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モンスターコンピ『IN YA MELLOW TONE』のセールスなぜ安定? 多角的な発信方法を読む

2015年08月11日 16:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『IN YA MELLOW TONE』

 2006年の設立以降、海外アーティストや日本のトラックメーカーを巻き込み、数多くのメロウなHIPHOP作を世に送り出し、リスナーの支持を得てきたGOON TRAX。同レーベルがカタログナンバー10番ごとにリリースするHIPHOPコンピレーション『IN YA MELLOW TONE』シリーズは累計32万枚を突破し、7月25日には最新作『IN YA MELLOW TONE 11』が発売された。


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 “世界中の無名アーティストを並べて作られたアルバム”としてリリースされている同シリーズだが、“1万枚売れればヒットの時代”に、なぜここまで安定したセールスを記録しているのだろうか。その答えはリスナーへの柔軟な届け方や制作手法にありそうだ。


 同シリーズは、現在、株式会社KADOKAWAで映像事業局音楽戦略開発課 シニアマネージャー・A&Rプロデューサーを務める寿福知之氏が旗振り役となり、『myspace』などのサービスで新人を発掘するところからスタート。“日本人の心に響くHIPHOP”を意識してリリースした作品は、iTunesのHIPHOPカテゴリで毎回1位を記録したり、タワーレコードなどの店頭でも多く手に取られ、特に『ヴィレッジ・ヴァンガード』では半数以上である17万枚を記録していることが、5月29日放送のニュース番組『Nスタ』(TBS系)でも明かされている。


 また、同シリーズは地方都市の若者にも“お洒落なドライブミュージック”として波及しており、筆者も地方のレコード店勤務時代に、『IN YA MELLOW TONE』が購入されていく様を相当数見届けてきた。同作をきっかけとしてサム・オックが亀田誠治の耳に届いたり、ROBERT DE BORONやre:plusなどもソロ作がコンピを追随するブレイクぶりを見せ、東大生ラッパー・RAqを発掘するなど、キュレーションメディアとしての側面も果たしていることも記憶に新しい。


 先述の『Nスタ』で、寿福氏は「10年前だったら絶対考えられなかったけど、ユーザーの顔が見えるし、このコアなお客さんからさらに新しい顧客に広めていってもらえる。そういう形を作れるのが一番のメリットではないか」と語っている。それを補足するかのように『IN YA MELLOW TONE 11』では、アイディアをネット上で提案し、賛同者を集めるクラウドファンディングが実施され、選ばれた20名のファンは『選曲会』に参加。作品に携わることでファンもスポークスマンの役割を担い、ネットや周囲のコミュニティに波及させているのかもしれない。


 さらに、同シリーズの支持は、ライブでの展開が後押ししているようにも思える。『Nスタ』でも、東京でのライブに海外や地方から観客が来ていることが伝えられていた。同レーベルは奇数月隔月で恵比寿のBATICAという小箱でオールナイト・イベントを行っているほか、年に数回は『IN YA MELLOW TONE TOUR』と題し、海外からゲストを招聘直近だと、クラウド・ファンディングサイト『CHEERS!』の協力で、サム・オックが大阪・宮崎・名古屋・札幌・仙台でのツアーを成功させている。これらの施策は、コンピレーションにありがちな“リリースするだけ”という価値観を転倒させ、ファンの熱量を持続させている要因といえるだろう。


 ネット・店頭での効果的なリリースと熱量を持続させるためのライブで、着々と売り上げを伸ばしつつある同コンピレーション。CD不況の時代において、この勢いがどこまで加速するのか、注意深く見届けたい。(中村拓海)