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音楽シーンの異端児・ディプロの正体とは? 主要プロジェクト「メジャー・レイザー」を軸に分析

2015年08月03日 16:20  リアルサウンド

リアルサウンド

ディプロ

 いま、ディプロ周辺が騒がしい。今年2月にスクリレックスとのユニット:ジャック・ユーのファースト・アルバム『Skrillex and Diplo present Jack Ü』(日本盤は6月10日発売)をリリースすると、主要プロジェクトであるメジャー・レイザーのニューアルバム『Peace Is the Mission』を6月1日(日本盤は6月24日)に発表。両作からのシングルがそれぞれビルボード・シングル・チャートでヒットを記録し、さらにはディプロが複数曲のプロデュースに関与したマドンナの最新アルバム『Level Heart』の先行シングル「Bitch I'm Madonna feat. Nicki Minaj」もスマッシュヒット中と、関わったプロジェクトすべてがランクインを果たしている。


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 現在の音楽シーンを語る上で避けては通れない異端児ディプロ。この男の正体に迫ってみたい。


 ディプロは、常に世界中の“珍奇”なサウンドを追い求めている印象がある。まず彼の名が世に知れ渡ったのは、2000年代中盤におけるM.I.Aのプロデュースが大きなきっかけ。最新のエレクトロニック・ミュージックとトラディショナルな音楽(当時はソカやM.I.Aのルーツであるタミルの楽器など)を融合させたスタイルは世界中の注目を集め、その後のブラカ・ソム・システマやスパンク・ロック、サンティゴールドなどのプロデュースでも常に斬新なサウンド・プロダクションでシーンに一石を投じてきた。クドゥーロやバイレファンキ、ボルチモア・ブレイクス、近年では社会現象にまでなったバウアー「Harlem Shake」、DJスネークとリル・ジョンの大ヒット「Turn Down For What」を自身のレーベル〈MAD DECENT〉からリリースし、トラップ~トゥワーク・シーンを牽引するなど、ディプロが目をつけて世に送り出してきたジャンルやアーティストは枚挙に暇がないほど。


 そう、ディプロは常に流行を“発信する側”のクリエイターなのだ。世界中から面白い“素材”を探し当て、価値を見いだす姿は、まるで音楽シーンにおけるトレジャーハンターそのもの。だからこそ、リスナーもアーティストも「次は何をしてくれるんだろう?」という期待を胸に彼の作品を待ち望んでいるのだ。


 ディプロはそのオリジナリティゆえ、アンダーグラウンド・シーンからカリスマ的な支持を獲得しながら、メインストリームで活躍するトップ・アーティストからも熱烈なラブコールを受ける稀有な存在。特に2010年代に入ってからの活躍は目を見張るものがある。ビヨンセ「Run the World (Girls)」(2011年)に始まり、アッシャー「Climax」(2012年)といったワールドワイド・ヒットを手がけ、スヌープ・ドッグがスヌープ・ライオン名義でリリースしたレゲエ・アルバム「Reincarnated」(2013年)は、ほぼ全編をプロデュースするなど、話題作を常に投下してきた。


 彼の凄味は決してセルアウトすることなく、流行とは関係のない独自の立ち位置から、世界的ヒットを多く生み出していることに尽きる。スタイリッシュなサウンドの中に隠れる野性の感覚、そして無国籍でエキゾチックな要素――それらは彼が世界中の音楽と接してきた知識と教養の賜物であるのだ。


 そんな多種多様な音楽が掘り下げてきた彼がもっとも情熱を注ぎ込んでいるのが、ダンスホール・レゲエをサウンドの軸としたプロジェクト:メジャー・レイザーである。冒頭で触れた最新作『Peace Is the Mission』は、現在のディプロの音楽的志向が凝縮された1枚と言える。現在ビルボード・チャートの上位を駆け上がっている先行シングル「Lean On feat. MØ」は、ディプロ自身が「インドの人民へと文化へ対するオマージュ」と述べている通り、インドをモチーフにした楽曲。注目すべきは、ボーカルを務めているムー(MØ)。デンマーク出身のシンガーである彼女は、2013年にディプロのプロデュースによる「XXX 88」をリリースしており、「Lean On」のヒットでさらなる注目を集めている。また収録曲の中でも異彩を放つ「Too Original」は、スウェーデンの女性シンガー・エリファントをフィーチャー。スクリレックスとの共作「Only Getting Younger」などで知られるが、彼女もムー同様に同曲でさらなる飛躍を遂げるだろう。


 さらにアリアナ・グランデが客演した「All My Love」、エリー・ゴールディングが参加した「Powerful」など、US・UKを代表する人気女性シンガーの参加や、2チェインズやトラヴィス・スコットらが参加した「Night Riders」など、ヒップホップ勢とのコラボもそつなくこなす。このような鮮やかなコントラストを持てるのも、ディプロがアーティストたちから絶大な信頼を得ているからに他ならない。


 ダンスホール・レゲエの伝統を継承しながらも、ディプロ節での解釈を加えた革新的な新作『Peace Is the Mission』で、最先端のサウンドを味わっていただきたい。


 最後に、ディプロはゴシップでも世の中を楽しませてくれている。昨年、ディプロがクラウドファンディング・サイト「キックスターター」にて「テイラー・スウィフトに肉感的なお尻を」という、彼女の(貧相と噂の)お尻を“豊尻”させるためのキャンペーンをツイートしたことがきっかけで大炎上する事態にまで発展した。当時ディプロはケイティ・ペリーと付き合っていたと噂されており(ケイティとテイラーは犬猿の仲)、そのツイートに対し、テイラーと親友であるグラミー賞受賞シンガーであるロードが「あんたの小さいペニスをどうにかしたほうがいい」と噛み付ついた(なんとも豪華な出演陣の炎上戦となったが、内容はあまりにも子供っぽくてバカバカしいのが面白い)。その後、グラミー授賞式で和解したと報じられたが、雑誌『GQ』のインタビューで「テイラーのファンは最低だ。彼女のために死ねるという人間が5000万人もいて、俺を脅してきた。もうインターネットでクレイジーなことができないな。あいつらは北朝鮮軍よりタチが悪い」と吐き捨てた。こんな豪放磊落なスタイルこそ、ディプロが愛される理由もひとつでもある。異端児にして、いたずらっ子の面も持ち合わせる。いまこの男なくしてシーンは語れないのだ。(中西英雄)