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WANIMAの登場でパンクシーンは新たな次元へ タブーなき創作スタンスを読み解く

2015年08月10日 13:11  リアルサウンド

リアルサウンド

WANIMA『Think That...』

 昨年10月、1stミニアルバム『Can Not Behaved!!』をリリースしてから、速度を上げて名前と音を広めているWANIMA。今夏は、JOIN ALIVE、ROCK IN JAPAN FES.、SUMMER SONIC、SWEET LOVE SHOWER、RUSH BALL……と、大きなフェスを行脚するという偉業を成し遂げている。私は、この状況が嬉しくて仕方がない。四つ打ちでも綺麗めでもない(ゴメンなさい)、泥臭いロックバンドである彼らが、大舞台を廻り、様々な趣向のオーディエンスにライブを披露することで、新たな価値観を強烈に提示出来る気がするからだ。しかも8月5日には、シングル『Think That…』もリリース。「終わりのはじまり」はデモの再録、「HOPE」はV.A『JUNK3』再録、そして、「いいから」と「TRACE」という2曲の新曲を収録と、これまでとこれからを封じ込めた絶好の内容。彼らが何故にずば抜けて成長しているのか!?を教えてくれる一枚なのである。


 とは言え、まだまだニューカマーな彼ら。順を追ってどんなバンドか説明していこう。WANIMAは、熊本出身の松本健太(Vo, B)、西田光真(G) という幼馴染の二人を中心に、2010年初夏に結成された。2012年の12月に、同じく熊本出身の藤原弘樹(Dr)が加入し、現在の編成となり、東京を中心に活動するようになる。そう、実はまだまだ歴史は浅いのだ。しかし、これまでリリースしたデモCDの3枚は、初めてライブを見た約3割ものキッズが購入していき、売り上げは4千枚を突破しているという。さらには、数々のメロディックパンクバンドの先輩との対バンの機会にも恵まれた。元々才能を持っていたことに加え、地道にコツコツ鍛えていった結果が、こういった状況を生み出しているのだろう。それを、何よりも現場に目を光らせているレーベル、PIZZA OF DEATHは見逃さなかった。決して短くはない歴史の中で、彼らとレーベルとして初めてのマネジメント契約を結んだのだ。そうして、環境を整えてリリースされた、記念すべき1stミニアルバム『Can Not Behaved!!』は、キッズだけではなく、元キッズや、大人たちをも「おお!」と言わしめた。リリースツアーは、全国33か所を廻ったうちの20公演がソールドアウト、ツアーファイナルのSHIBUYA O-WESTは即日完売。真っ直ぐな熱さだけではなく、砕けたユーモアも絶妙に挟み込み、エンターテイナーの可能性を感じさせるパフォーマンスを見せている。


 では、そんな多くの人を急激に惹き付けているWANIMAの魅力とは、何処にあるのだろう? 最早スタンダードとなったメロディックパンクシーンへ、刺激を与えるような存在感? もちろん、それも大いにある。少し前なら選ばれし者しか踏み込めなかったクラウドサーフやモッシュも、今はごく普通に楽しんでいる人がたくさんいる。それくらい、開かれたメロディックパンクシーンに対して、ここまで来たか!という感慨深さもあるけれど、正直、退屈に感じてしまう瞬間もある。では、メロディックパンクシーンを、新しい次元に持っていくには何が必要なのか? それが、WANIMAを見ているとよくわかるのだ。それは、いつの時代もパンクシーンの牽引者が行ってきた「タブーをなくすこと」。人懐っこい彼らだけれど、実は大きな変革を成し遂げているのである。


 その一つが“エロ”だ。……え、固く論じ出したように見えて、そこですか?と思わないで欲しい。最初、『Can Not Behaved!!』を聴いた時、ちょっと戸惑った。オブラートに包まないエロい歌詞が並んでいたからだ。これ、女の私が、どう解釈してレビューを書こうかな、と。そして『Think That…』にも、「いいから」という、直接的にベッドの上での駆け引きを描いた曲がある。ここで、やっとハッとした。戸惑っていたのは、私が女だからっていうだけではなく、他にこういう歌詞を書いているバンドが少ないからだ、と。常々私は、ロックバンドには色気が必要だと思っている。でも、キッズに向けたメロディックパンクには必要ないのかな、と勝手に決め付けていたようだ。メロディックパンクだって、エロさがあった方が、俄然ドキドキするじゃないか!と彼らに気付かされた。 また、実際の彼らは少年のようなピュアな笑顔を見せてくれる人たちだけに、そのギャップも面白い。ニコニコとタブーに向かって突き進んでいくWANIMA、やっぱり恐るべし。


 また、その一方で、故郷や家族に向けた愛を感情たっぷりに奏でるところも、彼ららしさなのだ。『Think That…』の中で言えば、「TRACE」がそうだろう。彼らが抱えてきた、“明るいメロディックパンク”には収まらない哀切の想いが、ジャンルや世代を越えて愛されそうな名曲に昇華されている。一見、エロとは対極にありそうな想いだ。実際、曲調は対極にある。しかし、共通しているのは、どちらにも照れがない、ということ。エロイことなんて大っぴらに出来ない、故郷なんて関係ない、というカッコ付けた感じが、彼らには一切ないのだ。ライブでも、斜に構えずに、とにかく笑顔でキッズに寄り添う。だからこそ、ニューカマーにも関わらず、盛大なシンガロングが巻き起こるのだと思う。


 最も人間臭いところを、ドバーッと出してやろう!というくらいの気概で突っ走るWANIMA。しょっぱなから裸で手を差し出されたら、こちらも脱がざるを得ないだろう。これから、もっともっと多くの人の心を真っ裸にしていくに違いない。
(文=高橋美穂)