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Acid Black Cherry『L—エルー』はなぜ大きな支持を得たのか コンセプチュアルな創作手法を読み解く

2015年08月01日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

Acid Black Cherry

 オリコンが6月に発表した上半期アルバムランキングは、1位に三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE『PLANET SEVEN』、2位にAKB48『ここがロドスだ、ここで跳べ!』、3位にサザンオールスターズ『葡萄』、4位はSEKAI NO OWARI『Tree』、5位がMr.Children『REFLECTION』と、まさに音楽シーンの今を切り取った充実の作品群が並んでいる。


 もちろん6位以降もロックバンドやK-POP、LDH系にジャニーズなど、幅広いラインナップなのだが、そのなかでも本稿では、15位にランクインされたAcid Black Cherryの『L-エル-』に注目してみたい。


 この作品にフォーカスした理由は、1位~50位までの作品を並べた時に、V系アーティストが彼しか見当たらなかったからだ(ソロを対象としても次点が43位のhide『子 ギャル』となる)。ちなみに同期間でV系のみを対象としたランキングをTSUTAYAが発表しているが、こちらでもTOP5に3形態が入る(残り2つは国民的ヒット曲「女々しくて」を持つゴールデンボンバーのアルバム)など、圧倒的な力を見せつけている。


 特典で売上枚数をブーストした形跡もない同作、果たしてなぜここまでの結果を残すことができたのだろうか。Acid Black Cherryはアルバム毎に大きな物語を作る、いわばコンセプト作が多いことが特徴として挙げられるが、今回も収録曲と100ページにもなるストーリーブック(初回限定盤のみ付属)で“エル”という女性の一生を描いている。同作について、音楽ライターの武市尚子氏は“読む・ロックアルバム”だと定義する。


「『L—エルー』は、話に基づいて制作されたサウンドトラックではなく、あくまでも楽曲先行で出来上がったものですが、iTunesが主流となりCDを手にすることが少なくなった現時代において、yasuは、コンセプトストーリーブックをじっくりと読みながら視覚と聴覚の両方で感じる“CDというスタイルを重んじた独自の形”で、今作を世に送り出しました。時代に逆行する形ともいえますが、これは幼い頃、漫画家になりたかったというyasuの夢を具現化したものといえるでしょう」


 ここまでしっかりとコンセプトを作り込んだ作品は、一方で取っ付きにくいものに映るかもしれないが、そこを補っていると思われるのが、彼の音楽性だ。Acid Black Cherryはyasuの所属するJanne Da Arcと同じく、V系という属性に見られることも多いが、楽曲はテクニカルでありつつ、起伏に富んだエンターテインメント性を孕んでいる。良い意味でポップの方角を向いており、V系ファン以外にも支持者が少なくないこともこれを証明しているといえるだろう。


 続けて同氏は、もちろんそれは最新作『L-エル-』にも表れていると語る。


「この物語の主人公であるエルに語りかける、エルが生まれ育った街“La vi an rose”に住む絵描きの少年オヴェスの心情を描いた5曲目「L—エルー」と、物語のすべてを振り返る「Loves」は、両曲とも3拍子の柔らかな曲調で、跳ね感のあるポップなリズムで構成され、初めての恋を描く「7 colors」とともに、初めてAcid Black Cherryの音に触れるという人や、ロックというジャンルに馴染みがなく抵抗があるという人への“入り口”になるであろう楽曲たちとなるでしょう。歌謡曲を意識したという『眠れぬ夜』も、“とっかかり曲”として、是非ともお勧めしたいです」


 一方、Acid Black Cherryの本質であるヘヴィ・ロックな部分も、様々な形で提示されていると武市氏は述べる。


「オヴェスの台詞とともにアルバムの始まりを演出する『Round & Round』、エルの波乱の人生を浮かび上がらせる『liar or LIAR?』に『エストエム』という冒頭3曲は、yasu自身の音楽ルーツを彷彿させるマイナー感の強いヘヴィ・ロックが並べられており、今作が純粋なロック・アルバムであることを証明する幕開けといえるでしょう。また、スラップ奏法を前面に押し出し、何度も何度も酷く傷つくエルの人生を演出する『Greed Greed Greed』や、アラビア音階を用いて、愛することに疲れた女性が、投げやりに夢魔(INCUBUS)に愛を求める『INCUBUS』、音を立てて崩れ落ちるエルの願いをワンコードのハードナンバーで表現した『versus G』など、従来のファンやコアなロックファンを唸らせる楽曲も収録されています」


 Acid Black Cherryと同じように、ポップシーンで支持を得てきたV系ロックバンドには、X JAPANやLUNA SEAをはじめ、後のバンドに多大なる影響を与えた先達たちがいる。もちろん売り上げの実数では及ばないものの、ポップシーンへの浸透具合やその活躍ぶりを見ていると、彼らと同じ領域に、yasuはすでに到達しているのかもしれない。


 なお、Acid Black Cherry は現在、『ABC Dream CUP 2015 LOVE 』と題し、国内最大級・80,000人規模でのフリーライブツアーを開催中で、8月1日に大阪・舞洲で最終公演を行う予定。リアルサウンドでは、7月25日公演の模様を後日掲載することが決定している。


(文=向原康太)