2015年08月17日 15:51 弁護士ドットコム
「『アレルギー物質強要罪』という罪名があってもいい」——ツイッターにそんなつぶやきが投稿され、話題になった。投稿者は、アレルギーを軽視する人の多さに対し、「無知は人を殺す」と強く抗議している。
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注目を集めたのは、あるQ&Aサイトの投稿。祖母にアレルギー物質が入った料理を食べるよう強要され、発熱等の症状を発症したという人が書き込みをしていた。この人物はタケノコのアレルギーがあったのだが、祖母に「(タケノコは)入っとらんから、食べんや!」「好き嫌いはあかんで!」などと言われ、出された料理を仕方なく食べたところ「高熱と下痢と咳と鼻水と喉の腫れ」を発症してしまったのだという。
病院で診察を受けた結果、医師からタケノコのアレルギーが原因だと言われたそうだ。「アレルギー物質を好意で食べさせるのは犯罪、下手したら殺人だと思う」と憤る。
食物アレルギーは、人によっては重篤な症状が出ることがある。通院・入院が必要になったり、ひどいときは死に至る場合もある。現行法で、アレルギー物質を無理に食べさせる行為は、何らかの犯罪にあたるのだろうか。泉田健司弁護士に聞いた。
「アレルギー物質を無理に食べさせる行為は、傷害罪にあたる可能性があります。その場合、『アレルギーとは知っていたけど、(無知で)大丈夫だと思っていた』との言い分が通用するかどうか、つまり故意の有無が争点になると思います」
故意に食べさせたかどうかは、どうやって判断するのだろうか。
「これは個別具体的な事情によるとしか、答えようがありません。たとえば、今回のように祖母が食べさせたというケースでは、孫に傷害を負わせようと思っていたとは考えにくく、故意が否定される方向に向くでしょう。
ただし、祖母が今までに、孫がタケノコを食べてアレルギー症状が出たという話を聞いていた場合には、故意が認められる可能性が高まります」
食物アレルギーの危険について、社会の認知度が高まってきているのではないか。
「そうですね。私見ですが、昨今、アレルギーの人が増えてきており、アレルギーによって重篤な症状を引き起こす場合があることは、社会常識といってもよいと思います。
したがって、アレルギー物質の強要は基本的には故意が推認され、『傷害罪』になるのではないかと思います。また、『過失傷害罪』や『強要罪』なども検討の余地があるでしょう。
ただし、いままでのところ、そのようなケースを見聞きしたことはないですね」
では、アレルギー物質を食べさせられて何らかの症状が出た場合、食べさせた人に対して、治療費などを請求できるのだろうか?
「食べさせた人に、故意や過失が認められるならば、治療費等を請求できると思います。
ただ、食べさせた人が、相手にアレルギーがあると知らなかった場合、基本的には、民事・刑事とも責任を問われることはないでしょう。
しかし、知らなかったことに過失がある場合、刑事的には過失傷害罪、民事的には不法行為による損害賠償請求が成立する余地があると思います」
泉田弁護士は最後に、このように述べていた。
「アレルギーに関する知識の深さは、人それぞれです。たとえば、卵を調理したフライパンを洗って、その後、同じフライパンで卵を使っていない料理を作って食べたとしても、重篤な症状の方は、アレルギーを引き起こすことがあります。
よく食品の表示に、原材料に卵が含まれていない場合でも、『製造工場では卵を含む製品を生産しています』という注意書きがされていることがあるのは、このためです。
思わぬトラブルを防ぐためにも、学校教育などで、もっとアレルギーについて学習する機会が増えるとよいと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
泉田 健司(いずた・けんじ)弁護士
大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続、労働、企業法務等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。
ブログ:http://ameblo.jp/izuta-law/
事務所名:泉田法律事務所
事務所URL:http://izuta-law.com/