2015年08月06日 11:41 リアルサウンド
近年の音楽シーンにおいて大きな位置を占めるようになった「フェス」というものは、果たしてどのように育ち、どう変遷してきたのか。フェスを巡る様々な状況をルポタージュしてきた当サイトの連載「フェス文化論」では、“特別編”として様々なフェスの作り手にインタビューを行い、その設計思想や狙いを解き明かしてきた。
そして今回は、いわゆる「三大フェス」の一つとされる『SUMMER SONIC』についての取材が実現。「都市型フェス」として産声を上げた由来、ラインナップの幅を広げてきた経緯、そして国際交流に力を入れ「アジア最大の音楽見本市」を目指すこの先のビジョンについて、クリエイティブマンプロダクションの平山善成氏に話を聞いた。(柴 那典)
・「『フェスはこうあるべき』みたいな既成観念は勝手に作られたもの」
――『SUMMER SONIC』は今年で16年目を迎えます。最初の時点でフェスのコンセプトは定まっていたんでしょうか。
平山善成(以下、平山):すでに『FUJI ROCK FESTIVAL』が97年に始まっていましたからね。当然同じものをやってもしょうがない。イギリスの『Reading and Leeds Festivals』のように東京と大阪で同時開催するというコンセプトのロックフェスを日本でもやろうと考えました。2000年の初年度は富士急ハイランドで開催しましたけど、2年目からは幕張に会場を移して、理想に近い形になった。そこから回を重ねて今に至るという感じです。
――実際に『Reading and Leeds Festivals』にも行かれましたか。
平山:行きました。ただ、実際に行ってみると、レディングの会場は都市ではなくて牧場のようなところなんです。広い草原の中にたくさんステージがあって、幕張メッセのような近代的な街の中でフェスをやっている感じではない。そのギャップはちょっとありましたね。
――都市型ロックフェスを、しかもスタジアムと幕張メッセのような巨大なコンベンションセンターを同時に使って開催するという発想は世界的に見ても新しかったということでしょうか?
平山:そうかもしれないですね。それまではやはりフェスといえば野外のイメージが強かった。インドアの空間や野球場という既存の建物の中で開催するという考え方は、今振り返って考えてみると新しい考え方だったかもしれないですね。
――ただ、普段からイベントを行っていた場所だけに、『SUMMER SONIC』が場所としての「フェスらしさ」を獲得するのは逆に難しかったのではないかと思います。その点について、初期の頃はどう見ていましたか?
平山:どうしても『FUJI ROCK FESTIVAL』と比較するとフェス感のようなものは出しにくいんですよね。既存の建物の中でやるし、他のプロモーターやイベント会社が同じ会場を使うことだってある。その中で『サマソニ』という冠をつけた時に、「『サマソニ』=フェス」というイメージを獲得するには数年かかったと思います。特に幕張メッセはどうしても見本市的なイメージが強い。でも、そういう面があってもいいとは思っていたんですよね。
――あえて見本市のイメージを引き受ける、ということでしょうか。
平山:そうです。特に『サマソニ』は、初年度から活きのいい新人アクトを紹介してきたという自負もあります。
――たしかに、00年のラインナップには当時新人バンドだったコールドプレイとシガー・ロスを抜擢していましたね。その後もアークティック・モンキーズをいち早くブッキングしたりしてきた。
平山:そうですね。新人の見本市的な部分は今でもあります。そういう側面を大事にしつつ、ステージも増えて規模が大きくなっていくにつれて、全体的なフェス感が出てきたのではないかと思います。なにしろ、最初は2ステージでしたからね。今の『サマソニ』に比べるとずいぶん小規模なものだった。でも、当時はそれをやるだけでスタッフは手一杯でした。そこからスタートして、徐々にフェスのあり方を更新してきた感じです。
――ゼロ年代初頭くらいの『サマソニ』は、あくまで洋楽ロック主体のフェスでした。その後、だんだんとジャンルの幅を拡大したラインナップになっていきます。この変化の背景にはどういった意図があったんでしょうか?
平山:まずはステージが増えて、多くのアーティストにも出てもらえるようになったということがあります。そこから、いろんな広がりを見せるようになった。清水(クリエイティブマンプロダクション代表取締役社長・清水直樹氏)は「誰が来ても楽しめるフェスにしたい」ということはよく言っていますね。ロックのアーティストだけじゃなくて、R&Bやヒップホップも、K-POPもアイドルも、どんなアーティストが来ても『サマソニ』ならOKになっている。発表の時に「このアーティストは違うんじゃないか」とロックファンから批判が来ることもあるんですけど、でも実際に当日を迎えてみると人が沢山入って盛り上がっている。それならOKだと、こちらとしても捉えています。「フェスはこうあるべき」みたいな既成観念は勝手に作られたものだし、『SUMMER SONIC』としては「今年はこれを見てください」と提案しているだけなんですね。
――そういう発想はいつ頃に生まれたんでしょうか。
平山:初年度からそうだったと思います。JB(ジェームス・ブラウン)のようなファンクの大物も出演していた。その時点で、『SUMMER SONIC』のミクスチャーなコンセプトはあった。それが基盤になって、年月を経て、ブラック・アイド・ピーズやビヨンセが出る流れになってきたのかなと思います。
――では、本格的にラインナップの幅が広がってきたターニングポイントというといつ頃でしょうか?
平山:2007年にブラック・アイド・ピーズが出た年ですね。この年の盛り上がりがきっかけになって、ロックファンだけじゃなくてポップミュージックのファンの人もこういうフェスを求めていると実感しました。海外のヒットチャートのトップにいるような人たちが『SUMMER SONIC』に出ていてもおかしくない。そういう確信があって、それ以降はビヨンせやジェイ・Zが出るという流れに繋がってきていますね。
――近年でいうと、リアーナが出たときはピットブルやKE$SHAのようなR&Bやポップスのメジャー感あるアーティストが並んでいました。
平山:その頃からブッキングも意識していて、一日はポップ系の日、もう一日はロック系の日とか、そういうコンセプトを作るようにしていました。ああいうポップ・アイコンになり得るアーティストがヘッドライナーをつとめるようになったことで、『サマソニ』の幅も広がったと思いますね。
――『FUJI ROCK FESTIVAL』と『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』と『SUMMER SONIC』の三大フェスの中でも、リピーターが比較的少なく、ヘッドライナーによって毎回ガラリと客層が変わるのが『サマソニ』の特徴だと思います。そのあたりはどうでしょうか。
平山:そうですね。『サマソニ』が一番、年ごとのお客さんの入れ替わりが多いと思います。たとえば、昨年だとアークティック・モンキーズがヘッドライナーで出て、今年はファレル・ウィリアムスが出るとなると、やっぱりファン層が違う。それが良い循環になっていると思います。『フジロック』は3日間必ず行くという人が何万人かいて、それがずっと続いてきている。『サマソニ』はそうではなく、毎年来てくださっている人がベースにいて、プラスその年ごとに来る人が変わる。そう考えると「一度は来たことがある」という延べ人数は他のフェスに比べても多いと思います。それが『サマソニ』の強みであり、特徴だと思いますね。
――もうひとつ、近年の『SUMMER SONIC』はアトラクションの充実も特徴にあげられると思います。お笑いやアイドルのライヴを行うサイドショーのステージがあったり、アート作品を展開するエリアもある。これはどうでしょうか。
平山:そういう側面があった方が『サマソニ』らしいというイメージはありました。ライブ以外にも「何でもアリ」感があっていい。意識してああなっているわけではないですけど、結果としていろんなものが展開される場にはなってきています。
・「ライブ会場で一緒に英語で歌っている人が増えている」
――特に、今ではロックフェスにアイドルが出るのは当たり前になりましたが、『サマソニ』はそれに関して一日の長がありますね。Perfumeもいち早く出演していました。
平山:2007年のことですね。その時は入場規制が掛かってしまうくらいでした。当時はいわゆるフェスに来るような音楽ファンがPerfumeのライブを観る機会がそんなになかったと思うんです。でも、実際に観るとパフォーマンスがすごい。そこから「これはアリなんじゃないか」と思われるきっかけの一つになったんじゃないかと思います。Perfumeはいまやトップアーティストとして海外公演もしていますし、今年はソニックマニアでプロディジーと同じステージに立ちます。ももいろクローバーZやBABYMETALもそうですね。BABYMETALなんて、最初は先ほど言ったサイドショウのステージにお笑いの人に並んで出ていましたから。
――『SUMMER SONIC』におけるBABYMETALのストーリーは、すごく面白いことになっていますよね。最初はフードエリア脇の小さなステージに立っていたのが、いまや『SUMMER SONIC』がモデルとした『Reading and Leeds Festivals』のメインステージに立ってしまっている。
平山:いい話ですよね(笑)。
――『SUMMER SONIC』が始まった時には思いも寄らなかったストーリーだと思います。
平山:確かにそうですね。彼女たちもメタルファンからいろいろ言われていたわけですが、いまやレディングのステージに立つまでに認められている。『サマソニ』もいろんなアーティストを出すことによって認められて、アーティストにも大きくなっていってもらいたい。斜に構えているような人にも、話のタネにでもいいから、ちょっと見てみてほしい。それで「すごいね!」となれば、やっている側としてもありがたい。そういうのも、ひとつの理想的なフェスのあり方だと思うんです。
――今年は、ラインナップではケミカル・ブラザーズとファレル・ウィリアムズがヘッドライナーにいます。このブッキングの傾向についてはいかがでしょうか。
平山:今年は、より海外のポップシーンを意識している並びになっていると思います。アリアナ・グランデやイマジン・ドラゴンズ、マックルモア・アンド・ライアン・ルイスのように、去年のグラミー・アーティストやチャートに長く名前が乗っていたような人たちが名を連ねている。一方でケミカルとかマニックスやプロディジーといったロックフェスに出演してきた人たちも混ざっている。それが同じ『サマソニ』の土俵に乗っているというのが今年のラインナップですね。
――『サマソニ』は毎年活きのいい新人をフックアップしているわけですが、今年の注目はどの辺りでしょうか?
平山:個人的にはウルフ・アリスが好きですね。90年代のオルタナ感、ソニック・ユースみたいな良さがある。スレイヴスもオススメです。
――ここ最近では、日本でも洋楽の情報をリアルタイムで受け取っているリスナーが増えているような印象があります。現場ではどうでしょうか。
平山:インディーのバンドはまだちょっと時差があるかなと思っています。アイドルとかポップミュージックのファンの方が時差は少ない感じですね。ワン・ダイレクションに代表されるようなアイドルグループや、サム・スミスくらい大衆性のある人だと、あんまり時差がなく、海外の温度感とイコールに近くなってきているのかなという感じはします。
――それはやはりここ数年の音楽を巡る状況の変化によるところも大きいと思いますか?
平山:それはあるでしょうね。今は音楽を聴く機会が平等になってきていますからね。
――YouTubeや『Apple Music』や『LINE Music』、『AWA』などの登場によって、海外のリリースとの時差がなくなった。
平山:それは大きいですね。いろんなアーティストをフォローしていれば、言葉はわからなくてもリリースは入ってきますよね。そうすると、興味があれば聴くわけだし、今までは雑誌を介して伝わっていた情報が直接入ってくるので、それだけでも時差はかなり減っている。クリーン・バンディットやスモールプールズのように、海外でブレイクしたばかりの人たちが今年のラインナップにも入っているのは、時代性を意識してきた『サマソニ』ならではのものかなと思います。あと、言葉の問題は相変わらずあると思うんですが、それも少し変わってきているように思っていて。
――というと?
平山:見たところ、ライブ会場で一緒に英語で歌っている人が増えているんです。勉強して歌っている人もいるでしょうし、もちろん英語ができる人もいると思いますけど、とにかく大合唱が起きている。
――そうですね。6月のZEDDの来日公演でも大合唱になったと聞きました。
平山:そう。ほぼ全員が歌ってましたからね。ZEDDは今年の『SUMMER SONIC』でもメインステージに出演するので、見所の一つになると思います。
・「アジア圏から『サマソニ』にやってくる人も増えてきています」
――一方で、『Hostess Club All-Nighter』とのコラボもあります。<Hostess Entertainment>はレーベルとして、インディー系のバンドやアーティストを発信してきたわけですが、このコラボに関してはどのようにお考えですか?。
平山:<Hostess Entertainment>さんも大きな会場でやりたいということと、『サマソニ』もインディー系に特化したラインナップをプレゼンしたいということがあって、お互いのコンセプトが合致しました。『サマソニ』に来るような若い人たちが、初めてトム・ヨークやディアハンターを見て衝撃的な格好よさを感じてもらえるかもしれないし、そこから興味の幅が広がってくれれば、うちにとってもHostessにとってもいい結果に結びつくんじゃないかということで始まった感じですね。
――また、アジア系のアーティストのブッキングも、数年前から積み重ねてきていますよね。
平山:そうですね。ここも『SUMMER SONIC』が力を入れているところの一つです。2011年からマリンスタジアムの外周エリアで「ASIAN CALLING」というステージを展開しています。そこには台湾や韓国、インドネシアやタイのオルタナ系のアーティストも出演している。今はアジア圏から『サマソニ』にやってくる人も増えてきていますからね。そういった人たちにも観てもらいたいという狙いもある。たとえば台湾のMAYDAYはアジア圏全域でミスチルくらいの人気がある。そういう人たちが日本のフェスに、アウェーな環境でも出てくれている状況は嬉しいです。『SUMMER SONIC』がアジアで認知されるのは良いことだと思いますね。
――『SUMMER SONIC』にしても、この先アジアのポップ・ミュージックシーンを日本に向けて発信していく狙いがある。
平山:そうですね。実際に見ると格好いいバンドも多いですからね。日本の音楽ファンもきっかけや話題作りとしてみてもらえたらいいなと思います。東南アジアの音楽というとワールドミュージック的なものを思い浮かべがちなんですけど、全然そんなことはないんです。インドネシアやタイにも、日本のインディーシーンをリスペクトしているバンドがいる。最先端のサウンドを追求している人もいる。ここから『サマソニ』のメインステージに出るバンドが出てきてもおかしくないと思います。
――一方、今年からはヨーロッパとのコラボレーションとして、フランスで開催されている『Les Eurockéennes』との提携もあります。この取り組みはどういう意図なんでしょうか。
平山:うちの駐在員がパリに1名いるんですが、彼女が窓口になって、『サマソニ』とのコラボを通してお互いの音楽文化を活性化させたいということで始まった話です。フランスのシーンって、例えばダフト・パンクとかジャスティスくらいの存在になれば自然と日本にも入ってくるんですけど、知られていなくても、フランスならではの面白いポップミュージックをやっている人たちは沢山いるんです。うちも現地のスタッフに今のフランスのシーンで熱い新人をリサーチしてもらったりしています。
——THE DØなどの出演は、フランスのポップアクトを日本に紹介しよう、という意図がある。
平山:同時に、日本の音楽シーンをフランスに紹介しようという意図もあります。向こうも日本のミュージックシーンに興味を持っていて、昨年末のカウントダウンジャパンをフランスから見に来たりしていました。そういうところから、『Les Eurockéennes』に日本のアーティストが出演するようになりました。僕もこの前行ってきたんですけど、THE BAWDIESはかなり盛り上がっていたし、SeihoもBO NINGENも、受け入れられてました。『Les Eurockéennes』は、日本人が出ていくフェスの場としてすごくいいきっかけにはなっている気がしますね。フランスには日本文化に対する興味があるので、それを通じて日本のカルチャーとフランスのカルチャーの交流が進んでいけばいいなと思っています。
――単に人気アーティストが集まるだけではなく、アジアやヨーロッパ各国のポップミュージックの見本市にもなっている。そこが目指していくビジョンにある。
平山:そうですね。『SUMMER SONIC』がアジア最大の音楽見本市になっていけばいいかなと思います。
(取材・文=柴 那典)