「最低賃金の引き上げ」が話題の米ファストフード業界ですが、労働者にとっては明るいニュースばかりではないようです。
7月23日付のバズフィードニュースにヴェネッサ・ウォング氏が寄稿した記事によれば、ファストフード店のほとんどの仕事は、10年以内に機械に取って代わられると見られています。(文:夢野響子)
労組は「注文や支払いの自動化」に警戒感強める
ハンバーガーのファイブガイズ・バーガーやメキシコ料理のチポトレなどにモバイル注文・支払技術を提供するOloの最高経営責任者ノア・グラス氏は、ファストフードの注文業務の未来について次のように語ります。
「これまで長い列に並んで自分の番を待ち、レジ係に食べたい物を言って、機械に打ち込んでもらっていたのが、2、3年でみんな自分の手でできるようになります。何しろ、8割の人が位置確認やウェブにアクセスできるデバイスを持ち歩いているんですから」
スターバックスやマクドナルドなど大手ファストフードチェーンも、スマホアプリや店内キオスクを取り入れています。消費者の多くも、このような機械を通じて自分の手で注文することを好んでいるようです。
こうなると、引き上げ前の最低賃金時給7.25ドル(1ドル=125円として約905円)の支出ですら危うくなってきます。レストラン労組代表のマリア・マイヨット氏は、注文の自動化に警戒感を強めています。
「注文や支払いの自動化は脅かし戦略。高い賃金を要求すると、首を切られることを間接的に伝えようとしている」
「注文の正確性をチェックする係」が増えた
現在、機械の導入が顕著なのはピザショップです。ドミノピザでは注文の半分、ピザハットでは約4割がウェブサイトやスマホアプリから送られており、その割合は上昇中です。ドミノピザでは顧客がデザインした好みのピザを保存することができ、リピートオーダーの率を上げています。
スターバックスでは、注文の約2割がモバイルアプリから。自分で注文することで、間違いも待ち時間をなくなるというメリットが指摘されています。マクドナルドは米国内の2000か所に、自社専用のハンバーガー注文機を設置しています。
サンドイッチのパネラは昨年4月、2017年までに全店舗にセルフサービスの注文機を導入すると発表しました。これにより店舗当たり1人から2人のレジ係が削減されます。
最高経営責任者のロン・シャイフ氏は4200万ドル(約52億4000万円)のシステムを導入するにあたり、従業員を再編成して注文の正確さをチェックする仕事を与えました。アプリから注文する顧客の多くは、サンドイッチをカスタマイズすることが分かったからです。
「注文取りのような退屈な仕事」なくなるのか
このほか記事には、注文機だけでなくロボットたちが調理をしたり、配膳をしたりする写真が掲載されています。まるで人間の仕事がどんどん機械に奪われているかのようです。
しかし「ロボットの台頭」の著者マーティン・フォード氏は、このような技術の導入は賃上げとは無関係に、必然的に起こるものだとしています。ニューヨーク市立大学のステファニー・ルース准教授も、
「ファストフードのレジ係は、もう過去のもの。注文取りのような退屈な仕事を、食べ物の質やサービスの向上へ置き換えるべきです」
と主張します。そして「ここで始まっている変化は顧客にとっても、労働者にとっても良いこと」と説明します。要するに低賃金・低スキルのいわゆる「マックジョブ」がこの世から消滅することになりますが、果たしてすべての人がこれに納得できるでしょうか。
(参照)What Fast Food's Tech Experiment Means For Restaurant Workers (Buzz Feed)
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