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Drop’s・中野ミホ、GLIM SPANKY・松尾レミが語る理想の音楽「言葉とメロディがいっしょになったときに、すごい力を持つ」

2015年08月09日 17:30  リアルサウンド

リアルサウンド

Drop’s・中野ミホ、GLIM SPANKY・松尾レミ

 Drop’sの中野ミホ、GLIM SPANKYの松尾レミ。60年代、70年代のオーセンティック・ロックをルーツに持ちながら、決して回顧主義に陥ることなく、きわめて現代的なロックミュージックを体現しようとしているふたりの対談が実現した。


 リリースされたばかりの新作(『WINDOW』/Drop’s、『SUNRISE JOURNEY』/GLIM SPANKY)のことからお互いの好きな音楽、理想のボーカリスト像、さらには現在のシーンに対する戦い方まで。新世代ロックシーンを担うふたりの奔放で真摯な対話をじっくりと味わってほしい。(森朋之)


・「GLIM SPANKYのアルバムは正しくロックンロール」(中野)「Drop’sのアルバムは『いま歌っている、いま演奏している』という感じ」(松尾)


中野ミホ(以下、中野):大阪で1回、対バンしたことありますよね。


松尾レミ(以下、松尾):そうですよね。もう1年くらい前かな?


中野:あのとき初めてライブを見たんですけど、すごくカッコいいなって思って。


松尾:ありがとうございます! 私の最初の印象は……思ったより小柄な方なんだなって(笑)。中野さんがタンバリンを叩いてるのもすごく印象に残ってます。鍵盤の方もいらっしゃるし、いろんな音色を持っているバンドなんだなって。あのときは挨拶くらいしかできなかったから、今日はいろいろ聞いてみたいんですよね。どんな音楽が好きなんですか?


中野:最初は日本のバンドですね。The Birthdayが好きになって、彼らが聴いてきた音楽を掘り下げて。


松尾:そうなんですね! 私は中学生のときにBUMP OF CHICKENが好きになって、そこからサザンロックとかローリング・ストーンズ、モンキーズあたりにたどり着いたんです。さらにウッドストックのことを知って、そこから広がっていった感じですね。


ーー同級生とは話が合わなそうですね。


中野:そうですね(笑)。高校のときも、音楽の話をできる人はほとんどいなかったので。


松尾:いないですよねー。私はクラスの友達に「これを聴け」ってCDを貸したりしてましたけど(笑)。


私が生まれ育った場所はとにかく田舎で、テレビからの情報がすべてっていう感じだったんですよ。中野さんは札幌ですよね?


中野:いまも札幌に住んでます。そういえば高校のとき、バンプのライブに行きましたよ。


松尾:すごい! めっちゃシティガールじゃないですか!


ーーDrop’sは3rdフルアルバム『WINDOW』、GLIM SPANKYは1stアルバム『SUNRISE JOURNEY』をリリースしたばかり。お互いの作品の感想を教えてもらえますか?


中野:GLIM SPANKYのアルバムは正しくロックンロールだなって思いましたね。


松尾:お!


中野:気持ちよく聴けたし、これは私の好きな音楽だなって。自分がずっと聴いてきた音楽と同じようにスッと入ってくるというか。


松尾:嬉しいですね~。Drop'sのアルバムを聴いて、まず思ったのは「すごく生々しくて、リアルだな」ということなんです。現代の音楽って、ペタッと耳に張り付くというか、空気感が感じられないものが多いと思うんですよ。でも、このアルバムは「いま歌っている、いま演奏している」という感じがリアルに伝わってきて。


中野:その時にしか出せないグルーヴは意識してますね。ギターの荒谷(朋美)がいきなり違うエフェクターを踏んだり、ドラムが一瞬抜けてしまうこともあるんですけど、全体のグルーヴが良ければOKというか。


松尾:GLIM SPANKYもそういうやり方ですね。ベーシックはみんなで録るから、ドラムの人がスティックを落として、リズムがよれたり、タムの音数が違ってたりするんですけど、それがカッコよければそのまま使ったり。ギターソロもあらかじめ決めておくんじゃなくて、その場で何本か弾いて、いいテイクを選ぶんですよ。日によってテンションも違うから、そのレコーディングのときの最高の音を録りたいっていう気持ちでやってますね。Drop’sのアルバムも、いい意味でライブの熱さがあるなって。


中野:ありがとうございます。基本的にはメンバーそれぞれが好きなように演奏してるんですよ。特に今回のアルバムは、みんなでスタジオに入って「ああでもない、こうでもない」という感じで作っていった感じが強くて。


松尾:GLIM SPANKYはそれを2人でやってる感じですね。ドラムとベースのフレーズも考えなくちゃいけないから、そこは違うけど。


・「『これがカッコいい』と納得できることを表現している」(中野)


ーー中野さんはアルバムのインタビューで「ギターの音色は古くなりすぎないほうがいい」と言ってましたよね。


中野:そうですね。古い音楽が好きなんですけど、いまは2015年だから、その空気はやっぱり入れたいというか。意識して古い音にしようと思わなくてもいいんじゃないかなって。


松尾:まったく同じですね、私たちも。いまGLIM SPANKYが使ってる機材は、全部2015年版なんです。ギブソンからギターをお借りしているんですけど、「59年のビンテージモデルとオートチューナーが付いた最新モデル、どっちがいいですか」みたいな話があって。実際に弾いてみたら、私もギターの亀本(寛貴)も「最新モデルがいい」って思ったんですよね。


中野:へー!


松尾:ビンテージのギターはすごく渋い音がして、たとえばジミヘン・コードを弾くとシックリくるんですよね。だからこそつまらないというか、どっかで聴いたことあるっていう感じがしたんですよ。だったら、古い音楽を聴いてたほうがいいなって。2015年モデルは良い意味でクリアだし、音の立ち上がりも早いんですよ。そっちのギターを弾いたほうが、いまやっている音楽に合うんじゃないかって気がして。もちろん曲によってはビンテージを使ったほうがいいと思いますけど、とにかく懐古趣味だと思われるのがすごくイヤで。


中野:うん、すごくわかります。


松尾:ね!「60年代、70年代の音楽に憧れていて、そういう音を出したい」ということではないし、現代の音楽も大好きなので。好きなものを並べてみたら、たまたまその時代の音楽が多かったというだけで。


中野:私もホントにそんな感じです。「渋いね」って言われることも多いけど、私もメンバーも含めて、古い音楽を勉強するように聴いている人は誰もいなくて。全員で音楽をやっていくなかで「これがカッコいい」と納得できることを表現しているだけですね。「昔っぽい音楽を作ろう」と思ったことはないです。


松尾:うん、そこは完全に共通してますね。


・「心を揺さぶられる言葉って、保育園児でもおじいちゃんでも、年代に関係なく伝わっていくはず」(松尾)


ーーおふたりはバンドのソングライターでもあるわけですが、メジャーデビュー以降、楽曲を作るうえで変化してきた部分はありますか?


松尾:いままでよりも届く歌詞を意識するようになりましたね。自分たちの曲が街の中で聴こえてきたり、テレビから流れてくる機会が増えてきて。たとえばケータイをいじりながらテレビを見ている人にもスッと入っていくくらい、届きやすい歌詞を書くべきだ!と思って。そういう部分の意識はかなり変わりましたね。ドラマの主題歌もそうですけど、音楽ファン以外の人にも聴いてもらえるわけじゃないですか。自分たちの芯を崩さず、どれだけ柔軟に対応できるかっていうのも大事だなって。


中野:私もわかりやすさは大事だと思います。特にサビの頭は、伝わりやすい言葉を選ぶようにしているし。ただ、個人的なこと、自分のことを歌うことも大事だと思うんですよね。


ーー出発点はあくまでも自分自身の感情であるべきだ、と。


中野:そうですね。自分が思っていないことは歌えないので。あとは自分の感覚というか、「景色や匂いみたいなものをどれだけ言葉にできるか」ということを意識してますね。


松尾:やっぱり言葉は大事ですよね。もちろん曲のなかにあるものはすべて大事なんだけど、たとえばギターの音色にどれだけこだわったとしても、お茶の間レベルで気づいてくれる人って、あまりいないと思うんですよ。でも、心を揺さぶられる言葉って、保育園児でもおじいちゃんでも、年代に関係なく伝わっていくはずなので。サウンドにこだわることも思う存分やって、そのうえで幅広いフィールドに届く歌詞を書かないとなって。


中野:メロディもそうですよね。言葉とメロディがいっしょになったときに、すごい力を持つと思うので。


松尾:曲と歌詞は一心同体ですからね。そこは私もすごくこだわってます。もちろん、歌も大事ですよね。


・「シンプルな言葉が伝わる歌って、時間が経っても聴ける」(中野)


ーー確かに。ちなみにおふたりにとってのシンガーの理想像って?


松尾:そうですね…。私としては歌い上げるよりも、しっかり歌詞が届く、言葉が届くことが大事だと思っていて。タイプでいうと、ジャニス・ジョプリンよりもパティ・スミスというか。精神の置場としてはそっち寄りなんですよ。


——パティ・スミスは詩人としても評価されているし、ポエトリーリーディングも素晴らしいですからね。


松尾:はい。息遣いひとつで変わってくるポイントもあると思うし。伝わる音楽をやりたいなって。


中野:私はキャロル・キングが好きなんです。


松尾:あーいいですね!


中野:ロックスターというよりも、ナチュラルな雰囲気に惹かれるというか。気取ったり、カッコつけたいというところもあるんだけど、やっぱり私も言葉がしっかり届くような歌い方をしたいので。シンプルな言葉が伝わる歌って、時間が経っても聴けると思うんですよ。そういう普遍性を持った歌い手になりたいって思いますね。


・「しっかり根を張ったうえで、いろんな曲を作っていきたい」(松尾)


ーー年齢によって表現も変わってくると思いますか? Drop’sもGLIM SPANKYも“少女から大人へ”という時期なのかな、と。


松尾:アルバムに入っている曲も、高2の頃から蓄積されてきた曲たちですからね。いま23歳なんですけど、16歳、17歳の頃に書いた曲も、当時と同じ気持ちで歌えるんですよね。それは芯がブレていないことの証明だと思うし、だからこそ1stアルバムにもあえて収録したかったんです。もちろん時代や年齢によって変わっていく部分もあると思うんですけど、大事なのは芯がブレないことじゃないかなって。ローリング・ストーンズがずっと続いているいちばんの理由も、そこだと思うんですよね。しっかり根を張ったうえで、いろんな曲を作っていきたいなって。


中野:私の場合は“そのときに思っていたことを記録する”という感覚が強いですね。あとはバンドの全員が「これがカッコいい」と納得できることをやっていきたいなって。それが3コードのロックンロールじゃなくてもいいし。


松尾:そうですよね。


中野:私、昔の歌謡曲も好きなんですけど、ずっと残っている曲にはやっぱり普遍的な言葉があるんですよね。音楽を続けていくなかで、そういうものを作りたいなとも思うし。


松尾:私も同じです。新曲を出すたびに変化したいというか、「GLIM SPANKY、次はこう来たか!」と思ってもらえるような存在になりたいなって。


中野:うん、それもすごくわかります。


松尾:楽器が増えてもいいと思うし。自由におもしろい音楽を作っていけたらいいですよね。


ーーもうひとつ、ふたつのバンドには共通点があると思っていて。それは「必要以上にオーディエンスを煽らない」っていうことなんですが…。


中野:やらないですね(笑)。そういうことが苦手っていうのもあるんですけど、あえて盛り上げなくても、歌をちゃんと聴いてくれる人はいると思ってるんですよね。あとは、自分たちがカッコつけて演奏してるのを見て楽しんでくれたらなって。


松尾:好きなように楽しんでほしいっていうのがいちばんですね。特に強制するようなこともないし、いつでも自由にしてほしいなって。


中野:そうですね。私は歌以外のことで声を出すのが恥ずかしいっていうのもあるんですけど…。


松尾:ラジオとかは?


中野:えーと、このままです(笑)。MCとかも関係ない話ばかりしちゃうんですよね。次のライブの告知をしなくちゃいけないのに「いいお天気ですね」とか。


松尾:音楽で表現するのがいちばんですからね。MCでもちゃんと伝わる言葉で話さないといけないとは思うけど、しゃべりが上手い必要はないし。「盛り上がりたい」という人も絶対にいますけど、たとえばちょっと手を挙げるとか、そういうことをするだけでも盛り上がる合図になると思うし。


ーー最後に音楽以外の話題を。おふたりは喫茶店が好きという共通点もあるんですよね。


松尾:あ、そうですよね! いまどきのカフェもいいんですけど、純喫茶が好きなんですよ。コーヒーを飲むだけではなくて、その場所にいる時間を買うというか。


中野:わかります! そう考えると500円くらいの値段は安いですよね。


松尾:そうそう。家族も純喫茶が好きなんですけど、私が上京するとき、父親が仕送りのなかに「純喫茶費」を入れてくれたんですよ。少し高くても、純喫茶に行く時間を作ったほうがいいって。


中野:素敵ですね~。


松尾:その空間にいることが大事というか。そういうことに価値を見出してるんですよね。


中野:純喫茶の雰囲気が好きだし、落ち着くんですよ。あと、お店にいる人を見ているのもおもしろいんですよ。ひとりひとりにドラマがあるというか…。人間観察も好きなので。


ーーじゃあ、この続きは喫茶店でコーヒーを飲みながら。


松尾・中野:ぜひ!


(取材・文=森朋之/撮影=下屋敷和文)