数年はEDMのおかげもあって、だいぶ違和感は減りましたねけどね。


三浦:ヨーロッパ大陸でブレイクし伝播され、英国そして米国でもヒットするストーリーという物語は、もはやヒットの法則の定番になりましたね。


KARL:チャートにランクインする違和感ではなく、“曲そのものの違和感”というのも、引っかかる要素になっているんでしょう。噛めば噛むほど味が出てくるスルメのような感じでしょうか。それと注目すべきは“ワンワード”のタイトル曲。これまでのビルボードの歴史でワンワードのナンバーワン・ヒットは約160曲ほどあるんですが、この5年前後で激増している傾向にあります。ファレル・ウィリアムス「Happy」をはじめ、マジック!の「Rude」なんかもそう。


三浦:そういった意味では、ヒットの法則をいくつも複合的に重ねているのが、オミーの「Cheerleader」だったんでしょうね。


KARL:さまざまな要素が重なり、“ヒットするべくしてヒットした曲”ですね。


(取材・文=佐藤公郎)