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YUKIが提示する「芸術」としての音楽のあり方とは? シシヤマザキとのコラボレーション展覧会を見た

2015年08月01日 18:21  リアルサウンド

リアルサウンド

YUKI『好きってなんだろう…涙/となりのメトロ』

 YUKIが、7月28日にニューシングル『好きってなんだろう…涙/となりのメトロ』をリリースした。今作は、ミュージックビデオやCDジャケットなどのアートディレクションを「シシヤマザキ」というアーティストが手がけている。


(関連:YUKIが歌って踊る、それだけで事件であるーー最新作『FLY』の“不変の魅力”に寄せて


 シシヤマザキとは、ルミネカードのCMやファレル・ウィリアムス「It Girl」などでロトスコープ (実写映像からアニメーションやイラストをつくる技法)によるアニメーションを手がけてきた気鋭のアーティストだ。水彩画タッチの手描きイラストと、それらの独特な動きが印象的で、自身をモチーフにしたキャラクター“シシガール”が登場する数々の映像作品でも知られている。今回のミュージックビデオやCDジャケットでも、YUKIとシシガールが共演を果たした。


 今作のリリースを記念した『涙シャワ~ル~ム YUKI×SHISHI 2015』という展覧会が、7月28日から8月2日までの期間限定でタワーレコード渋谷店で開催しているとのことで、実際に足を運んでみた。


 会場にはCDのアートワークの世界が広がる。ミュージックビデオと同じ衣装をまとったYUKIとシシヤマザキの等身大フィギュアが来場者を出迎え、壁にはミュージックビデオのアニメーション制作に使われたという貴重な原画が多数展示されている。一コマ一コマの動きが描かれたその絵は、映像制作時には約3,000枚使用されたそうだ。


 本展の目玉はジャケットデザインの特大カーテンの先にある『YUKIとシシヤマザキの対談アニメーション』の上映だろう。ここでしか見ることのできないふたりの対談の様子が約10分ほどのアニメーションで制作され、今回のコラボレーションの経緯や制作秘話などの貴重なやりとりを聞くことができる。


 また、「好きってなんだろう…」というYUKIの問いに答えるメッセージコーナーには、来場者それぞれの「好き」が描かれたハート型の付箋が多数貼られていて、出口付近では、CDジャケットやミュージックビデオのモチーフを使用したTシャツ、トートバッグ、ステッカーなどのオリジナルグッズの販売も行っていた。


 今回感じたのは、「好きってなんだろう…涙」という楽曲の世界観は、音楽だけで成立しているものではないのだろうということだ。


 先日YUKIのオフィシャルサイト内で公開されたWebラジオ『YUKIweb RADIO「好きってなんだろう…涙/となりのメトロ 」Release Special 』で「アルバム『FLY』制作時期につくった曲だったけど、できた曲を聴いてどうしてもシシちゃんにミュージックビデオを作ってもらいたいと思って。(当時まだ大学院生だった)シシちゃんの卒業を待ってリリースした」というエピソードを明かしたように、シシヤマザキの作品が、いかに今作の世界観を表現するために必要だったのかということがわかる。そのあたりの詳しい話は、展覧会の『対談アニメーション』映像で語られているので、ぜひご覧いただきたい。


 これまでも多くのアートディレクターや芸術家とともに楽曲の世界観を表現してきたYUKIだが、特に今作は、音楽だけではなくアートワークやミュージックビデオ、さらに展覧会の開催という方法で楽曲の世界観を表現するという、まさに「芸術」としての楽曲のあり方を提示しているようだ。


 常に新しいものを取り入れて自身の感覚を更新し、さまざまなアイデアでファンを楽しませてくれるYUKI。今回のコラボレーションを終え、今後はどのような取り組みを見せてくれるのか。今からとても楽しみだ。(久蔵千恵)