「経済的な理由によって、今年のロシアGPが中止となるかもしれない」とドイツの地方紙が報じたのは、7月半ばのこと。しかし、それから約1カ月が経過し、10月9日に開幕する第2回ロシアGPまで2カ月を切ったいま、ロシアGPを危ぶむ声は聞こえてこない。
現在ロシア人としてただひとり、F1を精力的に取材しているオレグ・カーポフは次のように説明する。
「私はロシア人だが、ドイツに住んでいて、例の記事はドイツ国内で読んだ。結論から言うと、その記事は半分当たっていて、半分間違っている。憶測で書かれていて正確な記事ではない」
カーポフによれば、ドイツ紙の記事で事実に即しているのは、サーキットの所在地ソチの自治体がF1を開催するために約6400万ユーロ(約88億円)の資金が不足しており、政府に援助を依頼しているということ。
「確かに、ソチが単独で開催権料すべてをまかなえるわけはないからね。ただし、それは昨年の初開催のときも同じで、表彰式にプーチン大統領が出席したことからも政府が関与しているとわかるだろう。オリンピックにしても、F1にしても、ロシアで開催される大規模なイベントは国家的なプロジェクトだ。政府が援助しないわけがない」とカーポフは指摘する。
さらにドイツ紙は、今年のロシアGPのチケットが、まだ2万枚しか売れていないと報じていた。これもカーポフは一笑に付す。
「昨年も7月の時点でチケットの売れ行きは、そんなものだった。主催者側が売り出すチケットは合計5万5000枚。だから7月に2万枚も売れているなら、そんなに悪くない」
今年のロシアGP開催時期、サーキット周辺のホテルは埋まってきており、値段も高騰している。中止に追い込まれた7月のドイツGPとは状況が違う。さらにロシアGPではGP2が併催されることになっており、同シリーズにはセルゲイ・シロトキンが参戦している。言うまでもなく、F1ドライバーのダニール・クビアトはハンガリーGPで初表彰台に上がったばかり。このふたりのロシア人ドライバーを、ロシア政府が迎え入れないわけがないというのが、カーポフの主張だ。
「確かにロシアはルーブルの下落で経済的に厳しい。でも、国家的イベントはF1に限らず、他のスポーツでも予定通り行われており、問題ない」
近年F1で、初開催を迎えたグランプリが、わずか1年で姿を消した例はない。2度目のロシアGPは何事もなく行われるのだろうか。9月27日に開催される日本GPとともに、その2週間後の行方にも注意しておきたい。
(尾張正博)