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ROLLYが語る、70年代日本ロックへの深すぎる愛情「カバーアルバムを作るため家にスタジオを作った」

2015年07月30日 18:11  リアルサウンド

リアルサウンド

ROLLY

 ROLLYが、70年代日本のロックの名曲をカバーしたアルバム『ROLLYS ROCK CIRCUS ~70年代の日本のロックがROLLYに与えた偉大なる影響とその影と光~』をリリースした。洋楽・邦楽・歌謡曲など過去のあらゆる音楽への膨大な知識と偏愛を総動員し、超大量の元ネタを駆使し、どこかで聴いたことあるけどどこにもないような、100%懐かしいネタだけど順列組み合わせで新しさを生み出すような、そしてもしその元ネタを一切知らなくても「かっこいい!」と飛びつけるような(ここ大事。だからすかんちは90年代にあんなにブレイクしたんだから)トゥーマッチなロックンロールを生み出し続けてきたのがROLLYであり、近年もそのスタンスを貫きながら活動中だが、外道に始まりフラワー・トラヴェリン・バンドやはっぴいえんどや四人囃子等を経てセルフ・カバー“恋のマジックポーション”(これだけ90年代の曲)に行き着くこのアルバムは、全体的に、彼にしては、オリジナルに忠実に作り上げている気がする(それでもいろいろネタが入っているし十二分にトゥーマッチだが)。


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 カバーやコラボやオリジナルアルバムのリリース、ミュージカル等の舞台や各種プロデュースや客演などなど、密度とスピードをどんどん上げながら走り続ける本人に、この作品の制作動機を語っていただいた。なお、インタビュアーが口を挟む間ほぼなし、な勢いでしゃべりまくってくださいましたので(これも昔から一貫しています)、わずかな質問もすべて削って、ひとり語り形式にまとめました。


■「僕はね、歌謡曲も洋楽も、全部の音楽を均等に聴いていたクチなんです」


 1990年にデビューしまして、今年で25周年。それを記念して、日本の70年代ロックのトリビュート・アルバムを出さないか、というお話を、キングレコードの夏目さんという方からいただいたのが、去年の12月ぐらいでした。それはもう願ってもないチャンスなので、1秒以内に「それはぜひやらせてください」とお返事をしました。


 夏目さんは外道のディレクターで、僕はここ2枚ほどの外道のアルバムには、1、2曲参加していて。外道のレコーディングというのはとてつもなく変わってて、行くまで録る曲を教えてくれない。で、スタジオに行って──アナログ24チャンネルのマルチで録ってて、24トラックのうち、僕に残されたトラックは1トラックだけ。で、加納(秀人)さんが「曲を1回だけ聴かせる!」って言って1回聴いて、アナログでワントラックだからテイクワンで決めないといけない。という、とてもスリリングなことをしてるんですけど(笑)。


 そして、今作の選曲をするにあたり、夏目さんと都内某所でお会いして、僕の自宅にお招きして、自分の持っている70年代日本のロックを、ああでもないこうでもないってかたっぱしから聴きまくって。3時ぐらいまで聴いたかな。もうほんと、昔の少年ですよ。椅子に座って聴くんじゃなくて、ふたりでステレオの前で正座して(笑)。


 でも、夏目さんは今まで僕のやってきたことにすごく詳しかったのと、音楽知識がとても豊富で、「この人は話が合うなあ」と思って。その日は20曲ぐらいまでしぼって、さらにしぼりにしぼってこの11曲にしました。


 外道は、今言ったみたいに、最近僕は参加していて。フラワー・トラヴェリン・バンドは、最近ドラムの和田ジョージさんとキーボードの篠原信彦さんと私と原田喧太、ベースが鮫島秀樹さんで、フラワー・トヴェリン・バンドの曲をやるバンドを組んでいるのね。はっぴいえんどは、一昨年ぐらいから年に一回、鈴木茂さんとふたりでコンサートをしてるんです。


 四人囃子とあんぜんバンドは、四人囃子の森園勝敏さんと岡井大二さん、あんぜんバンドのベースの長沢ヒロさんとサックスの中村哲さん、そこに私が入って「あんぜん囃子」というバンドをやっていて。それからムーンダンサーの「アラベスク」は、かつて青山の戸川昌子さんのライブハウス「青い部屋」でシャンソンのリサイタルをやった時に、この曲を、去年亡くなった小川文明さんのピアノで歌ったんですね。それを聴いた厚見さん(玲衣・この曲の作曲者)から電話がかかってきて、「小川くんのピアノもいいんだけどね、レコーディングする時は俺にやらせてくれ」って。


 僕、この70年代日本のロックのカバー集の前に、『グラマラス・ローリー~グラム歌謡を唄う』っていうアルバムを出したんですね。それは、70年代って洋楽のファンがいて、歌謡曲を聴く一般の人がいて、そのふたつが混じっているところがすごく少なかった。歌謡曲を聴く人は洋楽は聴かないし、洋楽を聴く人は歌謡曲をバカにしてるし。だけど僕はね、全部の音楽を均等に聴いてたクチなんですよ。


 というのも、当時の歌謡曲の作曲家って、元ネタが洋楽なのがすごくあるのね。安西マリアの「涙の太陽」、バックの演奏を聴いてると、あれはディープ・パープルなんですよ。フィンガー5の「個人授業」は完全にグラムロックだし、「夏のお嬢さん」(榊原郁恵)はスージー・クアトロの「ワイルド・ワン」だし。


 歌謡曲とロックの関係性に当時から……「『個人授業』はもうちょっと変えればゲイリー・グリッターみたいになるやん」と思ってたわけ。いつかそういうのやりたいなあと思ってたので、これの前は歌謡曲をグラムロック風に演奏するというアルバムを作った。


■「アレンジの料理のし具合の妙技を見せるっていうのが、僕の目的だったわけ」


 僕はすかんち以前からそうなんですけど……アレンジの、料理のし具合の妙技を見せるっていうのが、僕の目的だったわけ。昔ロッキング・オン・ジャパンで「すかんちがパクった元ネタ集」っていう特集をやって、「このアルバムのこの曲のこの部分から取りました」っていうのを全部書いたの。これは勝手な僕の定義ですけど……「音楽のバトンを渡す」という言葉を、最近クリス・ペプラーさんに教えてもらって(笑)。


 たとえばこのアルバムにも入っている、すかんちの「恋のマジックポーション」は、エレクトリック・ライト・オーケストラでジェフ・リンとコンビを組んでいたロイ・ウッド、彼のソロの「Oh What A Shame」という曲と、彼のバンド、ウィザードの「Rock'n Roll Winter」と、ベイ・シティ・ローラーズの「Summer Love Sensation」を合わせて、ソリッドなハードロック風味に仕立てあげて、スイート風のコーラスを付け加えた、というものだったのね。基本的なメロディはロイ・ウッドからインスパイアされていて。


 だけどそのあとに、ビーチ・ボーイズでまったく同じメロディのものがあることを発見して、「なるほど! ロイ・ウッドはビーチ・ボーイズに憧れてこの曲を書いたんだ!」と思ったら、エルヴィス・プレスリーでまったく同じメロディの曲があるんだよね(笑)。


 これこそが「音楽のバトンを渡す」っていうやつで。プレスリー亡きあと、そのメロディをビーチ・ボーイズに「はいっ!」て渡して、ビーチ・ボーイズからロイ・ウッドに渡して(笑)。


 だからほんとに僕の使命は、音楽のバトンを渡す……そのまま渡すのではなく、自分なりの味付けをして。そこが自分のアーティスト性っていうんですかね。この曲をローリーがやったらこんなふうになるよ、っていうのが私のアーティスト性だと思う。


■「これこそが『音楽のバトンを渡す』ということなんじゃないだろうか」


 で、僕も……ある日、マキシマム ザ ホルモンの「恋のメガラバ」って曲を……「ん? “恋の”って、すかんちっぽい曲名だぞ」と思って聴いたら……マキシマムザ亮君は、高校入試の日の朝にすかんちを聴いてから行ったという話をきいていて、そんな奴がいるんだと思ってたんだけど、その曲のギターソロが、かつて僕が「Mr.Rockn’Roller」という曲で弾いたフレーズにすごく似てて。


 それがもう、すっごくうれしかったの! 何がうれしかったかというと、すかんちのような音楽をやっているのではないところが、すごくよかった。現代のヘヴィメタルにラップが合わさった、新しいサウンドの中に僕の細胞が生きていた。これこそが「音楽のバトンを渡す」ということなんじゃないだろうか。ひょっとしたら、マキシマム ザ ホルモンを聴いている子が大人になった時に、「これ、『恋のメガラバ』のフレーズなんだよね」って弾いて、それを聴いた奴がまた次にバトンを渡して……って受け継がれていって、50年後、もはやそのフレーズの出発点は誰かわからない。けど、50年後にまったく違う音楽をやっている誰かの曲の中に、自分のギターフレーズのカケラが生きていたとしたら、自分は今この時代にここで音楽をやっていた意味があったと思う。音楽のバトンを渡せた、と。


 こないだ、『ザッツ・エンタテインメント』っていう、フランク・シナトラやフレッド・アステアがタップダンスを踊るようなミュージカル映画を観ていたら、ジョージ・ガーシュウィンの曲で(指を鳴らしながら歌い出す)「♪ダーダダダーダダーダダダーダー」──ディープ・パープルの「Burn」なんです(笑)。「これかあ!」って。そういえばリッチー・ブラックモアの曲の中にはたまに、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」のフレーズとかも出てくんの。だから、ディープ・パープルみたいな音楽をやっている人がディープ・パープルみたいなフレーズを出すんじゃなくて、違うジャンルの奴がそのフレーズを出してくるところに意味があるんだよね。


 これからも、自分の音楽への情熱が、音楽の遺伝子が……何百年経って風化してしまって、僕の細胞が大気に分散されて風になっても、自分の生きていた証が音楽の中に残ってくれたらうれしいなと思うし、誰かの心の中に残ってくれたらうれしいなと思うし。今回はこのアルバムで音楽のバトンを渡せたので、これからもやっていきたいと思っています。


■「サイモン&ガーファンクル並にボーカル重視で作った」


 それで今回この『ROLLY'S ROCK CIRCUS』は……今言ったようにアレンジの妙技をお見せしていたんですが、いざやろうとしたら、あまりにもオリジナルへの思いが深すぎて、いじることができなかった。こう変えればいいっていうアイディアは浮かぶんだけど、それは違うような気がしたわけ。


 今回は25周年を記念して、原点に戻って、中学時代の、本当にこれを聴いていた小僧が、今の自分のスキルを使ってやる、そういうものにしようと。だから今回 「アラベスク」と「恋のマジックポーション」以外は、BPMはオリジナルとまったく同じです。ガイドのドラムを組んでもらって、ガイドのピアノを入れて、まずボーカルから先にレコーディングした。


 そう、このアルバムを心置きなく作るために、自宅でレコーディングできるようにしたんです。外のスタジオだと予算の関係で「そろそろ」って言われるとかね。時間がないとイヤだったから、家にスタジオを作ろうと。最新型の機材を全部買って、歌も録れるようにして、ドラム以外は全部家で録りました。


 歌を先に入れたのは、たとえば現代のJ-POP、アイドルとかアニメ音楽全盛じゃないですか。あれは作家の方が発注されて、トラックを作って、歌がいちばん最後なのよね。ということは、ボーカル不在のままオケが作られる。音楽でいちばん大切なのは歌だと思うんですよ。歌が入ってないところにオケを作るから不安になる。不安になるからオケをものすごい音圧で分厚く作って、最後に頼りないボーカルが入る。ボーカルが入ってないからそうなる。


 だから僕はサイモン&ガーファンクル並にボーカル重視で作った。最初に歌とコーラスがあれば、そこにはあと何が必要か自ずと見えてくると思って。だから、すごくシンプルな音にしましたね。ギターとかのオーバーダブも極力少なくして。僕の血となり肉となった先輩たちのギター・フレーズを変えるわけにはいかんかったし、自分が本人になりきって弾きました。普段だったらもっといろいろ混ぜるんやけど、今回だけは……いつも、上半身と下半身と顔半分は全然違う人間のパーツを無理やりくっつけてフランケンシュタインみたいにしていたのが、今回は、基本的な骨格は同じひとりの人間だ、っていう感じにしましたね。でもお化粧のしかたとかは変える、それぐらいの感じで。


■「僕はカバーアルバムって、悪くないと思うんですよ」


 そして今回、1曲だけ自分の曲、「恋のマジックポーション」を入れたんですけど。この曲はさっき話したように、ロイ・ウッドとベイ・シティ・ローラーズをスイートの「Action」風に演奏した、70年代ロックのつもりでやってたんですけど、今回録音してみると……自分の曲も、さすがに24年も経つと、自分のものじゃないように聴けるのね。改めて聴くと、70年代にはこういう曲なかったな、ということがわかった。僕が1991年に、70年代ロックを食べてひねり出した「恋のマジックポーション」は、決して70年代のものを模倣した曲ではなく、70年代のものをくっつけて新しいものを作ってたんだ、って、20何年かぶりに録音して思った。


 実はこの曲に関して、僕の曲はなくてもいいんじゃないかと思ってたんですけど、夏目さんが「これはぜひ、ひとつ!」って。それでやってみたら、よかった。アルバムの最後に「で、こうなりましたよ、私は」っていうこの曲を入れてよかったなと思いました。ナマクラ刀で25年間やってきた、藤山寛美的な感じっていうんですかね。自分自身を見つめ直すことができました。「恋のマジックポーション」自体も、今の自分にとっては今のこのバージョンの方が、ソリッドでうまくできたように感じます。


 音楽のバトンを渡すという意味で、日本の70年代ロックの楽曲の良さをみなさんに知ってもらいたいという気持ちと、もしこのアルバムが好評を得て、「第二弾やってもいいよ」と言うならば、前回は1秒以内に「はい!」と言いましたが、次回は「ROLLYさん……」「はい!」と食い気味に言います(笑)。


 あのね、僕はカバーアルバムって、悪くないと思うんですよ。僕の熱狂的なファンの人はね、全曲オリジナルでやってほしいと言ってくださる方もいると思うんですが、たとえば……デフ・レパードがカバーアルバム出したじゃないですか(『Yeah!』/2006年)。T-REXの「20th Century Boy」とか、スイートの「Hell Raiser」、フェイセズの「Stay with Me」とか入ってて。最近のデフ・レパードのオリジナルアルバムとそっち、どっち買うかっていったら、絶対そっち買う、僕(笑)。だっていい曲なんだもん。絶対ハズレがない。だから僕は言います、このアルバムも絶対ハズレがないです。(兵庫慎司)