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怪獣映画と恐怖映画のハイブリッドーー『進撃の巨人』襲撃シーンの新しさとは?

2015年08月18日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2015 映画「進撃の巨人」製作委員会  (C)諫山創/講談社

 映画『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』が公開から14日の時点で、動員138万人、興収18.4億円のヒットを記録している。同作は、『ガメラ 大怪獣空中決戦』など平成ガメラシリーズの特撮で脚光を浴び、このたび新しく東宝で制作される『ゴジラ』でも特技監督を務めるという樋口真嗣監督がメガホンを取り、脚本は映画評論家の町山智浩と、実写映画版『GANTZ』を手がけた渡辺雄介が共同で制作。4D版(MX4D、4DX)、D-BOX、IMAXといった規格で上映され、リアルでショッキングな描写も話題となる一方で、原作とは異なる設定やストーリーに賛否両論が飛び交っている。


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 映画評論家の小野寺系氏は、「人間ドラマの演出には納得出来ない点もある」と前置きしつつ、怪獣映画として特異な作品であると同作を位置付ける。


「原作者の諫山創さんは、1966年に東宝と米国のベネディクト・プロが製作した特撮映画『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』から、巨人の着想を得たと話していますが、その影響は映画版でも充分に感じることができます。樋口真嗣監督もまた、東宝の怪獣映画に大きな影響を受けているのは間違いのないところで、特殊メイクを施した人型の怪獣が、人間を掴んで頭から捕食するシーンは『サンダ対ガイラ』そのものです。また、樋口監督の短編『巨神兵東京に現わる 劇場版』の迫力ある特撮シーンで、CGを全く使わずミニチュアやセットを使用したように、巨人が暴れるシーンを、おそらくほぼCGを排し、従来の日本の特撮を進化させた技術によって描くことに挑戦したことで、独特のリアリティを生み出しています」


 冒頭で、巨人たちが外界と街を隔てる"壁"の内側に侵入し、手前に迫ってくるシーンは秀逸だったと同氏は続ける。


「だんだんと巨人が迫ってくる様子を、正面から長回しでじっくりと撮っていて、根源的な恐怖を感じさせる悪夢的なシーンです。部分的には、豪快な怪獣映画というより、むしろ恐怖映画の雰囲気に近いと思います。もともと『サンダ対ガイラ』は、西洋の恐怖映画にとって重要な題材である"フランケンシュタイン"を、怪獣映画に用いた作品で、いわば怪獣映画と恐怖映画のハイブリッド的な作品でした。同じように、『進撃の巨人』にも恐怖映画のエッセンスを感じますし、しかもそれはジャパニーズ・ホラー特有の薄気味悪さに近い。様々な作品の要素を組み合わせ、日本の土壌でしか作り出せないオリジナリティを獲得したことで、今作の映像表現は評価できるものになっているのではないでしょうか。」


 とはいえ、前出したように人間ドラマの描き方については、同氏は否定的に見ている。より恐怖を際立たせるためにも「もっとひとびとの生活を描くべきでは」と、指摘している。


「本作で描かれる人間ドラマは原作とは異なり、女性キャラクターが扇情的に描かれているところに、強い違和感を覚えました。原作では男女が対等に扱われていて、女性キャラクターであっても男性と同等の戦闘力があり、そこが魅力でもあったからこそ、映画での描かれ方は残念です。また、世界観の説明も不足していました。たとえば同じように巨人が人類に破壊をもたらす作品として『風の谷のナウシカ』が挙げられますが、同作では"風の谷"で暮らす人々の生活をしっかりと描いていて、だからこそ彼らに深く感情移入することができました。『進撃の巨人』では、その辺りの描写が足りないから、人が食べられても、単にショッキングな映像を見せられたという印象が強く、あまり同情ができなかったように思います。ただ、巨人が来たことに対して「想定外」という言葉が飛び出すなど、作品の中に政治性を感じさせたり、ミルトンの『失楽園』やダンテの『新曲』といったキリスト教的な物語を彷彿とさせるエピソードがあったりと、特撮以外にも、様々な興味深い要素が盛り込んであったので、それがうまく利用されれば面白い作品になるかもしれません。いまの日本でつくり手が「進撃」という題材でどのようなメッセージを観客に伝えることができるのか。前後編を合わせた作品の成功は、そこにかかっていると思います」


 9月19日に公開される後編『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』では、超大型巨人によって破壊された外壁の修復作戦に出発したエレンたち調査兵団のその後が描かれるが、"怪獣映画"と"恐怖映画"の要素を併せ持った作品として、納得のいく結末を見せてくれるのだろうか。(リアルサウンド編集部)