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生活保護と「働く能力」の関係は? 糖尿病と腰痛の「高齢男性」2審も勝訴

2015年07月30日 19:41  弁護士ドットコム

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糖尿病や腰痛を抱える静岡市内の高齢男性(70)が「体調不良で働ける状況にないのに、働く意思がないとして、生活保護を停止されたのはおかしい」として、静岡市を相手取って停止処分の取り消しを求めていた裁判で、東京高裁(青野洋士裁判長)は7月30日、処分取り消しを命じた1審判決を維持し、静岡市の控訴を棄却する判決を下した。


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●男性は「働く能力」を活用していたか?


生活保護法では、生活保護を申請する人が生活維持のために「資産や能力を活用していること」が、保護を受けるための条件となっている。今回の裁判では、男性が「能力」を活用していたかどうか、男性が働いてお金を稼げる能力(稼働能力)があったのかどうかが、争点となっていた。



静岡市葵福祉事務所は、男性が就労指示に従わず、真面目に就職活動をしなかったなどとして、男性が稼働能力を活用していないと認定。2009年4月29日に生活保護を停止した。



一方、男性側は、その当時64歳で、3社の面接を受けたが雇ってもらえなかったことや、医師から「病気のために就労できない」と診断されていたこと、ハローワークでも「身体を治してから来て」と言われたことなどを主張。稼働能力を活用していたから、生活保護を受ける権利があったと訴えていた。



1審の静岡地裁や2審の東京高裁は、男性の主張を受け入れ、「積極的な求職活動が認められる」として、静岡市の福祉事務所の生活保護停止処分を取り消すよう命じた。



●3年前から流れが変わってきた


この裁判は、2010年4月1日に提訴されたということもあり、支援者らの間では「静岡エイプリルフール訴訟」と呼ばれていた。



この訴訟を支援してきた静岡大学の笹沼弘志教授によると「稼働能力」を理由にした生活保護の却下・停止をめぐる裁判は、同時期にいくつか起きているが、2012年に控訴審判決が出た通称「新宿七夕訴訟」から流れが変わってきたという。



笹沼教授は「稼働能力は客観的に図るのが難しいため、以前は福祉事務所のさじ加減で、保護を打ち切る口実として利用されていた。しかし、一連の裁判によって、『稼働能力』を理由にして生活保護を停止するためには、『稼働能力が活用されていないこと』を福祉事務所の側が証明しないといけない、という流れになったと思う」と指摘していた。



弁護団長の望月正人弁護士は「まだ静岡市側が最高裁に上告する可能性も残っているので、判決が確定するまで安心できない。ただ、保護停止が違法だという1審判決が維持され、勝訴できたことはよかった」と話していた。原告の男性は「判決確定後に大喜びしたいと思います」と話していた。



一方、静岡市の田辺信宏市長は「本市の主張が一部認められなかったことは非常に残念です。今後の対応につきましては、判決の内容を十分検討したうえで決定したいと考えております」というコメントを発表した。


(弁護士ドットコムニュース)