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【F1ハンガリーGP決勝無線ハイライト】勝てるチャンスを棒に振った、ロズベルグの打算

2015年07月30日 23:30  AUTOSPORT web

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 ニコ・ロズベルグのタイヤ選択が議論を呼んだハンガリーGP。ルイス・ハミルトンを意識して「同じタイヤにしたい」と言った無線が流れたため、ドライバーが判断を誤ったと思われたが、実際には残り周回を考えると微妙な状況だった。ロズベルグには「勝利を投げ捨てた」という非難まで浴びせられたが、本当のところはどうだったのか。

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「僕もプライムタイヤに換えたい!」

 36周目、ニコ・ロズベルグがレースエンジニアのトニー・ロスに訴えた。ロスから「ルイス(ハミルトン)は君よりも先にピットインする可能性が高い。プライムに履き替える」と聞いて、数周後に迫っている次のピットストップに向けた相談だった。

 しかし、ハンガロリンクでプライムとして用意されたミディアムタイヤは硬すぎ、オプションのソフトタイヤとは2秒ものペース差があった。そのため第2スティントでソフトを履いたハミルトンに対し、ミディアムを履いたロズベルグはレースペースで後れをとっていた。

「現時点でピットウォールとしては同意できない。いまはプライムでペースを上げてくれ。ルイスは7.5秒後方にいるが1周1秒速く、ほぼタイヤに起因する差だ。しかし我々も、もっとペースを上げる必要がある」

 そもそもロズベルグが第2スティントでミディアムを履いたのは、最終スティントでソフトを履いて猛追するためだったのだから、チームがミディアムへの交換を拒否するのは当然だった。

 ロズベルグはスタートで先行したフェラーリ勢に対して、最終スティントでミディアムとソフトの差を利用して逆転を狙っていた。しかしペースの上がらないロズベルグは首位セバスチャン・ベッテルから25秒以上引き離されてしまい、逆転は難しそうだった。そこでロズベルグは、選手権を争うハミルトンへとターゲットを変更したがったのだ。弱気と言うべきか打算と言うべきか、同じミディアムタイヤを履いて前に居座ってしまえば、抜きどころの少ないハンガロリンクで逆転される可能性はきわめて低くなるというわけだ。

 実は、この直前にハミルトンへ、レースエンジニアのピーター・ボニントンから無線が飛んでいた。

「このスティントをできるだけ長く引っ張る作戦に切り替える。プライムタイヤでの走行距離を、できるだけ減らすためだ」

 第2スティントでソフトを履いたハミルトンは、最終スティントで“ハズレ”のミディアムを履くしかない。前を行くフェラーリ勢も同じだった。

「良いラップタイムだ。そのままプッシュし続けろ」

 ロズベルグが気を持ち直し、ロスから檄を飛ばされた矢先、42周目にニコ・ヒュルケンベルグの事故によってバーチャルセーフティカー状態に。その瞬間、ロズベルグはターン12にいた。そしてチームの指示を受けて、ピットへと飛び込んだ。

 そこで装着されたのはソフトではなく、ミディアムだった。だが、これはロズベルグの希望を受けて決められたことではない。

「残り27~28周の段階だったので、我々はミディアムタイヤを用意していた。もし、もう1周バーチャルセーフティカー下で走っていたら我々はソフトに換えていただろう。そうすれば、ニコが勝っていた」

 そうメルセデスのトト・ウォルフは語り、ピットインまでの時間があまりに短く、ロズベルグとタイヤ選択について相談できなかったことを悔やんだ。

 フォース・インディアでタイヤ運用を司る松崎淳エンジニアも、メルセデスの言うことは事実だろうと推測する。

「確かに、あそこから最後までソフトタイヤで走り切れるかどうかは微妙なところだった。メルセデスのようなチームであれば戦略はきちんと用意されているだろうし、いまセーフティカーが入ったらピットインするかどうか、ピットインするなら、どちらのタイヤを履くかということは常に事前に準備しているはずです」

 それでも49周目にレースが再開されると、ロズベルグは勝利を目指して戦った。ロスも逆転を意識して、指示を与えた。

「我々には勝つチャンスがある。ライコネンはパワーユニットにトラブルを抱えているから、すぐに抜けるだろう。さらにフェラーリはプライムタイヤのウォームアップに問題があるから、走り始めのペースは鈍いはずだ」

 ロズベルグはMGU-Kにトラブルを抱えたライコネンを早々に抜き去り、首位ベッテルの1秒以内に迫ってチャンスを窺う。

「残り19周だ。どうやってベッテルを抜くかだけを考えろ」

 ところが後方からソフトタイヤを履いたダニエル・リカルドが猛追してきて、首位争いは三つどもえに。そして64周目のターン1でリカルドと接触、パンクを喫したロズベルグのレースは終わったも同然だった。

 結果は8位。ライバルのハミルトンが6位と沈んだレースで、点差を縮めるチャンスを逃してしまった。しかし、ロズベルグは確かに優勝を争っていた。弱気の虫がうずきはしたが、彼の戦い方すべてが否定されるべきではないだろう。

(米家峰起)