2015年08月17日 17:21 弁護士ドットコム
政府は8月14日、70回目の終戦記念日を前に、安倍首相の談話(戦後70年談話)を閣議決定した。安倍首相は、第二次大戦における行いについて、日本が「繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました」としたうえで、「歴代内閣の立場は、今後も揺るぎない」と過去の姿勢を維持する考えを示した。
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注目されていた「植民地支配」「侵略」「痛切な反省」「おわび」といった文言はすべて盛り込まれていたが、植民地支配や侵略の対象については明示しなかった。その一方で、「先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と未来志向を訴えた。
このような首相談話について、共同通信が14、15日に実施した世論調査では、「評価する」が44.2%で、「評価しない」の37.0%を上回った。法律の専門家たちは今回の談話をどう受け止めているのか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に意見を聞いた。
以下の3つの選択肢から回答を求めたところ、12人の弁護士から回答が寄せられた。
1 70年談話は評価できる →6人
2 70年談話は評価できない →3人
3 どちらでもない →3人
回答は、<70年談話は評価できる>が6人、<70年談話は評価できない>が3人、<どちらでもない>は3人だった。
<評価できる>という回答には、「これ以上、歴史認識問題を起こさせないために、政治家として現実的な対応をした」「外交的にバランス感覚に優れている」といった意見があった。一方で、<評価できない>という回答には、「自らの言葉としては侵略や植民地支配への反省やおわびを一切表明していない」「意味内容は玉虫色」といった声が寄せられた。
回答のうち、自由記述欄で意見を表明した弁護士10人のコメント(全文)を以下に紹介する。(掲載順は、評価できる→評価できない→どちらでもないの順)
【大西 達夫弁護士】
「政治の世界では今評価されていても将来にどんな禍根を残すか分からないことがあるかもしれないが、少なくとも現時点で考え得る最高水準の内容が示されたのではないか。19世紀から20世紀にかけての歴史のうねりの中で我が国がいかにして国際的孤立に陥り、先の大戦の惨禍に至ったかについて、国内外の要因を挙げて具体的に述べられており、むしろ過去の総理大臣談話より踏み込んだ『反省』を示したと思う」
【武山 茂樹弁護士】
「首相は、自らの政治的スタンスは横に置いて、中立的で評価できる談話を示したと思う。日本が過去の戦争で他国に与えた道義的責任はしっかり認めつつ、平和条約等で法的には賠償責任を果たしていることを、子どもたちに謝罪の宿命を負わせ続けるべきでないという表現で表している。その上で、日本が自由、民主主義、人権と言った価値を堅持し、国際社会で、貧困の除去や平和の追求といった使命を果たしていくと宣言している。正当、公平で評価できる談話だと思う」
【西口 竜司弁護士】
「外交的にバランス感覚に優れていると考えます。
反省すべきは反省し、他方で未来永劫卑屈な態度を否定した中身は素晴らしいと考えます。
中国、韓国に対する声明でもありません。日本は戦争により東南アジア諸国、太平洋諸国に迷惑を掛けました。全ての国に対するメッセージです。今後堂々とした態度で国際社会と対峙していくべきです。本メッセージからそのことが読み取れました」
【山本 毅弁護士】
「村山談話まで継承することは、安倍首相の本位ではなかったと思うが、首相として日本の外交防衛に責任のある立場からすればやむを得ない選択であったと考える。子供や孫の世代にまで謝罪をさせたくないとの思いは国民に広く受け入れられたと考える。これ以上、歴史認識問題を起こさせないために、政治家として現実的な対応をした首相談話であったと評価できると考える」
【加納 雄二弁護士】
「以下の内容は、憲法前文、第9条を連想させるもので、ひょっとしたら、安部さんは、この声明を根拠に、安保法案(戦争法案)を撤回することが期待できるかも知れません(真夏の夜の夢?)
『二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。』
『事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。』
『先の大戦への深い悔悟の念と共に、我が国は、そう誓いました。・・この不動の方針を、これからも貫いてまいります』」
【北嶋 太郎弁護士】
「刑事事件で認めている事件だと、被告人にどのように反省しているか法廷で話してもらうことになるわけですが、私は『ただ謝っても説得力がない、どのようなところが悪かったか理解して今後どうしていくかを話すのが反省だ』とアドバイスするようにしています。
今回の談話のよかったところは最後の部分で、日本が戦争の反省の元にどのような国を目指し、進んでいくのかを示したところだと思います。
戦争の反省のもとにこれだけ努力している、と胸を張れるように世界に発信していくことも必要なのではないでしょうか」
【大賀 浩一弁護士】
「村山・小泉談話のキーワードを並べつつ、自らの言葉としては侵略や植民地支配への反省やおわびを一切表明せず、一方で唐突に『積極的平和主義』の旗を高く掲げるなどと表明したり、『日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました』などと帝国主義の戦争を美化したり、『私たちの子や孫・・・に、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません』などと『戦後レジームからの脱却』にも通じる持論を展開したりと、随所に安倍カラーが。いったい何のための談話なのでしょうか...」
【伊藤 建弁護士】
「よく言えば、今回の談話は、これまでの談話を承継しつつも、未来志向への転換点となるものですが、その意味内容は玉虫色であるといわざるを得ません。
安倍首相賛成派は、これまでと何ら矛盾しない素晴らしい談話だと『解釈』し、反対派は、これまでの談話から変化している点を捉えて評価できないと『解釈』するでしょう。
このような読み手の解釈により意味が変わるという芸術作品のような文書であり、その手法は脱帽ものです」
【伊佐山 芳郎弁護士】
「この首相談話は、本音が隠された談話である。
『植民地支配』について、『わが国は、そう誓いました』という表現で、自分の言葉として語らず、先の大戦が日本の侵略だったと明確に認めず、『事変、侵略、戦争』と、単語を並べているだけである。
『痛切な反省』と『心からのお詫び』も、『わが国は繰り返し表明してきました』というだけで、ここでも自分の言葉として語っていない。
集団的自衛権の閣議決定、安保関連法案の衆院強行採決という憲法破壊をなし、原発再稼働を強行する政権トップの談話と合点した」
【濵門 俊也弁護士】
「すったもんだがありましたが、70年談話を『閣議決定』として、何とかここまでまとめあげた安倍首相の手腕は買いたいと思います。
もっとも、歴代内閣の談話の引用に終始し、安倍首相ご自身の歴史認識を明示されなかった点は、『逃げた』と言われても仕方ないと思います。
政治的中立性を求められる等、様々な制約のなかで天皇陛下が『おことば』を述べられているお心に思いを致す時,安倍首相に対しては、天皇陛下のお心を我が心として、もう少し汲み取ることができなかったのかなと苦言を呈したいところです」