「アリさんマーク」で知られる引越社が、元社員とアルバイトから訴えを起こされている。引っ越し作業で荷物が破損してしまった際に、給与から弁償費用などを違法に天引きされていたというのだ。
運送中の事故でトラックが傷つき、40万円の修理代金を会社に負担させられた人も。残業代の未払いも横行していたという。この報道を受けてネットでは「黒アリさん」「アリ地獄」などと揶揄する声があがっている。
バイトの負担上限は1万円。残りは社員で分割
引越社は1971年に名古屋市で創業。引越社関東と引越社関西をあわせたグループ3社で北海道から九州までをカバーしている。過去にはオリコンCS(顧客満足度)ランキングで1位を獲得したこともあった。
今回訴えを起こされたのは、このうち引越社と引越社関西の2社。引越社関東は含まれていないが、口コミサイトのキャリコネには引越社関東を含めた現役社員およびOBOGによる厳しい口コミが見られる。
引越社関東に勤務していた30代前半の男性は、今年3月の口コミで自らが退職した理由は「自己負担の大きさ」と明かしている。その内容は今回報じられたものとほぼ同じだ。
「車両の破損も、引越作業での家財の破損も基本自己負担。現場作業での破損などは、その現場での作業員での負担です」
ただしアルバイトの負担額は上限が1万円となっており、残りは作業に関わった社員が負担しなければならない。負担額は毎回高額とは限らないが、人数が不足したまま作業をすると、破損が多くなるとしている。
ブラック労働を強いられたうえ、現場で問題が起きれば社員が自腹を切らされる。これでは何のために働いているのか分からない。
引越社関西の2014年の口コミにも「荷物の破損やトラックで交通事故を起こした場合の修理費は基本給与天引きとなる。そのためその月の給与が手取り15万を切るなどざらである」というものがあった。グループ全体で統一的な運用をしていたのだろうか。
月80時間の「過労死ライン」までみなし残業
この慣例は以前から続いていたようで、引越社関東の2011年の口コミにも「とにかく問題が起きた時に社員が自腹で払うケースが多い。車の故障とか荷物の破損とか、現場責任者の確認不足ということで全て片付けられてしまう」という訴えがあった。
保険業界関係者によると、引越会社が貨物賠償責任保険や自動車保険を掛けていないとは考えられず、「契約更新時の保険料の値上げを避けるために、保険を使わず社員に弁償金を負担させていたのではないか」ということだ。
なお引越社の口コミには、30代後半の男性からサービス残業の実態が書き込まれている。
「タイムカードはあるが19時に半強制的に終了したことにされ、自ら時間外勤務を申告することが不可能。会社としては月80時間まではみなし残業として手当が発生しないが、実際にはその時間をゆうに超えても時間外勤務手当は発生しない仕組みになっている」
月80時間の残業は「過労死ライン」といわれる水準だ。口コミはいずれも報道内容と一致する部分が多く、「黒アリさん」疑惑はかなり濃いと見ていいだろう。
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