2015年07月30日 21:21 弁護士ドットコム
東京都の渋谷区に続き、世田谷区も「同性カップル」のための公的文書を発行することが明らかになった。専門家たちからは「渋谷区の証明書よりも入手のためのハードルが低い」と歓迎する声が出ている。
【関連記事:妻にセックスを断られ続けた夫が「風俗」に行ったら「離婚される」ってホント?】
世田谷区が7月29日に議会に示した制度の要綱案によると、対象となるのは、お互いを人生のパートナーとして生活を共にしているか、生活を共にすることを約束した同性のカップル。
世田谷区は、こうした同性カップルが区役所で「パートナーシップの宣誓」をした場合に、宣誓書を発行する。宣誓書発行のための条件は、2人とも20歳以上で、世田谷区内に住所があることなど。区は宣誓書を10年保管するが、宣誓した2人が希望した場合は廃棄するという。
渋谷区の同性パートナーシップ条例では「お互いを後見人とする公正証書の提出」が証明書発行の条件になっていたが、世田谷区の要綱案にはこのような条件がないのが特徴だ。
同性カップルはお互いの関係を証明する手立てがなく、それが生活の支障になると指摘されている。そのため、東京・渋谷区で今年3月に成立した「パートナーシップ条例」など、自治体レベルでそういった関係性を証明する書類を発行しようとする動きが広がっている。
専門家たちは、今回の世田谷区の動きをどう受け止めただろうか。性的少数者の問題に詳しい中川重徳弁護士と、LGBTアクティビストの東小雪さんに話を聞いた。
「同性カップルに区が公的書類を出すことは、性的少数者が社会の一員として当たり前に生活していることや人間の性が本来多様なものであることを真正面から認めるもので、大きな意味があります。
性的指向や性自認が違うというだけで、いろいろな生活上の困難を強いられていますが、この人権侵害を改善する上でも有益です。行政の取り組みは第一歩が始まったばかりで、まだまだ手探りの段階ですが、この流れは止まらないでしょう。今後どんどん広がると思います。
世田谷区の制度も渋谷区の制度も、対象者に結婚と同じような権利を認める制度ではありません。世界各国の同性パートナーシップ制度には、相続や社会保障について結婚と同じような権利を認めるものもありますが、そういった制度とは違います。
そうすると、世田谷区が同性パートナーシップ認定のハードルを思い切って下げたことは、注目に値すると思います。制度の具体化に向けて、渋谷区で行われている議論にも影響を与えるはずです。
世田谷区や渋谷区は、こういった制度を定着させ『使い出のあるもの』に進化させるための努力をしてほしいと思います。
たとえば、医療機関や生命保険会社、金融機関などに働きかけて、公的書類を持っている同性パートナーについては取扱いを変えてもらうことなどが考えられます。
今後は、先鞭を切った自治体として、お互いに協力し、積極的にそうした活動をやってもらいたいと思います。
また、現在の対象はその区に住んでいる人だけのようですが、今後は在勤者などに対象者を広げていくことも検討すべきでしょう」
「世田谷区のニュースを聞き、とても喜んでいます。自治体の方たちが、平等な社会の実現に向けて、動いてくださったことを嬉しく感じています。
日本では、渋谷に続いて2例目と言われていますが、条例が成立した渋谷区でも、まだ証明書の発行が始まったわけではありませんから、もしかしたら、実際に始まるのは、世田谷のほうが先になるかもしれませんね。
私は、世田谷区と渋谷区の制度の違いに注目しています。日本において、どんな形で同性のパートナーシップを可視化し、認めていくのがいいのかを考える、いい材料になると思うからです。
たとえば、渋谷区の条例は素晴らしいものだと思いますが、パートナーシップ証明を申請するためには、公正証書を作る必要があります。真摯な関係であると証明するために——ということですが、公正証書の作成には手間や費用がかかります。それに比べると、世田谷区の制度は、より申請しやすい形だと思います。
また、渋谷区では条例を作りましたが、世田谷区は区長の決断で始めるということですので、この点にも注目しています。ただ、渋谷のような形がいいのか、世田谷のような形がいいのか、それとも他の形がいいのかは、まだ誰にも分かりません。
発行された書類を持って行けば、携帯電話の家族割引を受けられるのかとか、部屋を賃貸するときに考慮してもらえるのかなど、どれだけ役立つ制度になるのかも含めて、今後に注目していきたいと思います」
(弁護士ドットコムニュース)