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現場派VS在宅派! アイドルオタクを最もリアルに描いた『ミリオンドール』の魅力に迫る

2015年08月15日 11:01  リアルサウンド

リアルサウンド

藍『ミリオンドール 1』 (アース・スターコミックス)

・現場派VS在宅派、そして地下アイドルVS地方アイドル


 『THE IDOLM@STER』『ラブライブ!』『アイカツ!』『Wake Up, Girls!』といったゲーム、アニメ作品や、最近でいえば朝井リョウの小説『武道館』、マンガ『闇金ウシジマくん』で有名な真鍋昌平による『アガペー』など、アイドルを題材にした作品は数多い。AKB48がブレイクして以降は、とくにその傾向は顕著だ。中でも藍によるマンガ作品『ミリオンドール』は、過去のアイドルを題材にしたフィクションと比較しても、突出したリアリティーを持った内容となっている。


 『ミリオンドール』とは、WEBマンガ誌『GANMA!』(コミックスマート)にて連載中の作品だ。さらに7月よりテレビアニメ化もされ、TOKYO MX、AT-Xなどの地上波で放送されている。コンセプトは、作中の作者の説明を引用すれば「アイドルの在宅オタクと現場オタク、その二人が応援する地下アイドルと地方アイドルの二重構造バトルがメインの群像劇」。在宅オタクとは、アイドルのライブなどの“現場”には通わず、テレビやネットなど“在宅”でアイドルを楽しむオタクのこと。そして現場オタクとは、逆に在宅よりもアイドルと実際に会える"現場"を重視するオタクのことを指す。


 ストーリーは、在宅派のプロの女オタ・すう子が応援するのが地方アイドルのイトリオ、現場派のカリスマ・リュウサンが応援するのが地下アイドルのマリ子、という関係性で展開する。オタクは推しのアイドルを売るために、アイドルは売れるために、それぞれの立場で切磋琢磨していく。


・チャリフト、女オタとの恋愛… リアルなディテール描写


 『ミリオンドール』の特徴は、まずディテールの描写がリアルな点にある。「オレだー!」と現場で高まって叫ぶオタ、地下ライブの場所が渋谷DESEO、握手会でガッツクオタとそれをいなすアイドルのやり取り、オタ仲間同士での女オタを挟んだ恋愛のいざこざ、アイドルオタの美容師がアイドルとの2ショットを撮っていることにジェラシーを燃やすオタ、出来レースの投票型イベント、チャリフト(ライブ中にオタがオタの体を持ち上げ、アイドルにアピールする行為をリフトと呼ぶ。チャリフトはその発展系で、自転車に乗ったオタが持ち上げられる)…、などなど、アイドルオタクなら誰もが記憶の片隅に残っていたり、共感できる描写、引用に溢れているのだ。寺嶋由芙、AKB48、ミニモニ。など、作者が実際に思い入れのあるアイドルの曲を登場人物に歌わせている点にも、そのこだわりを感じることができる。


・『特別なファン』は俺だけ! アイドルオタクの行動原理を描く


 しかし、『ミリオンドール』が他のアイドルを題材にした作品と比べてとくに優れているのは、そうした細かいディテールよりもさらに踏み込んで、「アイドルオタクの内面や行動原理をしっかりと描いていること」にある。例えばリュウサンはアイドルオタクである理由を「アイドルとつきあえても別れるかもしれないが 『特別なファン』は俺だけだ この先もずっと」「オレはこのケチな自尊心を お前に注ぐことでしか自分を満たせない ただのヲタクだよ」と自己分析し、それを理解したうえで、「どっちが影響力のあるヲタか見せてやるよ」と在宅派オタ・すう子への敵意を燃やす。一方すう子も、リュウサンへの対抗意識はありつつも、現場派の力を認めて「熱狂的なファンを増やすにはピンチケの存在が不可欠だ 若いオタを増やすために相性のいいグループSNSを活用する」と、あくまで在宅派のスタイルを貫き、応援を続けている。


 過去、数多くのアイドルを題材にした作品は、アイドルオタクを露悪的に強調するか、表面だけをなぞったイメージでしか描いて来なかったように思う。あるいはアイドル本人のストーリーを主軸とするため、もしくはアイドルはあくまで作品の材料であり本質的なテーマは別としていたため、アイドルオタクの描写はおざなりにされて来た。しかし、『ミリオンドール』はそれらとは全く違う。自身もハードなアイドルオタクである藍は、本編の合間にあるオマケページにて「オタクにも色々種類があり、世間一般のイメージはまだまだズレていること」といった趣旨を指摘している。意図的に、アイドルオタクの内面をクリティカルに描こうとしているのだ。


 現在のアイドルについて語るとき、アイドルオタクの存在は切っても切り離せない。『ミリオンドール』は、過去のアイドルを題材としたフィクションと比較して、最もリアルにアイドルオタクが描かれた作品ではないだろうか。今後はアイドル自身の描写も含めて、物語がどのように着地するのか、楽しみに連載の行方を見ていこうと思う。それと、アニメでの現場オタのコールや声援が異常にリアルに演出されていて面白いので、テレビアニメも是非チェックして欲しい。(岡島紳士)