8月1日から、経団連加盟企業の選考活動が解禁された。しかし就活自体は実質的に始まっており、7月1日時点で半数もの学生が内定を手にしているとの調査もある。
経団連非加盟企業はもちろん、人材確保を焦った一部の加盟企業を含めて、すでに採用活動を本格化させているためだ。就活を短期集中型にするために解禁を後ろ倒ししたにもかかわらず、逆に長期化しているのが現実だ。
このことについて日経新聞が8月1日付の社説で、状況を改善するよう強い調子で求めている。タイトルは「就活に振り回される学生を放っておけぬ」というものだ。
「日本の未来のため知恵を出し合いたい」日経が呼びかけ
社説は、外資系やIT企業は例年通り早い時期から選考活動を開始していると指摘した上で、加盟企業であっても水面下で選考しているケースもあるため、学生の中に「出遅れまいとする気持ち」が生まれることに同情を示す。
これによって学生の学業の時間が確保しにくくなり、就活が長引き苦戦することで学生が自信を失いかねない。そこで社説は、企業が新卒一括採用だけでなく既卒者採用にも力を入れれば「学生も早い時期からの就活を見直すだろう」としている。
また、夏だけでなく秋や冬にも一定数を採る通年型の採用を行えば「学生の負担は和らぐはずだ」とするなど、学生の負担を軽減しようと訴えている。
「学生が勉学を妨げられず円滑に就職できるよう後押しするには、多面的な取り組みが要る。日本の未来のため知恵を出し合いたい」
この記事に対し、神戸大学大学院の大内伸哉教授(労働法)は同日、自身のブログで賛意を示している。「就活ルールは即刻見直せ」として、後ろ倒しにもかかわらず学業に支障が出ている以上、「趣旨に適合的でなかったとして,即刻ルールを変えるべきでしょう」と意見を述べている。
労働法の大御所が「しばらく様子を見る」経団連を批判
また大内教授は、経団連が後ろ倒しで混乱が生じたことを認めながらも、指針が政府の要請を受けたものであったことを理由に、「再び見直しに踏み切るとしても少なくとも来年度には間に合わない見通し」と表明したことに深い失望を表した。
「学生は,就活に人生を賭けているのです。それは,自分たちも就活を経験した人たちはわかっているはずでしょう」
「経営者にとって重要なことは,環境の変化に迅速に対応することです。しばらく様子をみてから判断しようという悠長なことを言っているようではいけません」
『就活「後ろ倒し」の衝撃』(東洋経済新報社)で早くから弊害を指摘していた人材研究所代表の曽和利光氏は、オンライン署名プラットフォームの「Change.org」で6月から署名集めを行っている。その内容は、経団連と文科省に宛てた呼びかけをするものだ。
「就活『後ろ倒し』の見直し、新卒採用の時期条項の撤廃・自由化を求めます」
曽和氏は「就活が長期化しており、学生や企業が疲弊している」など現状の問題点を指摘。具体的な対案について、キャリコネニュース編集部の取材に対し、このように回答した。
「倫理憲章に時期条項が盛り込まれる前の状況に戻すのが望ましいと思います」
「3年生の10月」から広報活動を始めれば問題は減る?
経団連は2003年の倫理憲章改定にあたり、2004年の採用・就職活動に関して「卒業学年に達しない学生に対して、面接など実質的な選考活動を行うことは厳に慎む」という一文を盛り込んだ。
これ以降、企業の採用選考は「大学4年生の4月以降」という流れができ、今年度はさらに後ろ倒しにされてしまった経緯がある。つまりそれ以前の状態に戻せば、現状の問題点は少なからず改善されるというわけだ。
曽和氏によると改定以前は「3年生の10月」に広報活動が開始され、年末年始頃から説明会を開催。試験が終了した2月中旬頃から選考活動が始まり、3月にピークを迎えるというスケジュールだったという。
このスケジュールだと春休み中に就活が被るため学業への影響も少なく、当時の採用活動を知る人事担当者からも「あの頃のスケジュールで何も問題がなかったのに」との声があがっているとのことだ。
経団連が今年度の反省を踏まえて即座に見直しを行えば、「朝令暮改」との批判は免れない。しかし現状が悪いと分かっていても変えないことの方が、学生にとって迷惑であることは確かだろう。
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