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海外と日本におけるライブストリーミング配信の差とは? 各フェスの事例を比較してみた

2015年08月07日 21:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『Coachella Valley Music and Arts Festival』公式HP。

 今年も海外フェスでさまざまなライブストリーミング配信の取り組みが行われている。今年の6月に開催されたイギリスの巨大音楽フェス『Glastonbury Festival』では、3日間6ステージ最大250時間に及ぶ生配信が行われたり、各国で開催されているEDM系フェス『ULTRA』では、当日の生配信はもちろん、高画質のライブ映像をアーカイブ化してフェス終了後も楽しめるような環境が整えられている。


 これらのような配信は日本からでももちろん楽しむことができるが、海外フェスならではの楽しみ方だ。日本の主要フェスでライブストリーミング配信を導入しているものは現状とても少ない。同じフェスでも日本と海外でインターネット配信の取り組みについて差があるのはなぜなのか。海外フェスの動向に詳しい音楽ライターの上野功平氏に聞いた。


「欧米を中心とする海外ではフェス自体の歴史も長く、幅広い世代に根づいた文化となっています。発売初日にチケットが完売するほど人気が高いものが多いため、参加できないファンへの救済措置的な意味合いと、将来の顧客を呼び込むためのプロモーションツールとしての役割を果たしています。現に、日本でも海外フェスに参加したことがある人や、してみたいという人が増えているような感覚がありますね。さらに、ライブストリーミング配信はSNSと連動できる強みがあります。Twitterでハッシュタグをつけながら配信を見ている人同士で盛り上がるなど、SNSとの親和性も大きなポイントの一つなのかもしれません」


 また、海外では配信するシステムを提供する企業の協力体制が整っている、という点も大きいという。


「通信会社の大手T-モバイルは『YouTube』と提携し、『Coachella Valley Music and Arts Festival』やシカゴの『Spring Awakening Music Festival (SAMF)』といった北米の音楽フェスを筆頭に、ライブのストリーミング配信を請け負っています。また、アメリカ最大手の『AT&T』は、2010年の『Glastonbury Festival』でまともに通信できなかったというクレームが殺到したことを反省し、ここ最近は数テラを超える超巨大アンテナを会場に持ち込んでいるようですね。そのような企業の協力体制が生配信をさらに盛り上げているのだと思います。一方、日本では各放送局が中継を担うことが現状一般的で、まだまだそのような通信会社との連携は難しいかもしれません」


 日本でライブ映像を生配信するという試みに踏み込めない事情について、同氏は以下のようにも指摘する。


「どうしても日本の場合はライブ映像ひとつとっても、パブリシティや販売コンテンツの要素が強いのが現状です。日本はCDやDVDなどのパッケージも海外に比べてまだ全然売れているので、そのような流れは当たり前だとも思うのですが、ライブなどの体験にお金を払う人が確実に増えているので、そこは切り離して考えてもよいのでは、とも思いますね」


 しかし、一昨年の『FUJI ROCK FESTIVAL』や昨年日本初上陸した『ULTRA JAPAN』など、日本のフェスでライブストリーミング配信が行われる事例も一部で見られるようになってきた。


「2013年の『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演したナイン・インチ・ネイルズのステージは、全編生配信が行われました。彼らの復活後初ライヴだったので、どちらかというとアーティストの施策という側面が強く実験的な中継ではありましたが、大きな前進だと感じました。その模様は、海外でも多くの人が見ていて当時話題となりました。また、日本発のフェスではありませんが、『ULTRA JAPAN』では生配信を行いました。EDM系のフェスのほうが配信に関して積極的です。テーマパークのように豪華なステージ・セットや照明・花火の演出、派手な衣装に身を包んだオーディエンスなどの映像映えという意味でも、生配信との親和性は高いのかもしれないですね。導入できるフェスから生配信の文化が少しずつ日本にも根づいてほしいです」


 インターネットでライブを配信することの最大のメリットは、国外の人も中継を見ることができるという点だろう。


「国内というよりは、国外の人々に対して現場の雰囲気を伝えることができるのがライブストリーミング配信のメリットだと思います。『FUJI ROCK FESTIVAL』、『SUMMER SONIC』あたりでそのような取り組みができれば、海外の来場者が増えてよいのではないでしょうか。今年のフジロックは、例年に比べてアジア系の来場者の姿を多く目にしました。円安の影響やオリンピック開催を控え、全体的に日本を訪れる海外の方が増えているタイミングでもありますし、フェス文化が根づいている欧米はもちろん、アジア圏の方々にも日本のフェスの魅力を伝えるいいきっかけになると思います」


 アジアやヨーロッパなど海外に進出する日本のアーティストが増えている中、インターネットを通して日本のフェスの模様や音楽シーンを伝えていく取り組みが少しずつ行われてもよいのかもしれない。様々な事情はあるにせよ、新規の音楽ファンを獲得していくためには、情報を広く公開していくということが今後より必要となっていくのではないだろうか。(久蔵千恵)