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『ラブライブ!』声優のソロデビューはなぜ増えている? さやわかが作品とプロジェクトの特性を解説

2015年08月14日 07:41  リアルサウンド

リアルサウンド

『ラブライブ!』公式HP

 新世代アイドルプロジェクト『ラブライブ!』で主人公のアイドルグループμ's(ミューズ)を演じていた声優たちが、続々とソロ歌手デビューを果たしている。


 7月には星空凛役を務める飯田里穂が『rippi-rippi』で、10月には東條希役の楠田亜衣奈がソロデビューミニアルバム『First Sweet Wave』をリリース。新田恵海・内田彩・南條愛乃・Pile(パイル)・三森すずこは番組開始前からこれまでにかけてデビュー済みで、μ'sのメンバーでは久保ユリカと徳井青空を残すのみとなった。


 『ラブライブ!』がこのタイミングで次々とソロ歌手を輩出するのは、どのような背景があるのだろうか。同作を含むアニメ・ゲームカルチャーに明るいライター・物語評論家のさやわか氏は、作品の特質がこの現象に大きく影響していると解説する。


「まず前提として、『ラブライブ!』の声優さんは、もとより音楽活動を行っていたり、ソロ活動の資質があるメンバーを集めているので、μ'sがスマッシュヒットを叩き出してひと段落したこのタイミングで、ソロ歌手としてそれぞれの魅力を打ち出していくという計画なのだと思います。また、『ラブライブ!』はグループを応援するというよりは、どのメンバーを推して勝たせるかという、『電撃G's magazine』の読者参加型企画として始まった経緯があるため、本来は“箱推し”のファンが現れにくい仕組みだった。実際μ'sがロールモデルにしているAKB48も、それぞれがグループとは違う事務所やレーベルからソロ作をリリースしているのですが、『ラブライブ!』はよりソロ活動へ向かいやすい構造だといえます」


 また、メンバーがしっかりと歌手・アイドルとして下積み時代を経験していることも、固定ファンが多い理由の一つだという。


「μ'sは『電撃G's magazine』での企画が母体だからこそ、アニメ上で正式に9人メンバーのグループとしてμ'sが結成される第1期・8話よりもずっと前の段階から、すでにアイドルグループとしてライブを行っているんです。したがって名実共にアイドルにとっての下積み時代を経験しているし、ファンからすれば実在のメンバーとしての声優さんありきでアニメへと入り、二次元と三次元の両方で応援しているという構造が誕生していて、これが同作の面白い部分だと感じています。実際に行っているライブも、かなり本気度が伺えるパフォーマンスの質や熱量の高さで、キャラクターの衣服を再現した衣装が曲ごとに変更されたりもするし、予算もかなりかかっていると聞きました。いわゆるアイドルや声優、アニメ作品のリリースイベント的なものとは違ったからこそ、2年でさいたまスーパーアリーナの2DAYS公演を成功させた要因だといえるでしょう」


  4月30日よりスタートした『ラブライブ!サンシャイン』においても、新ユニット『Aqours(アクア)』が誕生した。久保ユリカと徳井青空のデビューを含め、同プロジェクトはこの先も新たなグループやソロ歌手を輩出するシステムとして機能していくのだろうか。同氏は6月に公開された映画『ラブライブ!The School Idol Movie』にそのヒントが隠れているとする。


「映画では『μ’sというグループを高校生の3年間という期間限定のものにするからこそ、グループがなくなってもスクールアイドルというものの定義は残っていく。だから後輩たちにそれを継承していってほしい』というメッセージが発信されており、言ってみれば同アニメがこれからもこの仕組みを使いながら次のスターを生み出していく機関になっていくという意思が掲げられたように思います。この期間限定的な売り出し方は、アイドルグループ・さくら学院のような構造に似ているともいえます。また、『伝統を守り続ける』というスタンスや、コンサートの最後に全員で合唱できる曲を作って披露するというやり方、MVの構成や作り込み方はハロー! プロジェクト的だし、彼女たちの振付を担当しているのが、ももいろクローバーZなど、スターダスト系のグループを担当している石川ゆみさんだったりと、実はAKBGだけでなく優れたアイドルたちへのリスペクトを込めつつ、それぞれのシステムから良い部分を抽出している魅力的な機関として成立しているんですよね」


 最後にさやわか氏は、同プロジェクトにはまた別の可能性が残されていることを示唆した。


「映画の興行収入は20億円を突破しましたし、ゲーム・アニメも快調です。ただ、ここまでライバルチームであるA-RISEにはスポットが当たっていないし、ファンアイテムもそこまで作られていないんです。ファンの目をμ'sに向けさせるための戦略であり、あくまでμ'sを好きになってもらうのが『ラブライブ!』の構造だったとするなら、これからはA-RISEをメインにしたスピンオフ企画が生まれる…ということも次の展開としては可能ですよね。ただ、制作元のサンライズは王道的な話の作り方を好む会社でもあるので、当面は主人公のグループにスポットをあてたものになりそうですが、これからも次々とソロ歌手や次のグループが音楽業界に羽ばたいていくことだけは間違いないでしょう」


 巧みな構造と着実な準備期間を経て大ブレイクを遂げた同プロジェクト。今後も声優アーティストを送り出す機能をもちながら、音楽業界でまだまだ『ラブライブ!』旋風を巻き起こしそうだ。(中村拓海)