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なぜオーストラリア出身女優はハリウッドで人気なのか? ミア・ワシコウスカらの活躍から理由を探る

2015年08月07日 18:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 近年、ハリウッドにおいて国籍の多様化が進んでいる。昔からイギリス系の俳優の活躍は珍しくなかったが、最近ではそれ以外の国から来た俳優の躍進が目立つようになった。とくに女優界では顕著で、分かりやすい例を挙げるとするならば、アカデミー賞の主演助演両女優賞において、候補に挙がった5人の中にアメリカ以外の国籍を持つ女優が必ず入るという状況が、もう20年以上続いている。


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 中でもここ20年の間で急激に目立ってきているのが、オーストラリア出身の俳優たちである。アカデミー賞常連のラッセル・クロウや、メル・ギブソン、ケイト・ブランシェットなど1980~90年代から活躍するスター、あるいは21世紀に入り頭角を現した若手スターたちのほとんどが、ハリウッドメジャーの大作映画で主演・助演クラスの役柄を演じているのである。


 とくに20代前半にしてワーナーの『エンジェルウォーズ』(2011年)で主演を務めたエミリー・ブラウニング(1988年生)と、ディズニーの超大作『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)でアリスを演じたミア・ワシコウスカ(1989年生)の二人は成長著しく、将来性も抜群な女優である。ちょうど今夏、日本でこの二人の主演作がそれぞれ公開された。


 ブラウニングが主演を務めるイギリス映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(2014年/公開中)は、人気バンド「ベル・アンド・セバスチャン」のスチュアート・マードックが監督を務める青春ミュージカルで、スコットランドのグラスゴーを舞台に、拒食症で入院していた少女が、病院を抜け出して向かったライブハウスで知り合った仲間とともに、音楽の世界へ踏み出す物語。


 一方、ワシコウスカ主演の『奇跡の2000マイル』(2013年/公開中)は、実在した冒険家ロビン・デヴィッドソンの回顧録を映画化したロードムービーで、4頭のラクダとともにオーストラリア西部の砂漠を歩いて横断した女性の姿を、35mmフィルムで撮影された雄大な大地の映像とともに描いている。


 オーストラリアでは現在年に100本程度の長編映画が作られている。映画市場の規模としては大きくないが、だからと言ってこの国を「映画後進国」と安易に呼ぶことはできない。


 1898年に世界初の映画スタジオである「ライムライト・デパートメント」が作られてから、当時のオーストラリア映画界は隆盛を極め、多くのハリウッドメジャー会社がオーストラリアの地にスタジオを建設するようになった。その理由は極めて明確で、土地が広く安く、かつ英語が通じるということである。それにより現在に至るまで、オーストラリアとの合作によるハリウッド大作が作られることは決して珍しいことではなくなったのだ。
 
 エミリー・ブラウニングはまさにその恩恵を受けた一人である。まだオーストラリアでも駆け出しの女優だった彼女が、米豪合作のホラー映画『ゴーストシップ』(2002年)で物語のキーとなる少女役に抜擢された。その理由として、数多くのハリウッド大作を手がける映画製作会社ヴィレッジ・ロードショー・ピクチャーズがオーストラリアにあったからという点も挙げられるかもしれない。しかし、その後数本のオーストラリア映画を経て、初めてのアメリカ映画となる『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』(2004年)でメインキャラクターを演じ一躍存在を知られることになったブラウニングの最大の幸運は、その時点で同世代に彼女以上の知名度と存在感を持つ英語圏の女優がいなかったということである。


 彼女の稀有なところは、ハリウッド大作の主演を務めた後も、出演する作品が多岐に渡っている点だ。『エンジェルウォーズ』の直後に出演したのはオーストラリアのインディペンデント映画であるし、小品のホラーやサスペンスから、英国の文芸映画までこなし、今回の『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』ではミュージカル映画というジャンルに初挑戦。ポップな衣装を身に纏いながらも、どこか影を持った少女を好演している。本作はこれまでの彼女のキャリアの中でもずば抜けて魅力的な映画である。


 一方で、ブラウニングが世界的にその名を知られることになってから数年後、1歳下の同郷女優が世界的メガヒットとなる超大作の主演に抜擢される。それがミア・ワシコウスカであり、彼女がブレイクするきっかけを後押ししたのは、オーストラリア映画界のもうひとつの側面であった。


 ワシコウスカの名前が映画人に知られたのは『I Love Sarah Jane』(2008年)というショートフィルムによってである。ゾンビに侵された町で、生き残った少年たちの中で抜きん出たオーラを放つ少女を演じているのが彼女だった。この作品はサンダンス映画祭で上映され、また他の映画祭でも高い評価を得た。


 オーストラリアは毎年、長編映画よりも多くの優れた短編映画が製作されている国である。低予算で作り上げられるインディーズの短編映画の数々は、各国の映画祭で上映され、優秀な若い人材がいることを世界中にアピールする面をもっている。このアピール力こそ、オーストラリア映画界の最大の強みと言えるであろう。


『奇跡の2000マイル』で、彼女は久しぶりにオーストラリア映画に復帰し、まるでこの数年間の急成長を振り返るかのごとく、母国の大地を歩いていく。アリスにふんし、映像作品としては30人目となったジェーン・エアを演じ、死にゆく少女やヴァンパイア、ボヴァリー夫人まで演じてきた彼女が、これまでのどこか繊細だったイメージとも異なる、力強い演技を見せているのだ。


 これから先、まだまだハリウッドのみならず世界の映画界はオーストラリア女優のポテンシャルの高さに驚愕するであろう。ブラウニングとワシコウスカとほぼ同世代のマーゴット・ロビーをはじめ、『クジラの島の少女』(2003年)のケイシャ=キャッスル・ヒューズ、より若い世代ではモーガナ・デイヴィーズやエリー・ガルなどがブレイクのタイミングを見計らっている。そして長年テレビ界で活躍していた大御所ジャッキー・ウィーヴァーまでもハリウッドで評価される時代になったのだから、より一層彼女たちが競い合い、高め合っていく姿を見守っていきたい。(久保田和馬)