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『フジロック2015』後半2日間をレポート 邦アクト増加でどう変化したか?

2015年07月31日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

FUJI ROCK FESTIVAL’15

 日本最大級の野外ロックフェス『FUJI ROCK FESTIVAL’15』が、7月24日、25日、26日に新潟・苗場スキー場で開催された。今年はオレンジコートの撤廃や邦楽アクトの増加といった変化があり、比較的実験要素が強かった3日間だったように思う。


(関連:今年のフジロック、要注目の洋楽アクトは? 小野島大が45組をフル解説


 今回は25日・26日に行われた公演の中で、GREEN STAGE・RED MARQUEE、WHITE STAGE で個人的に印象的だったアーティストのステージをレポートしたい。


・7月25日


上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト feat.アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス


 上原ひろみとベーシストのアンソニー・ジャクソン、ドラマーのサイモン・フィリップスによるトリオが25日昼のGREEN STAGEに登場。冒頭から上原はスピーディーに鍵盤を弾き、2人が細やかなリズムアプローチでこれを追随する。次々と繰り広げられるインプロビゼーション的な演奏で、ジャズという枠組みにとらわれることのない刺激的なサウンドを生み出し、通り過ぎようとする観客たちの足を止めていた。


ゲスの極み乙女。


 登場前からRED MARQUEEを満員にしていたのは、ここ一年で大ブレイクを果たした若手バンド・ゲスの極み乙女。。「パラレルスペック」や「ロマンスがありあまる」「キラーボール」など、次々にポップな人気曲を披露しつつ、「市民野郎」や「ルミリー」といったエッジの効いた楽曲も披露。しかし、何より観客の目を引いたのは、4人の熟達した演奏スキル。プログレッシブな楽曲を巧みに鳴らすその姿を一目見ようと、登場後もRED MARQUEEには次々と観客が押し寄せていた。


星野源


 GREEN STAGEに登場した星野源は、冒頭に「化物」を演奏し、「フジロックには、SAKEROCKを含めると10年以上お世話になっていて。最初は苗場食堂のルーキー・ア・ゴーゴーでした」と同フェスとの深い関係性を語ると、観客を煽り「夢の外へ」と「SUN」の2曲を披露。会場の空気を一気に明るくすると、星野は「しっとりした曲をするので、カップルのみなさんはぜひここでSEXを始めてください。それで子どもができたら、源って名前を付けてね」とおどけてみせ、「くだらないの中に」や「くせのうた」といったスローテンポな楽曲など数曲を披露し、ステージを一度後にした。その後、布施 明に扮した“ニセ明”として登場した星野は「君は薔薇より美しい」を歌い踊ると、伊藤大地(ドラム)とコントのようなやり取りをみせ、最後は「Crazy Crazy」でなぜか観客にヘッドバンキングを要求するなど、奇想天外なステージングでGREEN STAGEを彩った。


岡村靖幸


 星野源がステージを去った直後、RED MARQUEEに登場したのは岡村靖幸。普段のライブと同じ様に黒いスーツ姿で現れた岡村は、「フジロックベイベー!」と観客を煽り「新時代思想」からライブがスタート。ハードなリミックスが施された「どぉなっちゃってんだよ」ではバックダンサーが激しく踊り、「カルアミルク」や「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」「だいすき」では観客が合唱するなど、“いつもの岡村靖幸”をスマートに披露し、ステージを後にした。


クラムボン

 夜も深まる20時ごろ、WHITE STAGEに現れたクラムボンは、演奏前に突然、休日課長(ゲスの極み乙女。)をサポートベースとして呼び込み「Re-ある鼓動」からスタート。3曲目の直前には、ミトが「ここではもうやらないであろう曲をやりたい。みなさん『キラッ☆』ってしてくれますか?」と問いかけ、大半の観客が茫然とするなか、『マクロスF』のオープニングナンバーであり、彼らが松本隆トリビュートアルバム『風街であひませう』でカバーしている「星間飛行」を披露。その後は「バイタルサイン」「KANADE dance」「波よせて」と、定番曲を鬼気迫る演奏で繰り広げた。原田郁子が「思いがけないことっていっぱい起きるし、どうしていいか分からないこともあるけれど、『でも続けなきゃいけない』というための歌を作りました」と話したあとに披露された「yet」は、思わず固唾を飲んで見守るほどの気迫が感じられた。


ハッピー・マンデーズ


 この日のRED MARQUEEを締めくくったのは、“マッドチェスター”の代表格的バンド・ハッピー・マンデーズ。当時のムーブメントを直に体験したような世代の観客が目立つなか、「Kinky Afro」や「24 Hour Party People」「Hallelujah」といった定番曲を次々と演奏。ベズが楽曲に合わせてステージ前方で踊るのに釣られ、続々と踊り出す人々の姿を見たバンドは、嬉々としながらそのグルーヴを増し、同ステージの特性を最大限に活かしたドープなサウンドで会場を盛り上げた。


ベル・アンド・セバスチャン


 WHITE STAGEのトリは、2010年に同じ時間帯にフジロックで演奏を繰り広げたベル・アンド・セバスチャン。最新作『Girls In Peacetime Want To Dance』は従来のベルセバとは一味違うダンスアルバムだったため、この日のセットリストも「Nobody’s Empire」や「The Party Line」といった観客を踊らせるための楽曲が多かった。また、ボーカルのスチュアート・マードックはたびたび観客席に降り立ち、オーディエンスから帽子を借りて被ってみたりしたほか、「The Boy with the Arab Strap」ではなんと、約40人ほどをステージへと上げてしまった。観客たちは思い思いにメンバーと踊ったり、写真を撮るなどしてライブを楽しんでいた。と、ここまでパーティー的なライブを行っていたベルセバだったが、最後は観客をステージから降ろして「Judy And The Dream Of Horses」を披露。アンコールでも「Get Me Away From Here, I’m Dying」と「The Blues Are Still Blue」をクールに演奏し、WHITE STAGEでのライブを締めくくった。


・7月26日


[Alexandros]


 この日GREEN STAGEの一番手に登場したのは[Alexandros]。ボーカルの川上洋平は「高校生の時にバイト代を貯めて行こうとしたけど間に合わなくて、そこから『出演者として行くまでは……』と決めていた」とフジロックへの並々ならぬ思いを語り、ライブがスタート。最初は「Boo!」や「Waitress, Waitress!」「Kick&Spin」など、勢いのある演奏が目立ったが、後半では「starrrrrrr」や「Leaving Grapefruits」、「Famous Day」、「ワタリドリ」など、ポップで間口の広い楽曲群を演奏。これが快晴のGREEN STAGEと見事にマッチしていた。最後の楽曲の演奏前、川上は「唯一ずっと憧れていたバンドマンが最後に出る今日、このステージを俺たちで始められて本当に光栄です。(ノエル・ギャラガーが)俺の師匠で良かった」とノエルへのリスペクトの念を述べ、そのまま「Adventure」を披露。バンドの転機となった楽曲とともにステージを後にした。


cero


 時刻は正午を過ぎたころ、WHITE STAGEに上がったのは、『Obscure Ride』ツアーを終えたばかりのcero。「この日のために作ったのか」と思うほどのハマり具合だった「マウンテン・マウンテン」からライブをスタート。続いて「My Lost City」、「Summer Soul」と、新作と過去作からポップな楽曲を次々披露したかと思えば、重厚感のある「Elephant Ghost」で、新作『Obscure Ride』を通じた音楽的進化をはっきりと示してくれた。ボーカルの高城晶平はMCで「長いツアーの最後にフジロックが入って、みんな打ち上げのつもり。だからみなさんも酒を飲んでガンガンやってください!」と語ると、「Orphans」で一度観客をチルアウトさせ、「Contemorary Tokyo Cruise」ではラストサビの前で大合唱が起こった。最後の「Yellow Magus」では各メンバーとサポートを務めるMC.sirafu、あだち麗三郎、厚海義朗、光永渉という手練7人によるテクニカルなセッションが繰り広げられ、観客たちを大いに盛り上げた。


ジョニー・マー


 15時過ぎ、少し涼しさも出てきたGREEN STAGEには、元ザ・スミスのジョニー・マーが登場。バンドメンバーも本人もシャツのボタンを一番上まで止めるモッズなスタイルで現れ、2曲目にはいきなりザ・スミスの「Stop Me If You Think You’ve Heard This One Before」を、4曲目には「Big Mouse Strikes Again」を演奏。ボーカルを務めていたモリッシーにどこか似つつ、ジョニー・マー節も効いた歌声で、ファンが歓喜する楽曲群を歌い上げた。また、ニュー・オーダーのバーナード・サムナーとマーによるグループ・エレクトロニックの「Getting Away With It」や、デペッシュ・モードの「I Fought The Law」カバーなど、レアな選曲で会場を沸かせていた。そして最後はザ・スミスの「How Soon Is Now?」でいま一度大きな歓声を巻き起こした。


椎名林檎


 椎名林檎の出番前、ステージには白装束姿の人々が大勢集結しており、なにが起こるのかと観客たちがザワつくなか、純白のワンピース姿に白い日傘で現れた椎名は、いきなり初期の楽曲「丸の内サディスティック」をジャジーにアレンジした英語バージョンを熱唱。その後も「静かなる逆襲」や「罪と罰」など、椎名のソウルフルなボーカルと、名越由貴夫(ギター)や長岡亮介(ギター)、ヒイズミマサユ機(鍵盤)、玉田豊夢(ドラム)といった熟練のミュージシャンの演奏が活きる楽曲を次々に披露した。また、「幸先坂」(真木よう子への提供曲)や「青春の瞬き」(栗山千明への提供曲)、SOIL &“PIMP”SESSIONSとの共作曲「殺し屋危機一髪」や、東京事変の「能動的三分間」などのレア曲も演奏するなど、充実のステージだったほか、「長く短い祭」ではワンピースを脱ぎ捨て、青のレオタード姿になるなど、視覚的にも聴覚的にも楽しませてくれた1時間となった。


ライド


 1996年に解散し、昨年再結成を果たしたライドがGREEN STAGEのトリ前に登場。1曲目の「Leave Them All Behind」は、期間限定復活だった2001年を入れても14年ぶりの再結成とは思えない瑞々しさがあり、緊張の面持ちで見守っていたファンたちも思わず顔がほころんでいた。バンドの特徴である轟音も健在で、夜が訪れたGREEN STAGEとノイズギターが抜群の相性を見せていた。なかでも「Dreams Burn Down」がハイライトのひとつで、静寂の空間から一音一音が立ち上がり、徐々に盛り上がっていく音像に対し、観客は長い歓声を送り続けていた。ラストナンバーの「Drive Blind」の最後は、フィードバックの応酬。体感時間にして約3分の轟音で、GREEN STAGEを鮮やかに締めた。


FKA ツイッグス


 RIDEのステージを見ていたため、筆者は彼女のステージを途中から見ることになるのだが、FKA ツイッグスはセクシーな赤いドレスを身に纏って歌い踊っており、バックではエレドラを使うパーカッショニストとギタリストの2人が、打ち込みの音に加えて演奏を行い、ミニマルな音像を構築していた。FKA ツイッグスは滑らかなダンスでステージを縦横無尽に動きながら、聖歌を歌うがごとく清らかなボーカリゼーションを聴かせ、彼女の姿を一目見ようと訪れた観客を釘付けにしていたことも記しておく。また、「Two Weeks」ではパーカッショニストに煽られた観客がハンドクラップでステージを盛り上げたり、MCではキュートな声で謝辞を述べるなど、無機質なステージングとは一変、温かなファンとのやりとりも見ることができた。神秘的でクールなWHITE STAGE最後のアーティストの残した爪痕は、想像以上に大きかったのではないだろうか。


ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ


 そしてGREEN STAGEのトリ、最後のヘッドライナーであるノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズのステージへ。筆者が訪れたのは「Half the World Away」のタイミングだったが、ほかにも「Digsy’s Dinner」や「Whatever」、「Champagne Supernova」に「Fade Away」など、オアシス時代の楽曲を多く歌唱していたようだ。また、ノエルが「今からThe Masterplanをやるから騒ぐなよ」と語るが、興奮した観客は盛り上がることをやめず、彼から「黙れ! 猿!」と注意されるという一幕があったり、ソロ1stのリードトラックでもあった「AKA… What a Life!」では飛び跳ねるファンの姿が見られた。最後の曲として披露されたのはもちろん「Don’t Look Back in Anger」。観客はイントロが鳴った瞬間に大歓声でこれに応え、サビでは会場全体から合唱が巻き起こった。残念ながらアンコールも、期待されていたジョニー・マーとの共演もなかったが、会場が一体感と充足感を持ったまま、美しく3日間のステージを締めくくったといえるだろう。


 羅列するだけでもいかに邦楽アクトが多かったかがわかる今回のフジロック。動員数は昨年の102,000人に比べて115,000人と、上昇傾向にあったわけだが、来年は節目の20回目となることもあり、さらなる増員も期待できる。今回の結果を踏まえ、次回はどのような形に進化していくのか、1年後を楽しみに待ちたい。
(編集部)