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Charima.comと印象派、東西現役OLユニットの新作に潜む“がさつ女子”と“メイク事情”

2015年08月05日 11:11  リアルサウンド

リアルサウンド

印象派『AQ』

 ラブソングの主人公を勝手に妄想しちゃうこの連載。今回は、現役OLユニット東西対決というテーマでいきましょう。


 東の現役OLユニットは、ハウス/テクノ寄りのアッパーなエレクトリックビートに歯切れの良いラップを乗せるCharima.com。今年7月のメジャーデビューミニアルバム『OLest』ではロック寄りの曲調も採り入れ、これからさらなる広がりが期待される1MC+1DJユニットだ。彼女たちは、世の中の不条理にOL目線で舌鋒鋭くツッコミを入れる歌詞が持ち味。言い回しもストレートで、時折、同性である女性に毒気混じりの言葉で刃を向けることもある。


 西は、2010年の結成以来、大阪でぼんやりOL生活を送り、マイペースで活動を続けてきた印象派というグループ。8月26日にリリースする(配信は8月5日スタート)1年2ヶ月振りのミニアルバム『AQ』が今から話題を集めている。こちらはちょっとオルタナ寄りのポップなダンスロックで、ラップじゃなくツインヴォーカル。歌詞はOL生活で感じたことがベースになっているそうだが、その表現は印象派というより抽象派で、出来事を写実していくというより、揺れ動く感情をポエティックに綴り、どこかメランコリックな情感が漂うのが特徴だ。 


 Charisma.comで取り上げるのは、『OLest』に収録された唯一のラブソング「マメマメBOYがさつGIRL」。こちらはマメな男子とがさつな女子という凸凹カップルを描いた曲だが、女性のオス化がネットメディアで指摘されている昨今、歌詞に出てくるがさつな事例に「あれ?私のこと?」なんてハッとする女性も多いのではないだろうか。


 この曲で描かれている女子は、《洗濯(の)山から靴下掘り当て》履くのが常習。《雑誌は部屋の隅でバームクーヘン》状態に積まれ、その部屋に《ゴミ箱はないわ》と開き直る。がさつ女子はドアを足で締めちゃう、なんてよく言われるが、この子はお風呂も《生足で判定 お湯加減》。インスタントラーメンを鍋のまま食べるのもがさつ「あるある」だが、この子は箸を使うのも面倒なようで《豆腐はスプーンですくって食す》という強者だ。自分がオフの日にたまに作る彼氏への弁当も中身は《冷凍食品チンしてポン!》。その弁当箱は《食べたら洗ってね》と笑顔で送り出し、自分は二度寝。起きて、溜まった掃除や洗濯をするのかと思いきや、友達からの《突然の電話にほっぱらかして》出掛けちゃう、自分に《甘々がさつガール》なのだ。


 ちなみに、ひとり暮らしをしている20代~30代前半の働く女性に聞いたアンケート調査(マイナビウーマン)によると、洗濯の頻度は「週2~3日」が最多で47%。「週1日」という人も約20%いる。掃除は「週1回」が約40%で最多。2週間、もしくは2週間以上に1回という人も合計で約14%いる。会社で朝から晩まで働いて、ときには男性社員並みに残業するんだもの、やはり掃除や洗濯は休日にまとめてというパターンが多いのだろう。洗濯物も溜まるし、洗ってない食器も溜まる。床のホコリも、出し忘れたゴミも、溜まる、溜まる。オマケに会社でストレスも溜まる。とにかくいろいろ溜まってるんですね、OLさんは。


 一方、がさつ女子=ノーメイク女子というのもネットでよく見る意見。とはいえ、「シティリビングWeb」の調査によると、OLさんが夏場に会社で化粧直しする回数は、「1日1回、もしくは2回」が合計で約7割もいるから、大抵の女性は、メイクや見た目に気を遣っているのだろう。


 西のOLユニット、印象派が7月1日に先行配信したシングル「綺麗」は、そんな女性のメイク事情が着想のひとつにあって生まれたのではないかと想像できる曲。女性にとって美しさとは何なのか。そんな美の定義をちょっとナナメな切り口で問いかけているナンバーだ。


 この曲の対象は《かなりヤバめのオーラ飛ばして》《キュートな笑みで》男性と視線を交わす女性。《短めのミニをゆらして》《理想的なボンバーゆらして》とあるから、スタイルも相当いい女性なのだろう。「美人は性格が悪くても許される」問題は、昔から職場や友達関係で異論反論いろいろ言われているが、彼女たちも《正しいのはなんだ まちがいとはなんだ やさしいとはなんだ こぼれ落ちるのはなんだ》とギモンを提起。自分も《綺麗になりたいわ》《非礼無礼に咲きたいわ》と、美しくなってワガママを言いたい願望を歌いつつ、《赤いクランベリーを塗って》《機械のようになりたくない A-HA HA》と、最近目につく美の基準の画一化を冷ややかに笑い飛ばす。


 さらに2番に出てくる《汚いものはやだ》《理想の自分まだ》《全ての過去と姿を捨てて》という歌詞からは、美容整形もテーマに含まれている気が。《真贋 倫理観も闇のなか》と、どこか拭いきれない不安や違和感を覚えつつ、《誹謗中傷ハナウタに変えて》と美を追求し謳歌する彼女たちの実態を歌っている。


 この「綺麗」は、アルバム『AQ』の中で最もグルーヴーで華やか、なおかつ抜群にキャッチーなサビを持つナンバー。他にエレポップな「テレパシー」、キラキラニューウェイブな「クリームソーダシティ」、叙情系フォークロックな「キューポラ」、自分たちのことを《ゆるふわトークの陰にはかなり獰猛な》と歌った「QとA」など、幅広いタイプの楽曲を収録している。どの曲もクオリティーが高く、ユニークな個性がキラリ。もうひとつの先行シングル「Miss Flashback」の評価も上々だし、一気にブレイクする気配濃厚の注目株だ。(猪又 孝)