米国における最低賃金引き上げの動きとファストフード業界の対応について、ヴェネッサ・ウォング氏が7月27日付のバズフィードニュースに寄稿しています。
米国の連邦最低賃金が2009年に時給7.25ドル(1ドル=123円として、約891円)に引き上げられてから6年。賃金は物価上昇に追いついていません。週50時間労働しても年収は18,850ドル(約232万円)。これでは労働者の生活に余裕はありません。(文:夢野響子)
時給15ドルへの引き上げを先行させた市も
オバマ大統領は繰り返し時給10.10ドル(約1242円)を議会に呼びかけてきましたが、共和党の牛耳る議会で連邦最低賃金の引き上げを実現することは困難です。しかし、すでに州や地方レベルでは、最低賃金の引き上げは承認され始めています。
ロサンゼルス、シアトル、サンフランシスコの各市では、すべての労働者を対象に時給15ドル(約1845円)への最低賃金の引き上げが認められました。ニューヨーク州では「ファストフード労働者」を対象とした引き上げが労働長官の承認を待つばかりです。
米国のファストフード企業はこれまで最低賃金労働者を雇うことで、メニューの低価格を維持してきました。今回の最低賃金引き上げで、雇用者たちのビジネスコストが上がるのは避けられません。
「最低賃金引き上げの影響を軽減するために、我々はフランチャイズたちとアグレッシブに行動していく」
「ダンキンドーナツ」を運営するダンキンブランズの最高経営責任者ナイジェル・トラヴィス氏は、収支報告会で投資家たちにこう宣言しています。対応としては、以下のような選択肢が考えられています。
・メニューの価格を上げること
・売上を向上させて、人件費以外のコストを減らすこと
・一部の従業員を解雇すること
スマホアプリを使ったセルフオーダー・システムを導入すれば、店舗の人間の労働力を減らすこともできます。
マクドナルドはメニューの価格を2%値上げ
時給15ドルが実現すれば、週50時間労働の年収は39,000ドル(約480万円)となります。しかしニューヨーク州の動きについては、ダンキンブランズのトラヴィス氏が、ファストフードだけに白羽の矢を当てるのは不公平だと指摘します。
「生活のための賃金引き上げには賛成します。しかしファストフード労働者に時給15ドルは法外でしょう」
最低賃金の引き上げは、低価格を売りにするファストフード業界に大きな影響を与えているようです。マクドナルドの最高財務責任者ケビン・オザン氏も、この影響で「人件費が上がった」と明かし、賃上げとともに従業員への有給休暇や教育支援を行うために「メニューの価格を2%引き上げた」そうです。
スターバックスも、人件費などの費用の増加を相殺するために、メニューの価格を引き上げました。メキシコ料理レストランチェーンのチポトレも、5月に最低賃金が12.25ドル(約1506円)まで引き上げられたサンフランシスコで、人件費をカバーするためにメニューの値段を10%上げたそうです。
大打撃を受けるのはフランチャイズ店のオーナー?
つまり最低賃金の引き上げによって大きな影響を被るのは、消費者でもあり、ビジネスモデルの根幹を揺るがされる会社自体でもあるでしょう。ただし報道によると、ファストフード業界では直営店のフランチャイズ化が進んでおり、最低賃金の引き上げによって大きな打撃を受けるのは、本社よりもフランチャイズ店のオーナーの方という可能性もあります。
日本でも安倍首相が最低賃金の引き上げに言及したように、同じような動きが予想されますが、日本のフランチャイズでもその影響をあらかじめ盛り込んだ計画を立てておいた方がよさそうです。(文:夢野響子)
(参照)With Wages Rising, The Fast Food Industry Plans Its Next Move (BuzzFeed)
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