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★STARGUiTARの新作が示した、マイペースで奔放なダンス・ミュージック

2015年08月05日 18:11  リアルサウンド

リアルサウンド

★STARGUiTAR

 日本の、そして世界のクラブでEDMが席巻する近年。もちろんそれに呼応する音楽もあれば、独自路線を突き進むクラブミュージックも数多く存在する。AAA、西野カナ、倖田來未といったアーティストを手掛けつつ、ドープなトラックメイクも行ってきた“SiZK”が、2010年にスタートさせたソロ・プロジェクト・★STARGUiTARの最新作『Wherever I Am』がまさにそう。近年の時流などお構いなしに、奔放でマイペース、かつウィットの効いたクラブミュージックに仕上げてきた。


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 といっても、彼の音がポップスとしての強度を持ち始めたのはここ最近のこと。以前はループを多用したアッパーなダンスミュージックを展開しており、常に“新しい音“を提案する音楽作家・トラックメイカーとしての一面を強く打ち出していた。そんな★STARGUiTARに変化があったのは2014年9月。H ZETT M やMELTEN (JABBERLOOP, fox capture plan)、Hidetake Takayama、世武裕子、Schroeder-Headz、Chieko Kikuchi (KAGERO) といった、豪華なピアニスト陣が参加したコンセプトアルバム『Schrödinger's Scale』をリリースしたときから、明らかにメロディの作り方が変わった。


 数々のピアニストと共演することにより、改めて鍵盤の楽しさや使い方を知った彼は、“ループミュージックからの脱出”を試みたようだ。最新作は前作と違い、ゲスト・ピアニストの参加は1曲のみ。その1曲も、前作に参加したMELTENが自身のバンドfox captured plan名義で参加したもの。すでに公開されているMVは、★STARGUiTARが同バンドの手練3人をコントロールするような映像に仕上がっており、生音の良さとエディットの快感が同居した楽曲に仕上がっている。


 また、「detour feat. LASTorder」は、★STARGUiTARの作ったであろう原型を、客演のLASTorderが徹底的に壊して刻んだ形跡が随所にみられるし、ほかにもジャジーヒップホップライクな「I Spell You」やFuture Baseのような音作りでしっかりトレンドを回収する「knowledge」など、クラブミュージックシーンの“次”を見据えた構成も目を引く。


 それでいて重すぎず、オーガニックなエレクトロサウンドにまとめ上げているあたりは、生来のポップセンスが効いているからだろう。事前に公開していたデモ版より、全体的にローを抑え目にしてメロディを立たせていることからも、1万枚のセールスを超えた前作を踏まえ、★STARGUiTARが本作をさらに多くのリスナーに届けようとしていることは明らかだ。


 “シーンに迎合しない”という言葉は、ともすればポップであることを放棄するという意味合いを持つ。しかし、都会の喧騒から少し離れ、ヒップなやり方を提示する『Wherever I Am』のような作品であれば、この言葉のポジティブな面が感じられるのではないだろうか。(中村拓海)