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ジャニーズWEST、NEWS、乃木坂46…J-POPの歌詞に使われている“風諭法”のテクニックとは?

2015年07月31日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

zopp。

 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家やコトバライター、小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。連載第1回では、中田ヤスタカと秋元康という2人のプロデューサーが紡ぐ歌詞に、第2回では“比喩表現”、3回目では英詞と日本詞の使い分けに着目してもらった。第4回となる今回は、比喩表現の第2弾として“風諭法”をピックアップ。直近の作品を例に挙げ、存分に語ってもらった。


zoppのプロフィールなどが分かるインタビューはこちら


――今回は少し前の“引喩法”に続いて、“比喩表現”がテーマです。


zopp:今回は日常生活でみなさんが知らぬ間に使っている“風諭法”についてお話ししたいと思います。技法の名前だけを聞いても耳なじみのない言葉だと思うのですが、平たい表現に落とすと「たとえ話」とか「ことわざ」のことで、本来伝えたいことの本義を直接には言わずに間接的に言うことを指しています。もっと細かく言うと、人間を主人公とした物語は「たとえ話」で、動物や自然なものを主人公にしたものは「寓話」というらしいです。分かりやすく言うと、ディズニーの作品は「寓話」が多いけど、そのなかでも『シンデレラ』は「たとえ話」だ、というように。


――ということは、風諭法を使うにしても、題材を特殊なものにしないと歌詞としてはあまり目立たないということでしょうか。


zopp:そうです。たとえば今回僕が手掛けたジャニーズWESTの「バリハピ」は風諭法を使っていて、「世界平和」を題材として書いた楽曲ですね。テーマがテーマだけに、偽善っぽくなってしまう場合もあるのでなかなか難しかったうえに、曲調が明るかったのでどのような着地点を見つけるかという点に苦労しました。


――過去に同じテーマで楽曲を書いたことはありますか?


Zopp:NEWSの「夢の数だけ愛が生まれる」ですね。これは2001年のアメリカ同時多発テロ事件を踏まえて書いたもので、じつは僕、この事件が起こった時、ちょうどボストンにいたんです。そのボストンから飛び立った2機が、それぞれペンタゴンとWTCに突っ込んだ。巻き込まれた知り合いや間接的に被害に遭った知人もいました。そこから2カ月くらいはボストンの上空を飛行機が飛ぶことはなく、そんなときに自分なりの思いを歌詞にしてみようと思い、綴ったのが同曲です。「平和な世界は当たり前ではない」や「小さなことがきっかけで大きなことが起こるというのは日常生活のなかにもある」というメッセージを、風諭法で表現しました。


――そこからしばらく経って、なぜジャニーズWESTに同じテーマを?


zopp:テーマ自体はもともと貰っていたものです。でも、明るい曲にそのままストレートに平和のメッセージを乗せても仕方ないと思ったし、ちょうど日本が「安全保障法案」のことで揺れているタイミングでもあったので、実際に海外に行って内戦や争いごとを経験していない人たちのためにも、経験した僕が歌にしたり言葉にして伝えたほうがいいと思って書きました。


――ちょうど時事と歌詞のテーマがマッチしたということですね。


zopp:そうです。今は一カ月前のことでもすぐに時代遅れになってしまいますから。以前、阿久悠さんも言ってたのですが、たとえば一本足打法でサウスポーだった王貞治さんの全盛時に、ピンクレディーに「サウスポー」を歌わせようとしても、歌がリリースされるまでに最低3カ月くらいはかかると。昔はそれでも流行歌として機能していましたが、今は商業的なフォーマットに乗せると、流行の流れが早くて完成したときには時代遅れになってしまうケースが多く、難しいんです。


――消費のスピードが年々早くなっている。


zopp:そうですね。もう見向きもされなくなってしまったものを風諭法の対象にしても、逆にダサくなってしまいます。僕が手掛けた楽曲のなかで、それを上手く扱えたのは同じくNEWSの「恋のABO」で、当時血液型の本がバカ売れしていて、そのテーマでドラマが作られたりするタイミングだったので、血液型を題材に詞を書いて、時代性にうまくハマったと思います。


――トレンドの変化が目まぐるしくなった昨今、時流を上手く掴み、風諭で詞に反映させるコツはあるのでしょうか。


zopp:「先を読む力」が必要でしょうね。政治的なこと、小さいトレンドの種など、火が付きそうなものをくみ取ってすぐに作品へと昇華しなければ、時代を捉えた風諭法は駆使できないと思います。


――情報を自分から拾いに行くことが大事なのですね。


zopp:ただ単に言葉を紡いだり、キャッチーなフレーズを考えるだけではなくて、「時代性」を読まないといけないということも作詞家に求められる条件です。だって、流行のアレンジはあるけれども、流行のメロディーというのは、あまりないじゃないですか。だからこそ作詞というものは、とても重要なんですよ。


――ちなみに、「バリハピ」でほかに工夫した点はなんでしょう。


zopp:僕が詞を書く際、よく一つの歌の中に「キーアイテム」を用いることがあります。それは「青春アミーゴ」の<携帯電話>だったり、NEWSの「Sweet Martini」という曲ではマティーニというお酒を題材にしたり。で、今回は「手」をキーアイテムとし、使い方によって正義にも悪にもなるよ、という言い方で楽曲のテーマを肯定しています。


――なぜ歌詞のなかに「キーアイテム」を用いるのでしょうか?


zopp:わかりやすいキーアイテムを使うことによって送る側と受け取る側がシンクロしてメッセージが伝わりやすくなるという効果があると思っていて。例えば、直近でリリースされた楽曲だと、亀田誠治さんと大原櫻子さんが共作した「真夏の太陽」や、秋元康さんが作詞した乃木坂46の「太陽ノック」。これは太陽がキーアイテムとなっていて、これを使ってアーティストと曲を聴く人とのつながりを近づけようとしています。


――楽曲内で普通に使っている固有名詞と、「キーアイテム」の違いとは?


zopp:一度しか出てこないのは、その瞬間だけ出したかったアイテムであり、決して「キー」にはなっていません。平歌にもサビにも、タイトルにまで登場して始めて「キーアイテム」と言えるのだと思います。そうすることで、どうやっても耳に残りますから。以前だったら、そういうキーアイテムは「海」が多かった気がするんですけど、今年はそこまで見かけませんね。あと、キーアイテムをピンポイントにしすぎると、時代が移り変わったときに古くなりやすいという点が挙げられます。たとえば国武万里さんの「ポケベルが鳴らなくて」とか、小林明子さんの「恋におちて -Fall in love-」の<ダイヤル回して 手を止めた>って、鳴るポケベルも無ければ回すダイヤルもありませんから(笑)。あと、文明がアナログからデジタルになるにつれ、「スイッチを入れる」とか、どんどん所作が画一化されていっているので、作詞家としては困りものですね。


――何かを“している感”があればあるほどシチュエーションも限定され、風情もでるのでしょうか。


zopp:そうなんです。以前、秋元康さんが「作詞家の仕事というものは、歌手にいかに遠回りをさせるかということが重要」だと話していたのを聞いて、まさにそうだと思いました。でも、ものがあり余るくらい溢れている現代において、珍しいものや遠回りをしたものというのは、すごく昔のものか、逆に新しすぎることしかなくなってきているんです。すなわち、比喩を使ってまで伝えたくなるようなことが無くなってきた。だから90年代~00年代には直接的な歌がウケたし、近年はそこに飽きたリスナーが直接的でない歌詞を求めるようになっているという傾向もあると思います。


(取材・文=中村拓海)